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ロールス・ロイスSMR IPO検討報道 ― 資金戦略に新局面

31 Aug 2025

石井敬之

ロールス・ロイスSMRの外観イメージ図 © Rolls-Royce SMR

英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は8月30日、ロールス・ロイスSMR社が資金調達手段として新規株式公開(IPO)を含むオプションを検討していると報じた。SMR導入プロジェクトの事業化に向け、政府支援に加え、資本市場の活用が論点となりつつある。同日ロイターは、同社が「現時点でIPOを計画していない」とのコメントを伝えている。一方でFT報道では、年内の政府契約締結を目指す旨が示されており、IPOの判断は契約最終化後になるとの見方もある。

FT紙によれば、同社は投資銀行や資本市場関係者と協議し、IPOを含む将来的な資金調達策を模索しているという。既報の通り、英国政府は25億ポンド規模の支援を約束しており、まず3基(出力合計約150万kW)のSMR導入を後押しする方針だ。しかしそれを超える展開や、長期的な事業成長には追加資金が不可欠とされる。

「ロールス・ロイスSMR社」は、ロールス・ロイス社を中心とする複数企業の出資で構成されている。株主には、ロールス・ロイス(過半保有と報道)、チェコ電力(ČEZ、20%)、カタール投資庁(QIA、2021年時点で10%と公表)、BNFリソース社[1]仏独立系石油・ガス企業Perencoのオーナー一族であるペロドー家の資産を背景にした投資会社で、ロンドンに拠点を置く関連会社「BNF Resources UK … Continue reading、米コンステレーション・エナジー社が並ぶ。BNFとコンステレーションの持分は過去開示でそれぞれ約11%、約3%とされたが、ČEZ参入後の正味比率は公表されていない。IPOの是非については株主間で見解の違いがあるとされる。ロンドンは世界有数の資金供給力を持つ市場であるが、近年は新規上場が低迷しており、今回のIPOが実現すれば久々の大型案件となる。

IPO(Initial Public Offering、新規株式公開)とは、企業が株式市場に上場し、投資家から広く資金を集める仕組みを指す。資金調達力の強化に加え、透明性やガバナンス体制の強化も求められるため、事業にとって大きな転換点となる。

原子力分野では巨額の初期投資と長期の投資回収期間が特徴であり、従来は政府や電力会社による出資が主流であった。そのため、IPOを資金調達策に組み込む動きは極めて異例であり、英国が新しい事業モデルを模索していることを示す。なお、巨大インフラがIPOによって資本市場を取り込んだ先行例は少なくない。英国では送電・ガス幹線の運営会社であるナショナル・グリッドが1995年にロンドン証券取引所へ上場し、規制産業がIPOを通じて長期資金と市場の規律を取り込むモデルを示した。日本でも電源開発(J-POWER)が2004年に実施したIPOが記憶に新しい。いずれも公共性の高いエネルギー基盤を市場型資金で支える手法であり、SMR事業がIPOを選択肢に含めることは、この文脈に位置づけられる。

経営コンサルティング会社アーサー・D・リトル(ADL)は一般論として、SMRの事業化には初号機(FOAK)で発生する高コストを克服し、量産効果によって発電コスト(LCOE)を引き下げることが不可欠だと指摘している。政府支援や規制改革に加えて、資本市場の活用は初期段階の資金ギャップを埋める手段となり得る。今回の報道が示す「官+市場」モデルの模索は、この文脈に合致しており、仮に資本市場の活用(IPO等)が具体化すれば、SMRを机上の構想から商用段階へ押し上げるゲームチェンジャーになり得る━━との見方が成り立つ。

ハントン・アンドリューズ・カース法律事務所 原子力部門統括責任者/東京事務所マネージング・パートナーのジョージ・ボロバス氏は、原子力産業新聞の質問に答え、IPOの法務・規制上の含意について次のように指摘する。「IPOに伴う証券規制や開示義務はビジネス上の要件であり、原子力規制の本質を変えるものではない。原子力企業は証券規制と並行して、既存の原子力法規・規制枠組みに引き続き適合する必要がある」。また、ロンドン上場の可能性については、「ロンドン市場は世界有数の資金供給力を持ち、原子力への理解も深いが、資金アクセスは必要条件にすぎない」とした上で、「商用規模で自社技術を展開できる運用能力と、これを許す市場環境が整備されて初めて成功に近づく」と述べた。

資金モデルの先例性に関して同氏は、NuScale、NANO Nuclear Energy、Okloといった米社の上場事例を挙げ、「IPOは黒字化前でも資金を確保できる利点がある。一方で、上場後は短期の成果を求める株主の期待が強まり、事業化に要する長期戦略と衝突し得る」と総括した。

IPOの是非はまだ検討段階にとどまっているが、英国が商用SMRに資本市場を組み込むことは、国際的にも注目される。米国やカナダのSMR企業がIPOやSPAC[2]特別買収目的会社=上場済みの買収用“箱会社”を通じ、未上場企業を合併で上場させる仕組みを通じた資金調達を模索する中で、英国が欧州で先陣を切れば、今後のSMR資金調達モデルの先例となる可能性がある。もっとも、ボロバス氏が指摘する通り、資金調達は必要条件であって十分条件ではない。ロールス・ロイスSMR社の商用規模での展開能力と、英国の市場環境整備が問われる局面に入ったと言えるだろう。

脚注

脚注
1 仏独立系石油・ガス企業Perencoのオーナー一族であるペロドー家の資産を背景にした投資会社で、ロンドンに拠点を置く関連会社「BNF Resources UK Ltd」を通じてエネルギー分野を中心に長期志向の投資を行っている。一族資産を一元管理・運用するプライベートな資産運用会社であるBNF Capitalが助言役を担い、ウランなど原子力関連投資も手がけてきたと報じられている。ロールス・ロイスSMRについては、2021年にRolls-Royce Group/BNF Resources UK/Exelon Generationの3者で約1.95億ポンドを出資し、英政府の2.1億ポンド助成を呼び込む起点の一つとなった。近時ではČEZ(20%)参入後も少数株主として名を連ね、英国SMR事業の資本面で一定の存在感を示している。
2 特別買収目的会社=上場済みの買収用“箱会社”を通じ、未上場企業を合併で上場させる仕組み

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