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ドイツ経済相が原子力政策の再考に言及 政府内で温度差も

02 Apr 2026

石井敬之

CERAWeekで原子力政策の見直しに言及するライヒェ大臣 ©German Embassy Washington / X

ドイツの K.ライヒェ経済相 は、3月31日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで、同国の原子力政策について再考の必要性に言及。脱原子力政策の結果、電力供給の基盤を天然ガスに依存せざるをえない状況となっていることを踏まえ、エネルギー安全保障や産業競争力の観点から議論の見直しが必要との認識をあらためて示した。

FTによると、ライヒェ大臣は「現在、安定的な電力供給を担うベースロード電源として残っているのはガスのみだ」と述べ、「政治的に他の選択肢がない」と指摘した。ドイツでは、2011年に当時の A.メルケル 政権が原子力からの撤退方針を決定し、2023年までにすべての原子力発電所が停止された。再生可能エネルギーの拡大が進められてきたものの、需給調整を担う電源としてガス依存が高まっている。

こうした発言に先立ち、ライヒェ氏は3月25日に米国ヒューストンで開催された国際エネルギー会議「CERAWeek」において、ドイツの脱原子力政策について「大きな間違いだった」と明言している。同氏は同会議で、エネルギー問題について「もはや単なる経済問題ではなく、安全保障の根幹に関わる問題だ」と強調し、供給源の多様化や長期契約の確保などを通じたエネルギー体制の強靱化の必要性を訴えた。一連の発言は、同国のエネルギー政策に対する認識の変化を示すものとみられる。

こうした構造は、近年のエネルギー価格高騰により改めて課題として浮上している。欧州では中東情勢の緊迫化などを背景にガス価格が6割以上も上昇し、電力価格も高止まりしている。ドイツの電力価格は、欧州電力取引所(EEX)の先物価格ベースでフランスの約4倍に達するなど、原子力発電の比率が高いフランスとの格差が顕著となっている。欧州の電力市場では、需給調整を担う最も高コストの電源(多くの場合はガス火力)が市場価格を決定する仕組みが採られており、ガス依存度の高いドイツでは価格上昇の影響を受けやすい。一方、原子力の比率が高いフランスは燃料価格変動の影響を受けにくく、両国間の価格差を拡大させる要因となっている。

エネルギー価格の上昇は、ドイツ経済にも影響を及ぼしている。同国の主要経済研究機関が参加している「春季共同経済予測」は、エネルギー価格の上昇を背景に2026年の国内総生産(GDP)成長率を従来予測の1.3%から0.6%へと大幅に下方修正しており、エネルギー価格ショックが景気回復を押し下げていると指摘している。エネルギー集約型産業を中心に負担増が続いており、企業の投資や生産拠点の動向にも影響を及ぼす可能性がある。

こうした状況を受け、欧州では原子力を再評価する動きが広がっている。フランスをはじめ、スウェーデンやポーランドなどが新規建設や既存炉の運転延長を進めており、低炭素かつ安定した供給電源としての役割が改めて注目されている。海外メディアの間では、ドイツにおいてこれまで維持されてきた「脱原子力を前提とする政治的コンセンサス」に揺らぎが生じつつあるとの見方も出ている。

ライヒェ大臣は、ドイツとしてこうした動きに何らかの形で関与する必要性に言及し、「テクノロジーに関心を持ち続けるのか、それともガスに固執し、単一のエネルギー源への依存を続けるのかという選択だ」と述べた。もっとも、現時点で既存原子炉の再稼働を目指す方針は示されていない。政府は、小型モジュール炉(SMR)や核融合といった新技術の開発には前向きな姿勢を示しており、原子力をめぐる政策は「完全撤退」から「限定的関与」へと位置づけが変化しつつあるようだ。

一方で、政府内の見解は一枚岩ではない。報道によると、ドイツ環境省は4月1日、原子力を支持しない従来の立場を改めて示しており、エネルギー政策をめぐる温度差も浮き彫りとなっている。

エネルギー価格の高騰と経済停滞が重なる中、ドイツの脱原子力政策をめぐる議論は新たな段階に入りつつある。欧州では原子力の再評価が進む中、ドイツの対応は地域全体のエネルギー政策にも影響を及ぼす可能性がある。

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