原子力産業新聞

海外NEWS

デンマークで「原子力発電アライアンス」設立 対話と投資促進をめざす

12 Dec 2025

桜井久子

© Nuclear Power Alliance

デンマークの業界団体、研究機関者、労組などはこのほど、同国の原子力発電導入をめぐる議論に建設的に貢献すべく、「原子力発電アライアンス」(Nuclear Power Alliance)を設立した。40年間、原子力利用が事実上禁止されてきた同国において、技術中立的な議論を提唱し、エネルギー安全保障強化のため、原子力への投資を促す狙いがある。

アライアンスには、デンマーク産業連盟、デンマーク金属労働者ユニオン、ノボ・ノルディスク財団が中心となり、化学エンジニアリング会社のトプソー、エンジニアリングコンサルタント会社のニラス、原子力への投資を目的としたプライベート・エクイティファンドなどが参加する。客観性と技術的中立性を重視した分析を提供し、政策立案者や行政、一般市民を含む幅広い層との対話を進める。

デンマーク金属労働者ユニオンのE. ニールセン・ビジネス政策責任者は、「原子力は太陽が照らさず、風が吹かない間にグリーン電力を供給し、産業界での雇用を確保するために不可欠かつグリーン移行の重要な補完技術。将来のエネルギー需要と競争力の考慮から、新たなグリーン技術を偏見なく検討、40年続いた原子力発電禁止を解除し、国際的な技術開発の一員となるため、原子力の研究開発への投資は不可欠」と語った。デンマークでは、風力、太陽光、バイオ燃料などの再生可能エネルギーが同国の電力の80%以上を占めている。

デンマーク産業連盟のT. ラニス事務局次長は、「2024年にM. ドラギ・元欧州中央銀行総裁が欧州委員会(EC)の要請を受けて作成した報告書『欧州の競争力戦略』では、エネルギーと技術は安全保障上の重要ツールであり、欧州のエネルギー価格高騰が欧州の競争力低下と外国勢力への依存の主たる要因に挙げた。欧州連合(EU)は現在、エネルギー需要の約60%EU域外から輸入しており、重要なインフラの多くが中国と米国技術に集中している。原子力は非常に手頃な価格で、予測可能で安定したエネルギーを産業に提供できる」と主張した。

アライアンスは、競争力のある電力価格の実現と、第三国依存の低減を図るには、再生可能エネルギーと原子力の両方への大規模な投資、そして産業の消費側の電化に向けた集中的な取組みが必要であるとの考えを示した。また、世界の投資家の間で原子力への関心が高まる中、デンマークが「不十分な制度設計や政府保証の不足」によって投資機会を逃さないようにすることが極めて重要だとし、かつての風力発電と同様に、原子力はデンマークをグリーン発電の革新拠点として再び注目を集める可能性を秘めていると指摘した。

さらに、国連、国際エネルギー機関、欧州委員会などの国際機関は、原子力を統合されたエネルギーシステムの中で不可欠かつ持続可能な構成要素とみなしており、デンマークのエネルギー政策はこの視点を反映すべきであると主張。なお、アライアンスが念頭に置くのは、フィンランドのオルキルオト発電所のような大型炉ではなく、小型モジュール炉(SMR)である。EUのSMR戦略にデンマークの利益が反映されるよう、国際協力の枠組みで議論を進める考えだ。

デンマークでは、1985年の議会決定以来、原子力発電利用の検討が禁止されてきたが、今年5月、国会議員がエネルギー安全保障の観点から原子力の役割を調査することを可決し、方針転換に向けた動きが始まっている。

アライアンスは、原子力をエネルギーミックスに統合すれば、供給の予測可能性が高まり、エネルギー安全保障が強化されると強調。円滑なエネルギー移行の確実に進めるには、厳密な分析と国際協力に基づく判断が必要であるとしている。

cooperation