【第58回原産年次大会】学生と描く原子力産業の未来
16 Apr 2025
大会2日目のセッション4「新規建設に向けて:学生と描く原子力産業の未来」では、前半に、原子力発電所の新規建設に関わる企業4社から開発状況と展望に関する講演があり、後半では4名の学生が加わってのパネルディスカッションが行われた。企業からの登壇者は、遠藤慶太氏(日立GEニュークリア・エナジー)、佐藤隆司氏(東芝エネルギーシステムズ)、平松晃佑氏(三菱重工業)、ユセフ・ファルガニ氏(フラマトム社)の4名。学生パネリストとして、岡田ひなた氏(福井工業高等専門学校)、黒木裕介氏(名古屋大学大学院)、加藤巧人氏(東京都市大学)、川谷千晶氏(芝浦工業大学)が登壇し、原子力産業に対するイメージとそれぞれが見出している未来像について語った。山路哲史氏(早稲田大学教授)がモデレーターを務め、日本で原子炉の新設を迎えるにあたり、未来を見据えた議論を促した。
冒頭、モデレーターを務めた早稲田大学教授の山路哲史氏は、原子力発電が直面する課題を概説し、福島第一原発事故後の状況を踏まえ、既存炉の廃炉、新型炉の開発など幅広い取り組みの必要性を指摘。「原子力技術は相互に関連し合い、安全性の向上に役立つ研究が多く存在する」として、次世代炉開発の重要性を強調した。
続いて各企業からの講演があり、各社が取り組む次世代原子炉について紹介された。
日立GEニュークリア・エナジーの遠藤慶太氏は、同社が開発する革新軽水炉「HI-ABWR」、小型軽水炉「BWRX-300」、軽水冷却高速炉「RBWR」、小型液体金属冷却高速炉「PRISM」の開発状況を説明。デジタル技術やロボット技術が原子力分野にも積極的に活用されていることを強調し、学生に対して「皆さんが描きたい将来は何か、その将来をどう切り拓きたいか」と問いかけると同時に、多様な学問領域が集まり、国内外のエンジニアとの共創を通じて新しい分野、未知の分野に挑めると述べた。
東芝エネルギーシステムズの佐藤隆司氏は、同社が開発を進める革新軽水炉「iBR」の技術的特徴や、安全性を向上させるための受動的安全システム、機械学習を活用したAI技術やロボットによる点検技術の応用例のほか、重粒子線治療装置なども紹介。「原子力業界は多彩な専門性を持つ人々が活躍できる領域が広がっている」と述べ、職種や年齢を超えた幅広い人材の参画を求めた。
三菱重工業の平松晃佑氏は、同社が開発を進める革新軽水炉「SRZ-1200」について、設計の概要や特徴的な安全対策を詳説。自然災害への対応やテロ対策、再生可能エネルギーとの共存を目指す点に触れつつ、自身が取り組む炉心監視装置の開発に関しても紹介。国内プラントで初導入となる技術であることや、海外ベンダーとの技術交流の必要性についても語り、技術的挑戦の面白さと社会的な意義を融合させることの重要性を訴えた。
フラマトム社のユセフ・ファルガニ氏は、低炭素エネルギーとしての原子力発電の重要性を指摘。特に欧州でのEPR(欧州加圧水型炉)建設プロジェクトに関わった実務経験を通じ、原子力発電所の新規建設は、単に電力確保だけでなく、今後50年にわたって低炭素エネルギーを維持するための取り組みであり、若い世代にとって大きなインパクトを生み出せる場になると強調した。
後半のパネルディスカッションでは、原子力産業の未来と新技術の開発、グローバルな視点での若手が参画することの魅力などについて意見が交わされた。
岡田氏は、福井工業高等専門学校 専攻科 環境システム工学専攻2年生で、専門は材料科学。光硬化性樹脂を用いた接着剤を研究する。地元の敦賀市には原子力関連施設があり、身近に感じていたことから原子力に対するマイナスのイメージはなかった。軽水炉の動向を知り、原子力発電所の新設が、近い将来まで迫っていることを実感する。原子力業界は、様々な分野の人との関わりがあり、新しい知識を吸収できる環境だと岡田氏の目には映る。新設は全国的なニュースになるだけではなく、議論を呼ぶことで学生の進路選択にも大きな影響を与える可能性があるという考えを述べた。
黒木氏は、名古屋大学 大学院 工学研究科 総合エネルギー工学専攻 修士1年生。研究するのは、次世代革新炉の中でも炉心溶融を起こさず高温の熱源としても利用できる高温ガス炉。2023年2月に閣議決定されたGX実現に向けた基本方針において、実証炉の運転が2030年代後半に目標とされている。黒木氏は、研究を通して日本だけではなく世界のエネルギー情勢をより良くしたいと考える。原子力産業には幅広いキャリアパスや挑戦できる機会が多くあり、研究開発から、デジタル技術の活用や国際的なプロジェクトに参加するなど活躍できる分野が多いと期待を寄せた。
加藤氏は、東京都市大学 理工学部 機械システム工学科4年生で、専門をロボット研究とし、幅広い分野に興味を持つ。大学進学後は産業技術総合研究所の半導体製造技術や名古屋大学で開発されるマイクロ流体チップなど様々な研究現場を訪問し学んだ。現在取り組むロボット研究については、「分野横断的な面白さ」と「単純にロボットが好き」という動機を挙げている。自身の研究と原子力分野との共通点を「技術の幅広い応用可能性」だと述べた。
川谷氏は、芝浦工業大学 理工学研究科 社会基盤学専攻 修士1年生で、コンクリート材料を研究する。コンクリート製造時に大量の二酸化炭素が排出されるという課題に対し、副産物を使用したセメントの開発など、カーボンニュートラルの実現に向けた研究に取り組む。高校生の時に道路やトンネルなどの構造物に興味を持ち、土木工学を専攻。社会基盤を支える重要な材料であるコンクリートを学ぶことが、土木工学を広く学ぶことに繋がると考える。原子力についても関心があり、大規模なプロジェクトに携わり、社会基盤を支える仕事にやりがいを感じる、と述べた。
山路氏からは、企業登壇者に対し、前半での講演を深堀する形で新規建設が新技術のショーケースになるか、そして、イチ推しの技術について尋ねたほか、学生時代に原子力産業を進路に選んだ背景についても話題を広げた。原子力産業は、新たな研究開発に様々な技術が活かされ、技術者や科学者、スタッフなど多くの人がそれぞれの立場で関わる。山路氏は、これだけダイバーシティに富む分野はそうたくさんないのではないかと述べつつ、環境やエネルギーの革新を通じて人々の暮らしを良くしたいという共通の認識が共有される分野でもあるという見解を示し、学生を含め若手世代の積極的な参加を促し、議論を締め括った。