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米国防総省、月まで航行する原子力推進システムを開発へ 

21 Jun 2021

©DARPA

米国防総省(DOD)の国防高等計画推進局(DARPA)は今年4月、「地球と月の間を一層機敏に行き来するための実証ロケット(DRACO)」プログラムで、宇宙用原子力推進(NTP)システムの開発を担当する企業2社と契約を締結したが、このほどこれら2社に重要な支援を提供する企業として、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の技術部門(USNC-Tech)を選定した。

これは、USNC社が11日付で明らかにしたもので、DRACOプログラム・第一段階の18か月間に、2種類の開発作業(トラック)のうち「トラックA」の主契約者(契約額2,200万ドル)となったジェネラル・アトミクス(GA)社がNTPシステムで使用する原子炉の予備設計を実施する。また、「トラックB」の主契約者(契約額250万ドル)であるブルーオリジン社(=アマゾン社の創業者J.ベゾス氏が創設した宇宙ベンチャー企業)は、その運用システムとなる宇宙船の概念設計と実証を担当。DARPAはDRACOプログラムで、2025年にもNTPシステムの本格的な実証を地球の低軌道上で行うとしており、USNC社は「これら2つのトラック両方に参加する唯一の企業になった」と強調している。

USNC社は現在、熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWの第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を開発中。カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、このMMRをカナダのチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をSMRとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。USNC社は今回、DODのNTPシステムのような高性能システムの開発に向けて、設計・分析能力を提供することになった。

USNC社の発表によると、月面探査などの宇宙開発に世界中の関心が高まるなか、地球から月までの宇宙空間における各国の宇宙開発機関や企業の活動は、次第に活発化している。この空間で米国の政府や企業が確実に動けるようにするには、DODが開発を進めなくてはならず、DODはDRACOプログラムで既存の推進システムをしのぐ全く新しい推進システムを開発する。NTPシステムの持つ高い推力重量比と推進効率は、DODが総合戦略で基本原則とする「機敏な対応能力」をもたらすと期待されている。また、米国の宇宙飛行士を再び月に送ることができる商業規模の能力として、NTPシステムを配備するとしている。

同社はさらに、全米3つ(科学、技術、医学)のアカデミーが実施した宇宙用NTPシステムの調査結果が示しているように、DRACOプログラムの技術的な成果の一部は、米航空宇宙局(NASA)が初の火星有人探査を目指して開発中のNTPシステムにも貢献すると指摘。DRACOプログラムではHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)が必要になるため、DODはこのような重要技術の成熟や、NTPシステムの活用に直接関わる供給チェーン、人材の確保等を支援していく考えである。

(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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