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米GAO 気候変動による原子力発電所への潜在的影響の検討を勧告

19 Apr 2024

大野 薫

原子力発電所にリスクを及ぼし得る自然災害の例©GAO

米国政府の会計検査院(GAO)は4月2日、原子力発電所の気候変動へのレジリエンス(回復力)を検証した評価報告書「Nuclear power plants: NRC should take actions to fully consider the potential effects of climate change」を公表した。今後、気候変動による暑さや干ばつ、山火事、洪水、ハリケーン、海面上昇、極寒などの自然災害が悪化し、原子力発電所に対するリスクが高まると予想されるなか、原子力発電所の許認可手続きで気候変動の潜在的影響を十分に考慮するよう、原子力規制委員会(NRC)に対して勧告している。

GAOは連邦議会の要請に基づいて、政府機関の財務検査や政策プログラムの評価を通じて予算の執行状況を監査する機関である。今回は、エネルギー・インフラの気候変動へのレジリエンスを検討するよう要請され、気候変動による原子力発電所への影響やそれらリスクに対処するためのNRCの行動について検証した。

今回の報告書でGAOは、許認可および監督プロセスにおける自然災害のリスクなど、NRCは発電所の安全性に対するリスクに対処していると指摘。特に、2011年の福島第一原子力発電所事故を引き起こした津波被害以降、原子炉設計における安全裕度の要件や設計の想定を超える自然災害が発生した場合の放射性物質の放出防止対策、安全機能に関連するバックアップ機器のメンテナンスなど、NRCは追加対策を講じてきた、とした。

その一方で、GAOは、昨今の深刻化する自然災害が、原子力発電所の外部電源の喪失、システムや機器の損傷、冷却能力の低下などを招き、出力の低下やプラントの停止に至る可能性に言及。さらに、米国の商業用原子力発電所の多くが1960年代~70年代に建設され、気象パターンや気候関連リスクは、建設以降変化しているとの現状認識を示したうえで、NRCが自然災害のリスクを検討するのに際し、潜在的な気候変動の影響を十分に考慮していないと明言した。具体的には、NRCが安全リスクの特定や評価の際に気候予測データを使用せず、過去のデータを主に使用している点や現在のプロセスが気候変動リスクに対処するうえで十分な安全裕度を提供していると考えられてはいるものの、NRCがこれについて立証していない点を挙げた。

これらをふまえ、GAOはNRCに対して、以下の3点を勧告している。

  1. 許認可および監督プロセスが、気候変動による原子力発電所へのリスク増大の可能性に適切に対処しているかどうかを評価すること。
  2. 既存のプロセスの評価で特定されたギャップに対処するための計画を策定し、最終決定し、実施すること。
  3. 気候予測データをどのような情報源から入手するか、いつ、どのようにこれらデータを利用するかなど、気候予測データを関連プロセスに組み込むためのガイダンスを策定し、最終化すること。

NRCはこれら勧告について、いずれもNRCが現在対応している措置と一致しているとコメント。さらにNRCは、NRCのプロセスに組み込まれた保守性と深層防護の考え方は、気候変動に起因するものを含め、認可された運転期間中、サイトで起こり得るあらゆる自然災害などに関して合理的な保証を提供していると反論した。しかし、GAOは、「許認可および監督プロセスにおいて、気候予測データを含む入手可能な最善の情報を使用しないまま、NRCが発電所への気候変動の潜在的影響を十分に考慮することはできないと引き続き考えている」との見解を示している。

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