減少する工業高校生、産業界にできること
工業高校生の減少に対し、15年近くにわたり高卒採用に携わってきた、高卒採用支援会社「セルアド」の渡邉宏明代表も危機感を抱いている。
「産業界にも関わっていただき、工業高校への入学者を増やしていく取り組みは、国を挙げて進めていかなければ、この先、本当に日本のものづくりを支える人材がいなくなるのではないかと危惧しています」
高卒採用の特徴について説明する「セルアド」の渡邉宏明氏

それでも高卒採用はまだ「やりよう」がある
「工業高校生の求人倍率が31.9倍という数字だけを見ると、とてつもなく高い倍率です。ただ、実はここには“からくり”があります」
多くの工業高校には3,000枚超の求人票が届いている。だが渡邉氏の経験では、学校訪問などを通じて継続的にPR活動をしている企業は、その中の1割程度にとどまり、求人票を送るだけで終わる企業も少なくないという。
「地道にPRしている企業だけで割り返せば、実質の倍率は2倍を切ることも珍しくない」と渡邉氏。
ただ、継続的に採用活動を行う企業には大手も多く、知名度や待遇面では中小企業が不利になることもある。それでも渡邉氏は、高卒採用の仕組みを踏まえて取り組むことで、中小企業にも採用の余地はまだあるとみる。その理由の一つが、学校を介して就職先を決める、高校生就活の仕組みだ。
意思決定の三者―教員・生徒・保護者にどう届けるか
高卒採用が大卒採用と大きく異なるのは、就職先を決める過程に、生徒本人だけでなく教員や保護者が深く関わる点だ。渡邉氏は、この教員・生徒・保護者を「意思決定の三者」と呼ぶ。
「それぞれが何を求め、どんな不安を抱えているかを理解した上で、情報を届ける必要があります」
企業の情報は、まず教員を通じて生徒に伝わり、そこから保護者へと届く。そのため学校訪問では、自社を売り込むだけでなく、学校側の声を聞き、「この会社なら生徒を送り出せる」と思ってもらえる関係を築くことが重要になる。
都立工科高校ドリーム・フェスタで、子どもたちにものづくりを紹介する高校生たち
一方、生徒自身も、求人票を見て興味を持った企業をインターネットで調べる。渡邉氏によれば、高卒採用に力を入れる大手企業では、高校生向けの採用サイトを設ける例もあるという。
「興味・関心があれば、今の子は必ずインターネットで検索しますよね。そこに『自分向けの情報』があるかどうかで、だいぶ変わってきます」
高卒で入社した社員がどのように成長していくのか。大卒向けの情報をそのまま使うのではなく、高校生が入社後の自分をイメージできる情報を届けることが重要だという。
採用後が次の採用を左右する
そして、採用とともに重要なのが、入社後の定着だ。渡邉氏は、高校新卒者について、特に入社1年目の支援が重要だと強調する。

厚生労働省が公表する離職状況をもとに、3年分のデータが揃う2018~2022年卒の平均を見ると、就職後3年以内の離職率は高卒37.2%、大卒32.7%と、高卒が大卒を上回る。ただ、年次別では、その差は1年目に大きく表れている(図)。2年目はほぼ同水準で、3年目は高卒が大卒を下回る。
大学生がアルバイトなどを通じて就業経験を積むのに対し、高校生は就業経験がないまま社会人になるケースも多い。渡邉氏は、社会人としての「ワンステップ目の階段が高い」と表現する。仕事に加え、一人暮らしなど新たな生活への適応が重なる場合もあり、上司や先輩、必要に応じて外部の相談相手など、複数の立場から支えることが重要だという。
こうした入社後の育成や定着は、次の採用にもつながる。生徒を送り出す学校側にとって、「入社後にどのように育ててもらえるのか」は企業を判断する材料の一つだ。高校新卒者が定着して働いていることが学校からの信頼につながり、それが次の採用へと結び付いていく。
また、若手を支える取り組みは、支える側の社員にも影響を与える。
「新入社員のサポートに参加すると、参加した社員さんの意識も高くなる。会社全体として、高卒採用・定着への一体感が上がっていくということですね」
学びと仕事をどうつなぐか
原子力産業界でも人材確保に向けた取り組みが進む一方、第1回で触れた全国工業高等学校長協会(工業系高校の校長らでつくる全国組織)は、将来の人材需要が大きくても、それだけでは中学生や保護者に具体的な進路として見えにくいと指摘していた。
中学生にものづくりを学ぶ道を知ってもらい、高校生にはその先にある仕事を示す。進路として選んでもらい、採用した後は育て、その姿を次の世代に伝えていく。工業高校生が減少する中、こうした一連の流れをどうつないでいくのか。ものづくりを支える人材の不足が見込まれる中、技術継承を急ぐ原子力産業にとっても、避けて通れない課題だ。



