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都市大が深宇宙探査に向け原子力技術の可能性を考えるシンポ開催、学生からもアイデアが

26 Aug 2021

東京都市大学の理工学部と総合研究所による「宇宙探査の今後を担う新技術」について考えるシンポジウムが7月12日にオンラインで開催された。

小惑星探査機「はやぶさ2」(文科省発表資料より引用)

「はやぶさ2」による小惑星「リュウグウ」のサンプル採取や、「国際宇宙ステーション(ISS)計画」における補給機「こうのとり」の活躍など、日本の宇宙輸送システムの技術力に注目が集まりつつあるが、シンポジウムの冒頭、理工部原子力安全工学科教授の高木直行氏は、「今後の探査範囲拡大や月の地下観測を行うためには、太陽に依存しない発電方式や新たな推進方式が必要となる」と、将来の宇宙探査に向け原子力技術が貢献する可能性を示唆。また、総合研究所教授の高橋弘毅氏は、同研究所内に昨秋設置された宇宙科学研究センターのメンバーとして、「ロケット、人工衛星、望遠鏡を用いた理工連携の宇宙科学研究、それを活用した文理融合の宇宙教育に力を入れていく」と強調した上で、他大学・研究機関からも関心を持ち集まったオンライン参加者に「大いに楽しく議論して欲しい」と口火を切った。

日本は宇宙科学研究で、「はやぶさ2」に先立ち、2010年に「はやぶさ」(初号機)が月以外の天体では世界で初めて小惑星「イトカワ」から微粒子を地球に持ち帰るなど、世界トップレベルの成果をあげている。今回のシンポジウムでは、「はやぶさ」(初号機)の電源管理で様々な困難を克服した経験を持つ宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所准教授の曽根理嗣氏が基調講演を行った。

JAXAが取り組むソーラー電力セイル計画(曽根氏発表資料より引用)

同氏は日本が打ち上げてきた人工衛星に搭載された電池の変遷を紹介。太陽電池との併用(地球周回の際に太陽の影に入るときの補完が必要)で、地球資源衛星「ふよう1号」(1992~98年運用)、地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(1996~97年運用)には、ニッカド電池や酸化銀・亜鉛電池など、近年まで「古い教科書にも出てくるような電池」が用いられていたという。これらの人工衛星が電池に関わるトラブル発生により運用断念となった経験を述べ、「電源系は正にクリティカルなデバイス」と、将来の宇宙探査における電源技術の重要性を繰り返し強調。最近では、2019年ノーベル化学賞受賞の吉野彰博士らによる研究成果「リチウムイオン電池」が宇宙利用でも信頼性が実証されていることを述べ、「基礎からの研究の積み上げが宇宙探査に寄与しつつある」、「化学的に長期間耐えられるという実証は非常に大事」とした。「宇宙の電池屋」を自称する曽根氏は現在、木星系・土星系の探査を展望し、セイル(帆)膜面上に搭載した薄膜太陽光電池で発電しながらイオンエンジンを駆動して外惑星系を目指す「ソーラー電力セイル探査機」計画に取り組んでいるという。

曽根氏の講演を受けて、学生からはJAXAと他機関との原子力分野での協力について尋ねる声もあがったところで、日本原子力研究開発機構OBの植田脩三氏が「宇宙開発と原子力」と題し発表。同氏は、最近の世界の動きとして、米国の有人太陽系探査を見据えた「原子力ロケットエンジン」開発計画、ロシアのメガワット級原子炉を搭載した「スペースプレーン」開発計画、英国の宇宙局とロールス・ロイス社による提携、中国の「2045年に原子力宇宙船を実用化」との報道を紹介。その上で、原子力を宇宙で利用する方法として、(1)原子力電池(放射性同位体の崩壊を利用、ボイジャーに搭載され現在も機能)、(2)電源用原子炉(日本では月面用リチウム冷却高速炉の構想)、(3)核熱推進(原子力ロケットエンジン、火星への有人探査で飛行期間短縮が期待される)――をあげ、これらを通じて若い人たちの原子力に対する関心喚起につながることを期待した。

人類の生存圏拡大も視野に入れた宇宙のエネルギーマネジメント構想、月の自転周期や表面温度環境に着目(東芝ESS発表資料より引用)

企業からは、東芝エネルギーシステムズ原子力開発部の宮寺晴夫氏とIHI航空・宇宙・防衛事業領域の石津陽平氏が発表。宮寺氏は超小型の月面用原子炉に向けた炉心構造の検討状況や、宇宙空間でのエネルギーシステム構想を披露。石津氏は推進手段としての原子力「核熱ロケット」の原理、開発に必要な要素技術・試験に関する研究成果とともに、海外の開発事例を紹介。同氏によると、米国の原子力ロケット開発は、1950年代に「Rover/NERVA」プロジェクトが立ち上がったが、アポロの月面着陸以降、予算不足で実用エンジンの製造まで至らず中止となり、その後、燃料要素技術の地道な基礎研究が進められ、2020年発表の「DRACO」(Demonstration Rocket for Agile Cislunar Operation:迅速な月地球間活動のための実証ロケット)プロジェクトでは、2025年の地球低軌道上での実証試験目標が掲げられた。

高木教授と「追い越せボイジャー計画」のメンバー(都市大原子力安全工学科学生の発表資料より引用)

この他、理工学部の機械システム工学科と原子力安全工学科の学生が研究成果を披露。原子力安全工学科の矢口陽樹さんと橋本ゆうきさんは、「追い越せボイジャー計画」と題し発表。小惑星帯でも長期間安定して電力を供給できる「超小型原子力電池(RTG)」、放射性同位体の崩壊を利用した長寿命推進法「アルファ粒子推進エンジン」の検討から、現在地球から最も離れた人工天体とされる「ボイジャー1号」を40年で追い越す深宇宙探査の衛星システムを提案した。

学生たちからは、「原子力は世間からバッシングを受け研究のモチベーションが下がっているのでは」といった声もあがったが、学生時代に電池研究への志を周囲に否定されるもスタンリー・ウィッティンガム博士(吉野博士とともにノーベル化学賞受賞)との対面で励まされたという曽根氏は、「誰もやっていないことだからこそ研究といえる」と、若い人たちの独創的なアイデアに期待を寄せた。

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