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IEA:新型コロナ後の経済回復計画で原子力への投資も提案

24 Jun 2020

©IEA

新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大するなか、国際エネルギー機関(IEA)は6月18日、主力報告書である「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)」のスペシャル版として「持続可能な回復」を公表した。各国のエネルギー供給システムを一層クリーンかつ回復力の高いものにしつつ、パンデミックで大きな打撃を被った世界経済を立て直して雇用を押し上げるため、各国政府が2023年までの3年間に取るべき複数の方策に焦点を当てている。

IEAは国際通貨基金(IMF)と協力して取りまとめた同報告書の中で、各国政府が経済成長に拍車をかけて数百万もの雇用を創出し、CO2排出量を世界レベルで削減するための「エネルギー部門ロードマップ」を提案。新型コロナウイルスによる経済的打撃への対応策にエネルギー政策を盛り込み、①世界経済の成長率を年平均1.1%に引き上げ、②年間900万人分の雇用を創出・維持、そして③年間45億トンのCO2削減を目指すとした。また、同報告書のプランにより人々の健康と福利のさらなる向上を図るとしており、そのための投資として世界全体で今後3年間に毎年約1兆ドルが必要だとしている。

エネルギー部門の投資については、IEAは2020年に世界全体でマイナス20%というかつてないほどの落ち込みが予想されると分析。エネルギーの供給保証とクリーン・エネルギーへの移行については、深刻な懸念が生じているが、今回の報告書のプランを実行すれば、世界のエネルギー部門は強靱なものになり、今後の危機に対しても各国は十分な準備を整えることができるとした。具体的にIEAは、送電網の強化や水力発電設備のアップグレード、既存の原子力発電所の運転期間延長、エネルギー効率の改善などに投資することが重要になると強調。これらは発電所の停止リスクを低減して電力の供給保証を改善、運転のロスを減らしつつ柔軟性を拡大するほか、太陽光や風力といった変動し易い再生可能エネルギーの発電シェアを増大することに繋がるとした。

原子力に関しては、報告書の「電力」項目の中で「水力と原子力の役割維持」として取り上げており、IAEAはまず、これら2つの電源だけで低炭素な電源による発電量の70%を供給している点に言及。ただし、これらは化石燃料の輸入量削減や、電力の供給保証と顧客の値ごろ感改善に役立つ一方、多くの設備で経年化が進んでいる。また、新型コロナウイルス危機により収益が減るなど財政上の課題にも直面しており、早期閉鎖のリスクが高まるとともに新たな投資が行われる見通しも限定的である。こうした背景からIEAは、原子力という選択肢の維持を決めた国で既存設備の近代化やアップグレードに投資が行われれば、低炭素電源による発電量の急速な低下は避けられると指摘。さらに新規の設備が建設されれば、そうした電源の発電量を一層拡大することができると訴えている。

 原子力で推奨される政策的アプローチ

これらに向けて推奨される政策的アプローチとして、IEAはこれら2つの電源の開発には政府からの持続的支援が必要だと述べた。いずれも資本集約的な電源であり、開発プロジェクトに要する総投資額もエネルギー部門では最大になる。また、開発に要する期間が長期であるため、リスクと資金調達コストを抑える方法の模索は非常に重要。直接的な財政支援は必ずしも必要ではなく、長期の電力購入契約や固定価格の電力買い取り制度を通じて価格を安定させることができる。また、米国内の5州で実行されているように、CO2を出さないという原子力の貢献を認めて「ゼロ排出クレジット」を原子力発電所に提供。同国では課題満載の市場条件の下で、複数の原子力発電所が運転を継続している。

経済への影響

雇用などの経済との関わり合いに関しては、IEAは原子力によって80万人以上の雇用が確保されており、このうち約半数が発電所関係であると説明。この点で、インドや中国など新興国における近年の新規原子力発電所建設プロジェクトでは雇用が突出している。また、既存の原子力発電所の運転期間延長は設備投資額100万ドルあたり2~3人の雇用を創出、発電所の所在地では運転・保守点検管理(O&M)のための雇用が維持されている。

また、大型原子力発電所の開発プロジェクトを促進することは、多くの課題を内在しているとIEAは指摘。例として、サイト探しに長期のプロセスが必要だったり、着工前に最良の条件が揃っていた場合でも数年を要することなどを挙げた。それでも世界では、欧州も含めて少数ながら直ぐに取り掛かれる開発プロジェクトがあり、小型モジュール炉(SMR)に関しては特に、世界中の政策立案者や投資家の間で関心が高まりつつあるとしている。

CO2排出量、送電システムの回復力に対する影響

原子力は水力とともに世界のCO2排出量削減に大きく貢献しており、IEAの調べによれば先進経済諸国で原子力発電所の運転期間がこれ以上延長されなかった場合、クリーン・エネルギーへの移行で年間約800億ドルが追加で必要になるほか、消費者の電気代は約5%上昇する。また、多くの国で原子力と水力の拡大にともない石炭火力の必要性が低下。100万kWの原子力発電所があれば、年間約600万トンのCO2排出が抑えられるとした。

また、これらの電源はともに稼働率の高い低炭素電源であるため、IEAは多くの国の電力供給において必須のものになっているとした。原子力は特に、常に一定出力で発電することが可能なほか、発電システムとしての柔軟性も保有。一方、核燃料の調達先は少数のサプライヤーに限られているものの、燃料の交換頻度は18か月から2年に一度である。発電所の設計や運転上、重要鉱石への依存度も他の低炭素発電技術に比べて低い点を強調している。

(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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