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カナダ 政府系基金がダーリントン新設SMRに総額30億ドル出資

04 Nov 2025

大野 薫

準備工事が進むダーリントン・サイト©BOF

カナダのM. カーニー首相は10月23日、国営投資機関カナダ成長基金(CGF)がオンタリオ州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社による小型モジュール炉(SMR)4基の建設計画「ダーリントン新原子力プロジェクト(DNNP)」に、20億カナダドル(約2,200億円)を出資すると発表した。併せて、D. フォード・オンタリオ州首相も、州のビルディング・オンタリオ基金(BOF)を通じて、10億ドル(約1,100億円)を投資すると表明。両基金により、総額30億ドル(約3,300億円)を出資。CGFとBOFはそれぞれ15%と7.5%を取得、OPG社が過半を保有する。

DNNPはG7諸国で初となる商業用SMRの建設計画で、オンタリオ州にとっても約40年ぶりの新設プロジェクトとなる。米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社が開発した「BWRX-300」(BWR、30万kWe)を4基建設する計画で、1号機については、今年4月初旬にカナダ原子力安全委員会(CNSC)が建設許可を発給。続く5月には州政府が建設計画を承認し、現在建設に向けた準備工事が進められている。同機は、2030年末の送電開始をめざしており、2〜4号機は2030年代半ばに完成予定。総建設費は209億ドル(2.3兆円)で、完成すれば約120万世帯分の電力供給が可能となる見通しだ。

今回の出資スキームでは、政府系資金が初号機段階の建設・技術リスクを一時的に吸収し、将来的な民間投資の呼び水とする狙い。CGFのY. ボードワン社長兼CEOは「今回のスキームを足掛かりに、オンタリオ州をはじめカナダ各地で、低炭素エネルギーインフラの開発に取り組む民間投資家の参入を一層促していきたい」と述べた一方、BOFのM. フェドチシンCEOは「州のエネルギー部門への投資活性化や競争力強化、雇用創出、産業基盤のイノベーション支援につながる」と期待を示した。

カナダでは、連邦政府が2020年12月にSMR開発の国家行動計画を策定して以降、複数の州で導入に向けた検討が進められている。オンタリオ州のほか、中西部のサスカチュワン州では、州営電力のサスクパワー社がBWRX-300の採用を検討しており、 2030年代初頭の建設開始をめざしている。既に、米国との国境に近い、州南東部エステバン地域の2か所を候補地として絞り込んでいる。また、東部のニューブランズウィック州では、ARCクリーン・テクノロジー社の第4世代ナトリウム冷却・プール型高速炉「ARC-100」(10万kWe )を、モルテックス・エナジー社の第4世代の燃料ピン型熔融塩炉「Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W」(30万kWe)のそれぞれの先進炉を導入する動きが進んでいる。このように、カナダ全体で複数のSMRの並行展開が検討されており、こうした取組みは、脱炭素化とエネルギー安全保障の両立を図るカナダの「次世代原子力戦略」の中核に位置づけられている。

カナダ産業審議会(Conference Board of Canada)の試算によると、DNNPの建設段階では年間最大1万8,000人の雇用が創出され、今後65年間で国内総生産(GDP)に約385億ドル(約4.2兆円)を寄与する見込み。OPG社のN. ブッチャー社長兼CEOは「DNNPはカナダ全体の低炭素電力需要に応えると同時に、SMR輸出のプラットフォームにもなる」と述べ、国内外展開への意欲を示した。

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