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原子力学会が中学教科書で調査報告、新学習指導要領施行踏まえ

09 Jul 2021

日本原子力学会は7月7日、2021年度から施行されている新学習指導要領(2017年告示)に基づく中学校教科書のエネルギー・環境・原子力・放射線教育関連の記述について行った調査報告書を発表。同学会の教育委員会による継続的取組で、これまでも改正学習指導要領施行の機に小中高校の教科書を調査し、エネルギー・環境・原子力・放射線教育の充実化に向け、本文、コラム、図表に対するコメント・修文案を示してきたが、今回、理科、社会、保健体育、技術・家庭の計13社・35点の中学校教科書を対象に実施した。

報告書では、全般として、「出版社独自の工夫が凝らされ優れた教科書となっている」と評価する一方、最新のデータ・図表の使用と本文との整合性に気配りした編集、原子力・放射線に関する用語の正しい使用を求め、発展的学習に関しては、生徒自らの多角的な意見を引き出す工夫が欲しいなどと要望。その上で、教科書の記述・編集に関し、(1)福島第一原子力発電所事故、(2)わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況、(3)放射線および放射線利用、(4)放射性廃棄物、(5)地球環境問題、(6)原子力エネルギー利用についての多様な学習方法の拡充――の6項目の観点から提言を示した。

福島第一原子力発電所事故に関連した事項に関しては、理科2年と技術・家庭を除くほぼすべての教科書で取り上げられていた。概ね正確・公平な記述となっていたが、「福島原発」、「福島の原子力発電所」、「福島県の原子力発電所」などの表記は、「県全体が被害を受けたような風評被害・差別につながる恐れがある」として、「東京電力福島第一原子力発電所」や「福島第一原子力発電所」とするよう要望。

新学習指導要領では、前回の改正(2008年告示)に引き続き理科第1分野(物質とエネルギー)で放射線を取り扱うこととされたが、今回調査した理科の教科書では、対象5社のすべてに放射線・放射性物質の基礎事項、関係する単位、低線量被ばくを含む健康影響などに関する記述があった。放射線に関する記述の充実化に関しては、「限られた紙面の中で幅広く基礎的な事項が取り上げられている」と評価。特に、大日本図書と教育出版が発行した中学3年の教科書中、「原子を野球場とすると、原子核はごま粒(米粒)ほどの大きさである」との記述については、ミクロレベルの物理現象の理解を助けるものとして推奨している。

放射性廃棄物に関連する記述は、一部の教科書に留まっているほか、使用済燃料について、「核のゴミ」といった放射性廃棄物そのものと誤解されるような表現があった。高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けて、北海道の寿都町・神恵内村で昨秋文献調査が始まったところだが、「将来に向けたこの課題の解決を図ることの重要性」から極力取り上げるとともに、エネルギー確保や環境保全に係る課題を学ぶ上で、より正確な記述となるよう表現を見直すことを要望。

福島第一原子力発電所事故以降の世界の原子力を巡る動きに関しては、一部の社会の教科書にみられた「ドイツやオーストリア、イタリア、ベルギー、スイスでは、国内すべての原発が廃止されることになった」との記述について、元々原子力発電を行っていないオーストリア(建設されたが運転せず閉鎖)、事故前に原子力発電の廃止を決定したイタリア(1990年閉鎖)が含まれていることから、「世界が脱原子力発電に向かっているかのような表現は適切ではない」と指摘した。

さらに、学習方法に関し、「考えるべき視点は様々で、一教科の学びで完結することはなく、教科横断の学びが必要」と強調。エネルギー問題に係る教科書の記述で、「タンカー満載の原油でもわずか半日で消費してしまう」、「原油の中東依存度は約9割」、「再生可能エネルギーはまだまだ主力の電源にはなり得ていない」を例示し、これらを互いに関連付けて考えさせる、ディベートなどの学習方法を活用できるような編集を要望している。

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