原子力産業新聞

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近畿大の研究・プロジェクトが「Newton」別冊版に集約、研究炉も紹介

19 Aug 2021

近畿大を紹介した別冊「Newton」(ニュートンプレスホームページより引用)

近畿大学が取り組んでいる研究・プロジェクトの最前線の現場がこのほど、科学雑誌「Newton」(ニュートンプレス発行)の別冊版に紹介された。〈近畿大発表資料は こちら

「Newton」別冊版では2015年にも近畿大学を取り上げているが、今回、「社会に役立つ大学をめざす実学教育のパイオニア 近畿大学大解剖 vol.2」として、同学の理系学部(理工、建築、薬、農、医、生物理工、工、産業理工、情報〈2022年度開設〉)や研究所の60人を超す教員らへのインタビューをもとに編集。近畿大学の「研究力を広く知ってもらう」ため、同学実学教育の象徴として長く実績を積んでいるマグロ養殖の他にも、幅広い分野にわたり研究成果の社会貢献や研究に取り組む学生たちの姿を取り上げており、学外の学生・教員の実習にも供される原子力研究所の研究炉「UTR-KINKI」も紹介されている。

近畿大研究炉「UTR-KINKI」(原子力学会発表資料より引用)

その中で、原子力研究所所長の山西弘城教授は、「今後、商用の原子炉が老朽化すると、廃炉の問題が出てくる。また、温室効果ガスを抑制するため、既存の原子力発電所の活用も必要となるだろう。そのためには原子力の技術を持つ人材を育成する必要がある」と、原子力教育の重要性を強調した。現在、国内で原子炉を持つ大学は近畿大学と京都大学のみだが、山西教授は、「本物の原子炉での実習は、シミュレーターやオンラインでは味わえない緊張感がある。貴重な教育用の原子炉をできるだけ長く使えるように維持していきたい」とも話している。また、医療における放射線被ばく低減に関するプロジェクトの紹介の中で、医療放射線の国際基準改定に取り組む医学部の細野眞教授も「放射線の研究を行う上で、原子炉がある近畿大学にいる意味は大きい」という。近畿大学では、2022年度より理工学部にエネルギー関連技術の人材育成を図る「エネルギー物質学科」が新設される予定だ。

昨今課題となっている新型コロナウイルス感染症対策に関しては、近畿大学の全学部・学科、附属・併設校も参加する学園横断的プロジェクト「オール近大」の取組を紹介。一例として、農学部の松田克礼教授と薬学部の角谷晃司教授が、花粉を吸着する「静電ブラインド」の応用について説明している。花粉症でつらい人がいても窓を開けて換気ができるようにする「静電ブラインド」でウイルスを吸着する可能性を見出すもので、学生時代から30年にわたり共同研究に取り組んでいる両氏に関し、「近畿大学の強みともいえる学部を横断した共同研究がコロナ禍で新たな展開を見せている」と評している。

表情が見える「近大マスク」、大阪府下の支援学校や飲食店などに7,000個以上が寄贈された(近畿大ホームページより引用)

「オール近大」プロジェクトに関し、2016~19年に経済産業相を務めていた近畿大学の世耕弘成理事長はインタビューの中で、「偏差値や受験ランキングは大学の本質的な価値を示すものではない。われわれが目指すのは本当の意味で社会に役立つ大学だ」と強調。「オール近大」の始まりとなった「福島県川俣町復興支援プロジェクト」(2012年)を振り返りながら、「未曾有のパンデミックに際して、近畿大学の総合力を活かして何かできることがあるのではないか」などと、新型コロナウイルス感染症対策に関するプロジェクト立上げの経緯を話している。研究成果として、感染症対策と意思疎通を両立する透明なプラスチック製の飛沫防止マウスシールド「近大マスク」を紹介。理工学部の西藪和明教授らが開発したもので、デザインは文芸学部の柳橋肇准教授、製作は同学が立地するモノづくりの町・東大阪市の企業が担当。世耕理事長は、「幼児教育の現場では、子供たちは大人の顔を見ながら感情を育んでいる。口が見えることはとても重要だ。聴覚障がいのある方は唇の動きや表情からも情報を得ている」と、「近大マスク」開発の意義を述べている。

「Newton」は、地球物理学の権威として知られた東京大学名誉教授の竹内均・初代編集長のもと、1981年に創刊されたカラー版の科学雑誌で、月刊誌の他、最新の科学技術動向や数学・物理の入門的内容をわかりやすく説明するいわゆる「大人の学び直し」などを特集した別冊版が随時刊行されている。

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