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OECD/NEAが過酷事故後の原子力発電所の長期管理で報告書

12 May 2021

©OECD/NEA

経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は5月5日、これまでに過酷事故が発生した米国のスリーマイルアイランド(TMI)発電所とウクライナのチェルノブイリ発電所、および日本の福島第一原子力発電所という3つの原子力発電所における「過酷事故後の長期管理と対応活動」について、状況報告書を公表した。

同報告書はこれらの発電所を長期的に管理(LTM)する際、取り組むべき主要な課題や抜け落ちている情報等を特定し、これまでにLTM関係で得られた経験や知識をレビュー。また、激しく損傷した原子力サイトのLTMに対するNEA加盟国の既存の規制やガイダンス、訓練熟練度、技術基盤等を検証しており、最終的にこれらのLTMに必要な知識や対策の準備、特に汚染された冷却水の管理の合理化等について、さらなる調査が必要な分野や勧告事項などを提案している。

OECD/NEAによると、同報告書の中の「LTM」は原子炉や使用済燃料貯蔵プールの過酷事故が終息し、安定した状態になった後の管理活動を意味している。原子力発電所のLTM対応活動が目標としているのは、①発電所の損傷状態を物理的側面と放射線影響の側面から評価し、②発電所を安定した制御可能な状態で維持すること。また、③発電所でさらなる損傷を防ぐための対策や④浄化・除染作業を実行し、⑤事故で発生した廃棄物を管理する。さらには、⑥燃料/デブリの回収作業を準備・実行するほか、⑦これらすべての対応活動において発電所作業員を放射線被ばくから防護することだと説明している。

OECD/NEAが3つの発電所の情報を分析した結果、3つの事故はその性質やLTMに至る状態が異なっているため、LTM段階においても異なる課題が発生した。発電所を擁する国それぞれの規制や認可要件が課されたほか、発電所に固有のシステムや機器に対しては複雑な技術手段を必要とした。

OECD/NEAはまた、3つすべての事故後のLTMで最大の課題は、発電所が再び不安定な状態に陥るリスクや炉心と発電所の状態など、LTMに入る段階の知識が限られるなかでこれを行わねばならなかったことだと指摘。損傷した燃料の特徴や取り出しについて具体的に見ると、3つの事故では損傷した燃料の分布状態や特徴がみな独特であり、福島第一発電所では損傷した原子炉3基でそれぞれ異なっていた。TMI発電所では圧力容器の状態を調査した後、燃料の抜き取り戦略を改定しなければならなかったが、作業員の被ばく軽減対策を事前に行った上で抜き取り作業が無事に完了した。

一方、チェルノブイリ発電所では、大気中のガスと水の相互作用および核種の浸出等で劣化が進み、燃料の表面が長期的に粉化するなど、損傷燃料の健全性に影響が出ている。また、福島第一発電所では損傷した原子炉3基の燃料分布や炉心溶融物の成分、挙動等に不確定要素が多い。このように、これら2つの原子力発電所では損傷燃料を取り出す最良の戦略が未だ確立されておらず、LTMを安全に完了するまでには非常に多くの課題が山積している。

OECD/NEAはさらに、これらの発電所で実施するLTMの取り組み方法についても一般的見地から議論した。まずLTMの定義と範囲を決めたほか、原子炉を長期的に制御された状態に保つ上で必要な機能、安全なLTMのモニタリング方法を特定。続いて、LTMにおけるリスクや主要な課題を特定・分類する方法を開発、LTM活動の中で未解決の問題や技術的に欠落している部分など見つけるため、「重要活動のランク表(AIRT)」を取りまとめた。このような資料や議論に基づき、OECD/NEAは今回の報告書で以下の勧告事項を表明している。

「分野横断的な課題における知識の統合」

・原子炉や使用済燃料貯蔵プールにおける過酷事故を分析するため、計算用のツールや手法を確保。これらを過酷事故の知識基盤と統合し、事故後の原子炉を安定した状態とする影響影響緩和策の効果の予測能力を増強する。

・過酷事故後の機器や構造物の状態について知識を統合するが、ここでは原子炉を長期的に安定した状態で維持することに重点を置く。

・事故後のLTMに影響を及ぼす長期的現象(浸食・腐食反応や損傷燃料からの粉末飛散等)について、知識を国際的に共有・活用する。

・LTMの実施や合理化に向け、リスクを評価する方法やエキスパート・システムを開発する。

「分野横断的な課題に対する対策の策定」

・発電所の損傷状態とその進行状況を長期的にモニタリングする。

・LTMを支援するため、機器・システムや構造物の機能と信頼性を向上させる。

・LTMにおける作業員の職業性被ばくを軽減するため、追加の技術的手段を開発し国際的な良好事例を共有・活用する。

「個別分野における知識の統合」:3つの事故に共通する深刻な課題は汚染した冷却水の取り扱いであることから、OECD/NEAは特に冷却水管理の合理化対策をLTMの実施に際し進めることを勧告する。

・緊急時に冷却機能を長期的に維持できるよう、閉ループ式の冷却システムをできるだけ早急に手配する。

・汚染水が外部に流出するのを実行可能な限り避けるため、洪水対策や炉心溶融物の冷却戦略を策定する。

・再臨界や核分裂生成物の流出といったリスクを軽減するため、水化学的に管理された冷却水の使用について一層調査を進める。

(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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