原子力産業新聞

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米製マイクロ炉 英国の審査クリアで前進

12 Aug 2025

桜井久子

PWR-20の発電所完成予想図  © Last Energy

米国のマイクロ炉開発企業のラスト・エナジー社は729日、自社が開発するマイクロ炉「PWR-20」(2kWe)が英国で予備設計審査(Preliminary Design ReviewPDR)を完了したことを明らかにした。同社は英国の南ウェールズに同機を4基導入する計画であり、原子力サイト許可(NSL)の正式手続き入りをし、PDRを完了した初のマイクロ炉開発企業となった。

PDRは、英原子力規制庁(ONR)、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が実施。1年以上にわたる事前協議を経て、20252月から6月までの5か月間に実施された。PDRは、規制当局の期待に対して潜在的に重大なギャップを特定し、それらのギャップを解決するアドバイスの提供によって、申請者がNSLと環境許可に至るまでの手続きにおいてプロジェクトのリスクをより深く理解できるようにすることを目的としている。今回、組織計画と体制、環境および廃炉計画、安全性分析のプロセスと成熟度の3点からの評価に加え、PWR-20の「完全受動型で、事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)」も評価。ラスト・エナジー社はPDRの完了により、次段階の設計、安全性、セキュリティ、環境面での規制評価に向けて、個別に対応された規制ガイダンスを得たとの認識だ。なお同社は、包括的設計審査(GDA)を完了せずに、NSLと環境許可を直接申請する意向を示していた。

ラスト・エナジーUK社のM. ジェナーCEOは、「原子力の大規模導入は、脱炭素化と英国全体の経済成長に不可欠。PDRの完了は、効率的な許認可プロセスの実施に必要な指針を与えるもので、英国初となる商用マイクロ炉を実現する準備が整った」と述べた。

規制当局は、ラスト・エナジー社が掲げる「202712月までにNSLを取得する」という目標について、PDRで合意された基準とスケジュールに沿って、同社が申請を進めることを条件に達成可能としている。

2024年10月、ラスト・エナジー社は、ウェールズ南東部のブリッジエンドにあるスリンビ(Llynfi)石炭火力発電所の跡地にマイクロ炉×4基を建設する計画を発表した。同月には用地を取得、同年12月には米輸出入銀行(US EXIM)から南ウェールズでの建設プロジェクト向けに、1.037億ドルを融資する意向表明書(LOI)を取得した(最終承認待ち)。今年1月にはNSLの正式手続き入りをし、英送配電網運営会社(NGED)から2.2kWの電力供給の接続枠を獲得している。

ラスト・エナジー社は、2019年に米国の研究機関であるエナジー・インパクト・センター(Energy Impact Center)からスピンオフした企業で、従来の原子力発電所建設プロジェクトが抱える時間面・コスト面の課題を解決することを目指している。同社の開発したマイクロ炉「PWR-20」は、加圧水型炉がベース。大量生産を前提としたモデルで、数十のモジュールから構成されており、工場での製造、輸送、サイトでの組立てを24か月以内に完了できるという。

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