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IEA、新型コロナの影響で世界のエネルギー需要は2020年に6%減と予測

08 May 2020

IEA報告書の表紙画像 ©IEA

国際エネルギー機関(IEA)は4月30日、新型コロナウイルスによる世界的感染(パンデミック)の影響で2020年の世界のエネルギー需要量は過去70年以上の間で最大下げ幅の6%減となるほか、これにともないエネルギー関係のCO2年間排出量も約8%減という記録的な削減になるとの見通しを発表した。

原子力発電に関しては、需要量の低下および複数の建設プロジェクトやメンテナンス計画の遅れから、2020年の発電量は2019年より2.5%減少するとIEAは予測。仮に今回の危機からの回復が早かった場合には、電力需要量は予想より増加するほか、いくつかの建設中原子炉も年内に完成、今年の発電量の低下は1%余りに抑えられるとしている。

これらはIEAの最新報告書「世界エネルギー・レビュー」で明らかにされたもので、パンデミックがすべての主要エネルギー源に及ぼした桁外れの影響をほぼリアルタイムで評価。これまでに得られた100日分以上の実データ分析に基づき、2020年の残りの期間に世界のエネルギー消費とCO2排出量がどのような傾向で推移していくかを推定した。

IEAのF.ビロル事務局長によると、今回のような見通しは「世界のエネルギー全体に及ぶ歴史的な衝撃」。健康面と経済面の両方で迎えた前代未聞の危機のなかで、主要エネルギー源のほとんどすべてで需要が急落し、特に石炭と石油、天然ガスの需要量は不安定な傾向が強い。唯一、再生可能エネルギーが電力使用量の前例のない落ち込みに対しても変動幅が小さいとした。しかし同事務局長は、パンデミックの長期的な影響を見極めるのは今のところ時期尚早だと指摘。今回のような危機を切り抜けられるエネルギー産業は、これまでとは全く違ったものになるとの見方を示している。

2020年のエネ需要量6%減、電力需要量は5%減

「世界エネルギー・レビュー」が今回提示した予測は、パンデミック対応で世界中で実施中の都市封鎖(ロックダウン)が今後数か月間に多くの国で徐々に解除されていき、経済活動も次第に回復するとの見通し基づいている。

今年のエネルギー需要量の6%減は、2008年のリーマン・ショックが引き金になった世界的金融危機時の7倍に達するもので、世界第3位のエネルギー消費国であるインド全体のエネルギー需要量に相当する空前の落ち込み。経済大国における需要量もこれまでで最大の下げ幅になると予測しており、IEAは米国で9%、欧州連合では11%低下すると見込んでいる。

また、パンデミック危機がエネルギー需要に及ぼす影響は、感染の拡大を抑える方策の有効性や実施期間に大きく左右される。IEAは一例として、4月初旬に取られたのと同程度のロックダウンが毎月実施された場合、世界のエネルギー需要量は年間で約1.5%低下するとみている。

さらに、ロックダウン期間中の電力使用量の変化は、電力需要量全体の大幅な低下を導くとIEAは説明。全面的なロックダウンにより電力需要量は20%かそれ以上押し下げられる一方、部分的ロックダウンの影響はそれよりも小さい。2020年に世界の電力需要量は5%低下することが見込まれるが、これは1930年代の世界恐慌以来の大幅な下げ幅になるとした。

これと同時にIEAは、今回ロックダウンが多くの国々でとられたことで風力や太陽光、水力、原子力といった低炭素電源への大々的なシフトが促されると指摘。これらの低炭素電源は2019年に初めて石炭火力の発電量を上回っており、2020年には石炭火力を6ポイント上回る40%まで発電量を伸ばす見通しである。中でも風力と太陽光は、2019年と2020年の初頭に完成した各国での新規プロジェクトにより、2020年の発電量を継続的に拡大させるとしている。

このような傾向は石炭と天然ガスによる発電電力の需要量に影響を与えることになり、需要量の低下と再生可能エネルギーによる発電量の増加によって、いつのまにか圧縮されていく。結果として、石炭と天然ガスを合わせた2020年の発電シェアは2001年以降見られなかったレベルである3ポイント減まで低下するとした。

ビロル事務局長は、「医療制度やビジネス、生活の基本インフラを支える信頼性の高い電力供給に近代社会がどれほど深く依存しているか、今回の危機は明確に示した」と分析。その一方で、それらを当たり前のものと受け取るべきではなく、確実な電力供給を維持するために一層の投資と賢明な政策が必要なのだと強調した。

報告書の中でIEAは、再生可能エネルギーによる発電量が2020年は回復力(レジリエンス)を発揮するものの、前年に比べて伸び率は鈍化すると予測した。もう一つの大型低炭素電源である原子力も、発電量は2019年の最高記録から一転して今年の第1四半期は約3%低下する見通し。バイオ燃料の世界全体の需要量も、2020年は実質的な低下が見込まれるとした。

2020年のCO2排出量8%減

このような傾向の結果として、IEAは2020年は石炭と石油の使用量低下が主な原因となって、世界のCO2排出量が2010年以降最も低いレベルである8%近くまで減少すると指摘。これは、リーマン・ショックにともない2009年に記録した4億トンという排出削減量の6倍近い、記録的な数値になるとした。

しかしビロル事務局長は、「パンデミックによって世界中の経済が損なわれ多くの死者が出たことを考えると、世界のCO2排出量が歴史的低レベルに下がったからといって喜ぶべきではない」と強調。経済条件が回復するにつれて、CO2排出量も急激に元通りになってしまうかもしれないが、各国政府も経済回復計画の中心にクリーン・エネルギー技術を据えるなど、今回の経験から学べることがある。これらの技術分野に投資することで、雇用を創出するとともに経済的競争力を付け、世界のエネルギーを一層クリーンかつ回復力の高いものに導けるはずだと訴えている。

(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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