原子力産業新聞

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「猿橋賞」に京大・市川温子氏 ニュートリノ実験で成果

26 May 2020

T2K実験のスポークスパーソンとして国内外研究者に抱負を語る市川氏(J-PARC広報誌より引用)

「女性科学者に明るい未来をの会」はこのほど、2020年の「猿橋賞」に、「加速器を用いた長基線ニュートリノ実験(T2K実験)によるニュートリノの性質の解明」で成果をあげた京都大学大学院理学研究科准教授の市川温子氏を選定した。

「猿橋賞」は、「女性科学者に明るい未来をの会」を創設した地球化学者・猿橋勝子氏に因む学術奨励賞で、自然科学分野で顕著な研究業績を収めた女性科学者を称えるものとして1981年の初回以来、毎年1名に贈呈。現在原子力委員を務めている中西友子氏も2000年に受賞している。

茨城県東海村から岐阜県飛騨市までニュートリノが送られるT2K実験(高エネ研発表資料より引用)

市川氏が取り組んできた研究は、2008年にノーベル物理学賞を受賞した「CP対称性の破れ」(小林誠氏・益川敏英氏)と呼ばれる粒子と反粒子の性質に関する理論をさらに探求し宇宙創成の謎に迫るもの。今回の受賞で業績が評価されたT2K実験は、大強度陽子加速器「J-PARC」(茨城県東海村)で作り出したニュートリノ(超新星爆発などから発生する素粒子の一つ)を、約295km離れた宇宙素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」(岐阜県飛騨市)へ打ち込みニュートリノの性質を観測する国際プロジェクト。2010年のニュートリノ初検出後、2011~13年には世界に先駆けた成果とされる「電子型ニュートリノ出現」の観測に成功。同氏は、実験の設計段階から携わり、装置完成、成果取得に至るまでリーダーシップを発揮し、「建設と実験データ解析の両面で大きく貢献を成した」と称えられた。

「スーパーカミオカンデ」による研究成果は、前身の装置も含め小柴昌俊氏(2002年)や梶田隆章氏(2015年)のノーベル物理学賞受賞につながるなど、国際的に評価されており、「J-PARC」とともに今後も装置の高度化が計画されている。25日には、「スーパーカミオカンデ」をさらに大型化し実験を行う国際プロジェクト「ハイパーカミオカンデ」計画の具体化に向け、東京大学と高エネルギー加速器研究機構とが覚書を締結した。

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