原子力産業新聞

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早大がX線とガンマ線を同時に可視化するコンプトンカメラを開発、核医学への応用に期待

28 Aug 2020

At211を投与したマウスのハイブリッド・コンプトンカメラによる撮影、中央のX線イメージングで膀胱・胃・甲状腺への集積を正しくとらえている(早大発表資料より引用)

早稲田大学理工学術院の研究チームは8月27日、X線とガンマ線を1台で同時に可視化できる「ハイブリッド・コンプトンカメラ」を開発したと発表した。〈早大発表資料は こちら

放射性物質(200keV以上のガンマ線)を可視化する装置としては、入射したガンマ線を散乱体と吸収体の2つの検出器により飛来方向を推定する小型・軽量のコンプトンカメラがあり、日本原子力研究開発機構や千代田テクノルが開発したドローン搭載型の機材が福島の環境モニタリングなどで活用されている。今回の研究成果は、このコンプトンカメラをベースとし、散乱体の中心に3×3mm程度のピンホールを開ける「アクティブ・ピンホール」という新たな仕組みを導入することで、すべてのエネルギー帯を網羅するX線・ガンマ線(数十keV~数MeV)の同時イメージングを可能にした。

同研究では、大阪大学のラジオアイソトープ総合センターで、マウスにアスタチン211を投与し撮影。アスタチン211は、放射性物質を体内に取り込むことでがん治療を行う核医学治療用のアルファ線源だが、ここでは、アルファ線と同時に放出されるX線(79keV)とガンマ線(570~898 keV)をイメージングすることで、体内に集積した薬剤の可視化を試みたところ、従来のコンプトンカメラでは困難だったX線のイメージングの有効性が実証された。

研究チームでは、今後装置を大型化し人体の薬剤の伝達可視化を目指すとしており、また、核医学治療薬がX線・ガンマ線を出す強さは薬剤によって異なることから、「ハイブリッド・コンプトンカメラ」の開発により、使用できる薬剤の選択肢が大きく広がるものと期待を寄せている。

日本アイソトープ協会の調べによると、日本における核医学治療件数は、ラジウム223製剤(アルファ線源として日本で初めて薬事認証を受けた)による前立腺がん治療の増加に伴い、2007~17年でほぼ倍増。しかしながら、米国(白血病)やスウェーデン(卵巣がん)で既に臨床利用されているアスタチン211については、いまだ基礎研究の段階にあるなど、正常細胞への侵襲が少なく多くの症例で治療効果が確認されている核医学治療では世界各国に遅れをとっている状況だ。

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