原子力産業新聞

海外NEWS

IEAとOECD/NEAが発電コスト予測の分析:既存炉の運転期間延長に大きな経済性

10 Dec 2020

©IEA、OECD/NEA

国際エネルギー機関(IEA)と経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は12月9日、2020年版の「発電コスト予測(Projected Costs of Generating Electricity)」を発表し、低炭素電源の発電コストが次第に低下しており、従来の化石燃料発電を下回りつつあるとの分析結果を明らかにした。

この報告書は、発電所の「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」について両機関が5年ごとに共同で取りまとめているもので、今回の報告書で9版目となる。化石燃料や原子力のほかに、風力や太陽光、水力、バイオ燃料といった様々な再生可能エネルギーなど、24か国から提供された243の発電所データを個別プラントベースで分析している。

最新版の判明事項として両機関は、国毎、地域毎に条件は異なるものの、低炭素電源が全般的にコスト面の競争力を増してきており、再生可能エネルギーについては近年、発電コストが引き続き低下中だと指摘。風力と太陽光のコストは今や、多くの国で化石燃料発電と競合できるレベルに到達したほか、原子力発電のコストもまた、近い将来さらに低下していくことが予想されるとした。その理由として、複数のOECD加盟国で開発初号機の建設プロジェクトから改善を重ね、コストの削減が進展。新規の原子力発電所は出力制御が可能な低炭素電源の中でも、発電コストが2025年には最も低いレベルになるとした。また、既存の原子力発電所で「運転期間を40年以上に延長して継続すること(long-term operation: LTO)」は、低炭素電源の中では費用対効果が最も高い電源となる。コスト比較という点では水力も同様の貢献が可能だが、それぞれの国の自然環境に大きく左右されるとの見方を示している。

結論として両機関は、国や地域毎に重要条件は必然的に異なるものの、低炭素電源の競争力が増してきたという事実が今回の報告書の洞察と指摘。低炭素電源には、風力や太陽光など出力が変動しやすい再生可能エネルギーのほかに、LTOを含む原子力や水力など柔軟性の高い電源が含まれるが、CO2価格が1トン当たり30米ドルと安価であっても高効率化していない石炭火力に競争力はない。一方、ガス火力はガスの価格が非常に低いので、北米などいくつかの特異な市場においては特に、競争力を維持することが可能。CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)が競争力を得るには、現在の市場の多くでCO2価格がこれまで以上に高くなければならないと述べた。

原子力発電の見通し

今回の報告書によると、一般的な原子力発電所における設計上の運転期間は40年であるが、これは圧力容器など取り換えの難しい主要機器で十分余裕を持った設計上の耐用年数に基づいている。しかし現在、設計機能を安全に果たす上では、その多くの機器の耐用年数が40年以上となっている。米国ではすでに、約100基の原子炉のうち90%について、運転開始当初の運転期間である40年が60年に延長された。また、いくつかのプラントでは80年まで延長されており、技術面でLTOに大きな障害がないことが確認されている。

IEAの既刊の報告書では、世界の気温上昇を50%の確率で2℃未満に留める「持続可能な開発シナリオ(SDS)」の場合、2015年のパリ協定における目標を達成するには、原子力発電設備の新規建設と既存炉で運転期間を40年以上に延長することが不可欠だと明記している。今回の報告書では、こういった既存炉の運転期間延長をしないのであれば2021年以降に最大で2,000万kWの追加設備が原子力で必要になると指摘。これに加えて、脱炭素化も進めるとなると課題の解決はますます難しくなり一層の経費がかさむが、いくつかの国では原子力や水力のように出力制御が可能な一方、莫大な資本を必要とする低炭素電源の価値が電力市場で適正に評価されていない。政治的判断によって早期閉鎖されるプラントもあることを考えると、既存炉のLTOこそ、低炭素な電源に対する投資のなかでも高い競争力を持ち続けるとしている。

(参照資料:IEAOECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

cooperation