原子力産業新聞

海外NEWS

北欧 原子力・放射線安全における協力を強化

10 Jun 2025

桜井久子

Ⓒ DSA

北欧5か国の放射線および原子力安全当局は526日、地政学的な変化と原子力の関心の高まりを受け、共同で地域協力を強化するために13の戦略的提言を含む、報告書「原子力・放射線安全における北欧協力の強化北欧戦略グループ報告書」を公表した

報告書作成に参加したのは、デンマーク緊急事態管理庁(DEMA)、デンマーク保健局放射線防護部門(SIS)、フィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)、アイスランド放射線安全機関(GR)、ノルウェー放射線・原子力安全局(DSA)、スウェーデン放射線安全局(SSM)の6機関。DSAP. ストランド局長は、「ロシアとウクライナの紛争を機に、原子力施設を有する国での現在の緊迫した安全保障状況を踏まえ、北欧諸国は国境を越えた原子力安全、放射線防護、緊急対策の必要性を認識。加えて、新たな原子力導入がノルウェーを含む複数の国で検討されており、これらの課題を北欧全体で議論することは有益である」と語った。

北欧諸国は、放射線防護および原子力安全において長年にわたる協力の歴史を持ち、各国の取組みの連携や欧州・国際レベルでの貢献が可能であると自負している。本報告書は、この基盤を活かし、現在および将来の課題に対応するための指針になると指摘している。

報告書では、13の提言を以下の4つの主要分野に分類している。

  1. 原子力安全に関する法規制
  2. 放射線防護に関する法規制
  3. 緊急事態対応
  4. 国際的な展開と支援

この作業は、2023年8月にアイスランドのレイキャビクで開催された関係当局のトップクラスの会議で、北欧協力における戦略的優先課題を検討する決定によるもの。脱炭素化やエネルギー需要の増加に伴う原子力の再評価、さらに、世界的および地域的な安全保障環境の変化を受け、より緊密な地域協力を目指している。

フィンランドとスウェーデンは最近、原子力発電所の新規建設を促進するエネルギー政策や方針を発表、ノルウェーでは、政府任命による原子力発電導入の検討委員会が来年春に提出する報告書の作成を進めている。デンマークでも原子力が公共の場で議論されるなど、原子力への関心が高まっている。各国の当局は、将来的な原子力の展開に備え、規制の調和、監督手法、専門人材の育成などに取組むほか、原子力利用の拡大に伴う、輸送や廃棄物処理にも対応する必要性を強調している。

地政学的変化と新たな脅威については、特にロシアによるウクライナ侵攻が北欧諸国の地政学立場に大きな影響を与え、北西ロシアに位置する原子力発電所やコラ半島での放射性廃棄物の貯蔵に関連する地域的なリスクを懸念している。北極圏、北大西洋、バルト海での核兵器や原子力艦船の増加もリスク要因であり、同盟国の原子力艦船の寄港などの軍事活動の増加も規制の新たな課題をもたらすものと言及している。

重大な事故が起これば、チョルノービリ事故のように放射性物質が国境を越えて拡散する恐れがある。国単独では対応能力に限界があるため、関係当局は協力して効果的な情報共有、安全評価、国民へのリスクコミュニケーション強化、さらに、国際的な支援の受入れや提供のための国内体制の強化を図る考えだ。

cooperation