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米NANO カナダ企業を買収し北米でのマイクロ炉展開を加速

12 Nov 2025

桜井久子

カナダのチョークリバー研究所におけるKRONOS MMR設置予想図 Ⓒ NANO Nuclear Energy Inc.

米国の先進原子力エネルギー企業であるナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は10月22日、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社の関連会社から、カナダを基盤とするグローバル・ファースト・パワー(GFP)社の買収を完了したことを明らかにした。NANO社は、米国とカナダで並行して建設および許認可プロセスを進めることで、北米におけるマイクロ炉分野のリーダーシップ確立を目指す。

買収によりNANO社は、カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー研究所サイト(オンタリオ州)におけるマイクロモジュール炉「KRONOS MMR」実証プロジェクトをGFP社から引き継ぐ。これには、カナダ原子力安全委員会(CNSC)へのサイト準備許可(LTPS)取得に関する手続きも含まれる。

GFP社は、CNSCによるベンダー設計審査(VDR)の第1段階を完了し、第2段階を開始しており、20193月にはLTPSの初期部分を提出するなど、重要な許認可前ステップを一部完了していた。NANO社はこの既存の基盤を活かして開発を再開する方針である。

USNC社は202410月、米国破産法第11章第363条に従い、自社技術の売却プロセスを実施することを発表。競売により同年12月、NANO社はUSNC社のMMRを含む、原子力技術資産の一部を買収し、MMRKRONOS MMR改称した。

KRONOS MMRは、TRISO燃料とヘリウム冷却を使用する第4世代の小型モジュール式の高温ガス炉。設置面積は5エーカー(約0.02平方キロメートル)未満とコンパクトで、最大4.5万kWt(1.5万kWe)の出力により、地域グリッドや再生可能エネルギーシステム、プロセス熱供給などと柔軟に連携可能。運転員の介入や外部電源なしに自動的に停止し安全状態を維持する(walk-away safe)設計であり、停電時にも独立して稼働できる完全自律マイクログリッド機能の確立を目指している。

NANO社の最高技術責任者兼原子炉開発責任者であるF. ハイデット博士は、「今回の買収は、北米のマイクロ炉開発においてリーダーシップの地位を確立するという当社の目標にとって重要な進展。GFP社が中断していたカナダでの許認可取得の取組みを再開し、設計と規制対応の両面からKRONOS MMRの開発の継続に集中する。このプロセスの合理化により、許認可取得に伴う財務上およびスケジュール上の負担が大幅に軽減され、開発と導入を加速するための資本と技術的専門知識をより戦略的に割り当てることができる」として、GFP社の買収の意義を強調した。なお、NANO社によると、USNCは約10年間にわたりMMR開発と許認可に総額1.2億ドルを投じており、今回の取引に際し、GFP社がCNSCに対して負っていた約64万ドルの債務もNANO社が引き受けた。

米UIUCでの建設準備も進行

カナダにおける進展と並行して、NANO社は1024日、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)のサイトで研究用・商業用プロトタイプとなるKRONOS MMRの建設に向けた、サイト特性評価と地盤調査のための掘削作業を開始した。同施設が、エネルギーシステムの実用化における前例のない実証実験の場となり、将来的には北米および世界中の大学、政府関係、商業施設などにおける展開モデルとなると期待されている。同社は、サイト特性評価および掘削活動から得られる地質工学的データを活用し、2026年第1四半期にもKRONOS MMRの建設許可を申請予定である。

さらにNANO社は、将来的な顧客候補として米国の技術・製造・インフラ企業であるBaRupOn社が、約15基のKRONOS MMRの導入に向けた実現可能性調査を開始すると発表した。BaRupOn社は、テキサス州ヒューストン近郊で、AIデータセンターと先進製造施設を備えた700エーカー(約2.8㎢)規模のキャンパスを建設予定で、必要電力は100kWe超に達する見通しである。

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