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カナダの調査報告書:「同国製の第4世代SMRはカナダ経済に大きな利益もたらす」

15 Nov 2021

ハッチ社の分析調査報告書©Hatch Ltd.

カナダのテレストリアル・エナジー社は11月8日、同社製の小型モジュール炉(SMR)など、カナダで開発された第4世代のSMRがオンタリオ州で建設された場合、膨大な利益が同州やカナダ経済にもたらされるとの分析調査結果を発表した。

この調査は、同社がオンタリオ州を本拠地とする土木建築・コンサルティング企業、ハッチ社に委託して実施したもの。同州では現在、州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がダーリントン原子力発電所の敷地内で、テレストリアル社の小型モジュール式・一体型溶融塩炉「IMSR」を含む3つのSMR設計の中から、1つを選択して建設することを検討している。

ハッチ社によると、オンタリオ州およびカナダ全体でどれほどの規模の利益が得られるかは、この「ダーリントン原子力新設プロジェクト(DNNP)」で選択されるSMR設計にかかっている。カナダで開発されたSMR技術の場合、その設計を世界市場に輸出する可能性も含めて、数十年の間に数千億ドル規模の「触媒効果的利益」が期待できる。一方、カナダ以外の国で開発されたSMR技術では、その国のサプライチェーンが引き続き、開発企業に協力するためそうした可能性は低い。DNNPではIMSRのほかに、米GE日立・ニュクリアエナジー社製の軽水炉型SMR「BWRX-300」、および同じく米国企業のX-エナジー社が開発した小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」が候補設計に選定されている。

テレストリアル社が開発したIMSRは電力のほかに熱エネルギーを供給可能で、使用する溶融塩燃料は第4世代設計のなかで唯一、これまで軽水炉に装荷されてきた標準タイプの低濃縮ウランで製造される。同社は今年9月、IMSRと発電機を2基ずつ搭載する電気出力39万kWの改良型発電所設計「IMSR400」を発表しており、カナダで開発されているSMR設計のなかでは最大出力となる。

ハッチ社の調査報告書によると、IMSR400発電所をダーリントンで建設した場合、設計・建設段階の9年間に30億カナダドル(約2,700億円)以上の利益がカナダのGDPに追加され、年平均で2,100名以上の雇用を支えることになる。これに加えて、同発電所の運転段階で年間合計45億加ドル(約4,100億円)以上の利益が生み出され、創出される雇用は年間580名分におよぶと予測。設計から廃炉までの全期間で試算した場合は、オンタリオ州のGDPにもたらされる利益は約66億加ドル(約6,000億円)、カナダ経済に対しては79億加ドル(約7,200億円)に達するとしている。

ハッチ社はまた、第4世代の原子力発電所はカナダのみならず、世界中の発電システムの中で化石燃料に取って替わる莫大な可能性があると指摘。第4世代の原子炉技術のみが原子力の経済性を改善し、商業用原子力発電におけるカナダのこれまでのリーダーシップを永続させることができるとしている。

テレストリアル・エナジー社のS.アイリッシュCEOは、「英国グラスゴーでは各国のリーダー達がCOP26でCO2排出量の実質ゼロ化に向けた方策を話し合ったが、IMSRはカナダの数多くのサプライチェーン・パートナーと協力して開発したカナダの第4世代炉であり、カナダのみならずその貿易相手国でCO2の実質ゼロ化に貢献できる」とコメント。ダーリントン発電所でのSMR建設は、その切っ掛けになるとの認識を示している。

(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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