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英国政府、WH社製高速炉など次世代の先進的原子炉技術開発に4000万ポンド投資

13 Jul 2020

©BEIS

英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月10日、次世代の原子力技術開発を促進するとともに、英国全土で関係の研究開発と製造で雇用を創出するため、合計4,000万ポンド(約54億1,400万円)を投資すると発表した。

その中でも、3つの先進的モジュール式原子炉(AMR)の開発を重点的に加速する方針で、米国籍のウェスチングハウス(WH)社が北西部のランカシャー州で開発中の鉛冷却高速炉、URENCO社の子会社がチェシャー州で実施している小型高温ガス炉開発、トカマク・エナジー社が南部のオックスフォードシャー州でオックスフォード大学と進めている先進的核融合炉開発には、それぞれ約1,000万ポンド(約13億5,000万円)の支援提供を約束。今後数十年にわたって低炭素な電力や熱、水素その他のクリーン・エネルギーを供給していくための技術開発を促進し、2050年までに温室効果ガスの排出量で実質ゼロ化を目指すという英国のクリーン経済復興を後押しする考えである。

これらの投資は、BEISが2018年に公表した民生用原子力部門との長期的戦略パートナーシップ「部門別協定」の重要な一部分となる。同協定でBEISは、国内エネルギー・ミックスの多様化と原子力発電コストの削減を図るため、産業界からの投資金も含めて2億ポンド(約271億円)を確保。このうち5,600万ポンド(約75億8,000万円)をAMRの研究開発に宛てるとしていた。

今回、BEISが資金提供する3つのAMR設計は従来型原子力発電所よりも非常に小さく、核反応の過程で発生する高温の熱を利用する設計。その小ささにより遠隔地での利用が推奨されるものの、中規模都市用としても十分な量の発電が可能である。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相によると、AMRはCO2排出量と地球温暖化への取組において重要部分を担う可能性が高く、3つのAMR設計への投資決定により開発企業が立地する3州では新たな雇用が直ちに創出されるのみならず、今後数十年にわたって環境防護関係の雇用が数千人規模で生み出されることになる。

BEISはまた今回の投資決定を通じて、これらの技術が民間部門の投資家にとって一層魅力的なものになる点を保証。産業界の原子炉技術開発に十分な投資を行えば、将来のモジュール式原子炉開発の拡大に向け、サプライチェーンの構築にもつながるとした。

なお、残りの1,000万ポンドのうち、BEISは500万ポンド(約6億7,700万円)を以下の英国企業に投資すると決定した。これらの企業は、国内外のモジュール式原子炉建設プロジェクトに対し、先進的な原子炉部品を製造する新たな手法を開発中。例としては、チェシャー州でURENCO社の子会社であるU-バッテリー社製のAMRを建設現場から離れた場所で製造する方法の概念開発・実証等に110万ポンド(約1億4,900万円)、ヨークシャー州のシェフィールド・フォージマスターズ社に対し、肉厚断面の大規模電子ビーム溶接に800万ポンド(約10億8,300万円)、ダービーシャー州でロールス・ロイス社の潜水艦製造に140万ポンド(約1億9,000万円)、グロスターシャー州のEDFエナジー社に137万ポンド(約1億8,500万円)、などとなっている。

また、これらを除いた500万ポンドに関してBEISは、英国の原子力規制体制の強化に向けて投入すると表明。英国が先進的原子力技術の開発と建設を目指すなか、それらを最も頑健かつ安全なものにすることを保証するためだと説明している。BEISによれば、2050年までに英国の原子力産業全体で同国経済に年間96億ポンド(約1兆3,000億円)貢献することが可能であると近年の研究により判明。約13万人分の雇用を支えるとともに、AMR技術を輸出する可能性もかなり創出されるとしている。

(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)

 

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