原子力産業新聞

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台湾 馬鞍山発電所の運転再開めぐる国民投票不成立

25 Aug 2025

桜井久子

馬鞍山原子力発電所 Ⓒ Taiwan Power Company

台湾では823日、台湾南部の屏東県にある馬鞍山原子力発電所(PWR, 1号機:98.3kW2号機:97.5kW)の運転再開の是非を問う、国民投票が実施された。中央選挙委員会の発表によると、賛成が有権者総数の21.7%の約434万票に対して、反対は約151万票と賛成多数となったが、成立要件となる有権者総数の25%に達せず不成立となった。投票率は29.53%にとどまった。

投票結果を受けて、頼清徳総統は総統府で談話を発表。「投票結果を尊重し、エネルギー選択肢の多様性に対する社会の期待を理解する」と評価。「国民が求めているのは安心と安定した電力供給。政府は、『安全性に懸念がないこと』『放射性廃棄物の処分に解決策があること』『社会の共通認識』の三つの原則を遵守して原子力問題と向き合う。そのうえで、技術がより安全になり、放射性廃棄物が減り、社会的受容度が高まれば、先進的な原子力を排除することはない」と将来に期待を残した。

さらに、原子力安全は科学的に検証が必要な問題であり、一度の国民投票で解決できるものではない、と指摘。運転再開の可否については、今年5月改正の「核子反応器設施管制法(日本の原子炉等規制法に相当)」に基づき、まずは核能安全委員会(原子力安全委員会)が安全審査の方法を定め、第二に、事業者である台湾電力がその方法に基づいて自己安全検査を行う必要性があるとし、同委員会に対し、各界の意見を集めて迅速に対応するよう求めた。

国民投票の設問は、「馬鞍山原子力発電所が、安全上の懸念がないことを確認した上で、運転再開することに同意するか」。台湾の立法院(国会)で520日、馬鞍山原子力発電所の運転再開を求める、国民投票の実施提案が賛成58、反対49票で可決された。国民投票の実施は、少数野党の台湾民衆党(TPP)が主導したもの。

台湾で唯一稼働していた同発電所2号機が517日に40年間の運転期間を満了し、法律により、永久閉鎖された。国民投票実施の可決は、与党・民進党政権が掲げる目標である「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」を達成してから、わずか3日後のことであった。

台湾ではたびたび大停電が発生、産業界は安定した電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請していた。政府は再生可能エネルギーの拡大推進を掲げるが、それが主力となるまで、火力・ガス発電への依存による大気汚染、電気料金の上昇、企業の経営コスト上昇による台湾の競争力低下への懸念は高まった。最大野党の国民党(KMT)は排出ネットゼロの気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定維持を目的に、核子反応器設施管制法の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を40年から最長で20年延長とする改正法案を立法院に提出。513日に賛成61、反対50票で可決されていた。

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