茨城県東海村。8月下旬、茨城県内の工業高校に通う16人が、原子力関連企業の仕事を体験する夏季インターンシップに参加した。まだ4月に高校へ入学したばかりの1年生が中心だ。
高校生たちはメモを取りながら、各企業の説明に聞き入る。仕事内容だけでなく、残業時間や休日、資格取得制度、入社後のキャリアまで、企業側の説明は具体的だ。企業の施設を見学するほか、実際の業務を模したワークショップも行われた。
実際に業務で使用するサーベイメーターで測定体験をする高校生たち(アトックス)
東海村周辺で進める産学官連携
インターンシップを実施しているのは、東海村に拠点を置く「原子力人材育成・確保協議会」だ。茨城県内に立地する原子力関連企業などが、人材の育成・確保を目的に2016年に設立した。東海村も活動を支援し、茨城県内の大学工学部や高専、工業高校なども特別会員として加わる。地域の産学官が連携して、人材確保に取り組んできた。
高校生向けのインターンシップも、協議会設立当初から続く取り組みの一つで、毎年夏と冬の2回実施している。県内の会員高校に案内し、興味を持った高校生が参加する。
今回参加したのは、水戸工業高校と勝田工業高校の生徒。2日間で東海村内に拠点を置く原子力関連企業9社が、企業説明や施設見学、実習などを通じてそれぞれの仕事を紹介した。
10年で変わった「採れない」の理由
協議会設立の背景には、二つの課題があった。
一つは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故後の「原子力離れ」だ。東海村では、日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究施設などを支える仕事も多く、原子力発電所が停止しても仕事そのものがなくなったわけではない。しかし、採用では「原子力」と聞くと敬遠される状況があったという。
二つ目は技術継承だ。東海村に原子力関連施設が立地してから60年以上がたち、初期から産業を支えてきた世代が退職期を迎えていた。
それから10年、採用環境は変わった。
第1回で見たように、工業高校の卒業者は少子化を上回るペースで減少している。その一方、工業高校生への求人は増え、進学を選ぶ生徒もいる。東海村の企業も、限られた人材を幅広い産業と奪い合う状況に置かれている。
協議会では毎年、高校生の就職活動が本格化する前に、進路指導教員と会員企業との交流や企業訪問の機会を設けている。教員の理解は広がってきたものの、生徒や保護者が就職先を選ぶ段階では、知名度の高い大手企業に流れる傾向があるという。
就職先の選択に関わる保護者への働きかけも試みてきた。かつては保護者向けの企業見学会を実施していたが、参加者が集まりにくいことや費用面などから、2019年を最後に実施していない。
原子力人材育成・確保協議会の海野事務局長は、国の政策転換で原子力産業への追い風を感じる一方、地域の中小企業にとって採用競争は一段と厳しくなっていると話す。
生徒たちに会社説明を行う相澤社長(東興機械工業)
その変化を、現場の企業も強く感じている。
東海村に本社を置き、原子力施設などの機械設備の保守点検を手がける東興機械工業。社員の7割近くを高卒者が占める。同社の相澤祐一社長は、採用について「厳しいことは、ずっと厳しかった」とした上で、近年の状況をこう表現した。
「震災直後の厳しさと、今の厳しさは違うんですよね」
震災直後は、原子力業界そのものを取り巻く環境が厳しかった。しかし、「ここ2年の厳しさというのは、完全に人がいない」という。例年1~2人を採用できていた同社だが、2025年度は応募者がゼロだった。
同様の声は、ほかの企業からも聞かれた。放射性物質の輸送計画などを手がけるエイ・ティ・エス(ATS)も毎年採用募集を行っているが、採用に至らない年がある。担当者は、特にここ2、3年でさらに厳しくなったと感じているという。
エイ・ティ・エスのワークショップ。放射性物質を安全に輸送するため、さまざまなリスクを考えながら、高校生たちが輸送経路を検討した
「働きやすさ」も競争に
採用環境の変化に合わせて、企業側も努力を重ねている。
東興機械工業では、それまで月1回の土曜出勤日を社員教育の時間に充てていたが、教育の時間を平日に移し、完全週休2日制に移行した。また、近隣の工業高校へ出向いてセミナーを開いたり、自社サイトに社員インタビューを掲載したりするなど、情報発信にも力を入れる。希望があれば高校生のインターンシップも随時受け入れている。
こうした取り組みを続け、2026年4月には6人の新入社員を迎えた。ただ、毎年同じように採用できるとは限らない。まもなく始まる今年度の高校生の採用について、相澤社長は、現時点で手応えを感じているのは「2人くらい」と明かす。
「色々なことをやりながら、本当に試行錯誤です」(相澤社長)
E&Eテクノサービス本社内のフィットネスジム。社員は無料で利用できる。働きやすさも同社のアピールポイントだ
今回訪問した企業では、休日や残業時間、福利厚生も大きなアピールポイントになっていた。原子力研究施設の保守や運転、実験・分析などを支援するE&Eテクノサービスでは、以前から福利厚生やワーク・ライフ・バランスに力を入れてきた。しかし近年は他企業も待遇を充実させ、担当者は「周りが追いついてきた」と感じているという。同社では毎年新たな制度を加えるなど工夫を続けているものの、働きやすさだけで他社との差を打ち出すことは難しくなってきた。他社からも同様の声が聞かれた。
人を育てるには、時間がかかる
原子力関連企業が工業高校生を求める背景には、現場の技術を身につけるまでに時間がかかるという事情もある。
東興機械工業が担うのは、ポンプやクレーンなど機械設備の保守点検だ。企業説明で繰り返したのが、「うちの会社は、モノは作っていない。人を作っている」という言葉だった。
この日、ワークショップを担当した高卒入社5年目の社員も、まだ仕事を覚えている途中だという。一方、入社11年目になると、毎年繰り返す保守点検であれば、ほとんど一人で任せられるようになる。相澤社長は、高卒人材は手を動かす現場で力を発揮するケースが多いと感じている。工業高校生も即戦力とまではいかないが、実習を通じて道具や計測機器にすでに触れているため、「仕事を教えやすい」という。
協議会の海野事務局長によると、会員企業は中途採用にも取り組む一方、若いうちから技術を教え、「叩き上げたい」というニーズも根強い。
伝えたい魅力は、参加者には届いていた
参加した生徒の一人に印象に残った企業を尋ねると、「福利厚生がいいなと思った企業です」と返ってきた。別の生徒も、「福利厚生がしっかりしていたのと、テーマパークの割引券がある企業はやっぱりいいですよね」と話す。企業がアピールしていた「働きやすさ」は、参加した高校生にもしっかり届いていたようだ。
待遇面だけでなく、「実習の時、社員さんの対応が温かい、と感じる会社が印象に残った」「自分は情報系の学科で学んでいるが、原子力業界でも生かせる仕事がありそうで、知れてよかった」といった声も聞かれた。
しかし、企業が高校生との接点を増やすだけでは、解決できない問題もある。そもそも、その入口となる工業高校の生徒自体が減っているからだ。
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工業高校から「工科高校」へ 変わる学校、届かない「いま」
高い企業ニーズがありながら、工業高校はなぜ進路の選択肢に入りにくいのか。次回は、志願者確保に取り組む東京都の「工科高校」を追う。



