原子力産業新聞

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関西学院大、福島避難住民の生活に関し「人間の復興」の視点から調査

14 Dec 2020

関西学院大学の災害復興制度研究所はこのほど、福島第一原子力発電所事故に伴い避難した住民の生活に関する調査結果を発表した。

同研究所は、阪神・淡路大震災による学内犠牲者の発生、救援ボランティア活動の経験を踏まえ、震災から10年の節目となる2005年に設立され、「人間の復興」を理念に、人文・社会科学の側面から復興制度に係る研究を行っている。今回の調査は、兵庫県立大学、川崎医療福祉大学、その他NPOの協力で行われたもの。

調査は、2020年7~9月、生活再建支援拠点を通じて4,876件の調査票を配布し、福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えるのを前に、仕事や居住環境など、発災以前との生活の変化について尋ねた。回収数は694件(回収率14%)。

調査結果によると、回答者の年齢構成は40、50歳代が多く全体の54%を占め、平均は55.8歳。性別は男性40%、女性60%だった。震災当時福島県内に住居があった人が75%を占め、現状の避難指示については、帰還困難区域が14.4%、避難指示解除区域が20.2%、指定なしが60.1%となっている。

震災前と昨年との総収入の比較では、300万円を境に、以上が減少、未満が増加しており、収入の低下がみられた。

震災前と現在との職業については、農林水産業、会社勤め、自営業、専門職がいずれも減少する一方、臨時雇用・パート・アルバイトが15.9%から21.9%に、専業主婦が8.4%から12.2%に、無職が17.0%から27.2%にそれぞれ増加していた。

避難先での近所づきあいについては、「何か困ったときに助け合う親しい人がいる」が51.9%から19.3%に大きく減少。仕事、収入、健康、余暇、住宅、地域環境、教育環境、自然環境、公共施設、文化活動、スポーツ活動、買物、医療、交通、生活全般の計15項目に関する満足度の震災前後の比較では、買物と交通の利便性でわずかに「満足・やや満足」の増加がみられたが、すべての項目で「不満・やや不満」が増加していた。

震災前の居住地が帰還困難区域にある人については、87%が住民票を故郷に残したままとしており、避難先地域への愛着度はかなり低くなっている。また、将来福島に戻る意向では、67%が「戻るつもりはない」と回答していた。

震災前の居住地に戻っていない理由(複数回答)としては、「空間線量は下がったが山林や草地の汚染されたところが残っていると思うから」が46.1%で最も多く、「現在の居場所で落ち着いているため」が44.8%でこれに次いだほか、廃炉作業への不安、仕事や子供の学校の都合などがあげられた。

今回の調査結果では、まとめとして、「帰りたい想いと帰れない状況、様々な要因が複雑に絡み、改めて『人間の復興』を実現する状況には至っていない」と指摘。災害復興制度研究所は合わせて、原子力災害に関し、(1)避難者準市民制度の創設、(2)避難時最低所得補償の創設、(3)避難者援護法の制定と援護基金の創設――を提言した。

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