原子力産業新聞

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【第55回原産年次大会】セッション4「核燃料サイクルの意義と期待」

15 Apr 2022

モデレーターの細川珠生氏

2日目午後のセッション4では、国内外の専門家を迎え、核燃料サイクルを取り上げた。著名なジャーナリストである細川珠生氏がモデレーターを務めた。年次大会での核燃料サイクルをテーマとしたセッションは十数年ぶり。

日本は原子力導入の初期段階から核燃料サイクルの確立を目指してきたが、核燃料サイクルを取り巻く環境は厳しいものとなりつつある。サイクル確立のキーとなる六ヶ所再処理工場の竣工が間近に迫る中、いま一度、核燃料サイクル確立の意義について、これまでの進捗もレビューしながら、今後の課題や将来に向けた期待について議論を深めるのが本セッションの狙いだ。

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初めに国際原子力機関(IAEA)核燃料サイクル・廃棄物技術部長のクリストフ・グゼリ氏が「核燃料サイクルの現在」と題して講演。SDGsの実現とサーキュラーエコノミー(CE=循環経済)のアプローチにおける核燃料サイクルの意義を強調した。

グゼリ氏 発言要旨

バックエンドの選択肢は2つある。直接処分とリサイクルだ。リサイクル、すなわち再処理は、使用済み燃料を管理するための選択肢としてすでに確立されており、日本を含む世界中で40年以上の経験がある。

再処理により抽出したプルトニウムは燃料に使用されるが、現在は多くの場合、25〜50%程度のMOX燃料を部分的に装荷し、残りはウラン燃料を装荷している。中にはフルMOX炉心にも対応できる新設計の原子炉もある。こうした軽水炉でのプルトニウムのリサイクルにより、ウラン資源の最大25%を節約することができる。ロシアでは高速炉BN-800にMOX燃料を装荷して発電している。

長期的に見ると、原子力利用が2050年に終わるわけではない。核分裂技術が地球が抱える問題の解決策の一つである限り、2150年、さらには2350年までも活用され続ける。となると資源の有効活用としての再処理は非常に重要となる。軽水炉で再処理燃料と新燃料を混合するだけでなく、近い将来、再処理のみによる燃料サイクルが成立しうる。

IAEAグゼリ部長

MOX燃料の設計/運用/管理に関するIAEAの技術レポートによると、REMIX燃料[1]使用済み燃料からウランとプルトニウムの混合物を分離せずに回収し、最大17%の濃縮ウランを加えて製造する軽水炉用の原子燃料やCORAIL[2]より高濃度の MOX 燃料と濃縮度 5%以下のウラン燃料を集合体として構成、エネルギーの低下を補うなど新しいMOX燃料も検討が進んでいる。さまざまな種類の原子炉、SMRや高温ガス炉(HTGR)についても、本年9月に開催予定のフォーラムで報告されるだろう。また、来週開催されるFR22(高速炉と核燃料サイクルに関する国際会議)の場で、多くのIAEA加盟国から賛同を得ることになるだろう。

原子力発電は2つの非常に重要なことを満たす。 エネルギー安全保障と脱炭素化だ。いずれも持続可能な開発目標(SDGs)であり、SDGsを達成するために多くの国が、原子力を視野に入れている。SDGsからさらに一歩踏み込んだところにCEがあり、それへの関心からリサイクルが後押しされている。CEというワードは、SDGsに追加されるものではなく、SDGsの一部である。CEはSDG12の「つくる責任 つかう責任」に直接関係しているのだ。

再処理は核燃料サイクルの長期的な持続可能性のために必要な、資源回収の機会でもある。原子力発電所の長期的な運転もまたCEに適合している。再処理によって廃棄物の量が減容するため、燃料サイクルの各ステップでの廃棄物回避もCEの一部だ。燃料効率改善もCEの一部になる。CEは社会的に非常によく知られた言葉である。CEと原子力を絡めて話し合うことは効果的であり、社会の中で原子力を主流化する一つの手段になるだろう。

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続いて原子力安全研究協会理事の山口彰氏(前・東京大学大学院工学系研究科原子力専攻教授)が「核燃料サイクル その価値と意義について」と題して講演。カーボンニュートラルという目標に向かって、あらためて核燃料サイクルの意義を認識すべきだと強く訴えた。

山口氏 発言要旨

山口先生

日本原子力文化財団の世論調査によると、核燃料サイクルの意義を認めている人の割合は22.7%に過ぎない。原子力発電の社会への貢献については、徐々に認知されているように感じているが、核燃料サイクルについてはほとんど知られていない。

中性子の有効利用について考えてみると、現在主流となっている軽水炉=熱中性子炉のエネルギーが極めて小さいのに対し、高速炉で発生する中性子のエネルギーは莫大である。この莫大なエネルギーを持つ中性子が、多様な価値を生むのだ。これまで日本ではウラン資源を有効に使うために、中性子を「増殖」に使おうと取り組んできた。それ以外にも中性子を用いて、高レベル廃棄物の容積を減らす、毒性を減らすことができる。将来的にはさらにまだまだ利用価値がある。つまり原子力を利用するということは、中性子を最大限利用することなのだ。それが再処理であり、核燃料サイクルであり、高速炉である。

世界の1次エネルギー消費は、年々増え続けている。原子力を含む非化石燃料の割合は小さく、CO2排出量も年々増え続けている。我々が持続可能社会を築いていくためには、さらに一歩踏み込んだエネルギーの技術開発・政策が必要になる。カーボンニュートラルという大きな制約がかかった中、エネルギーを安定して確保するためには、核燃料サイクルを用いて資源を有効利用するしかないだろう。

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続いて日本原燃社長の増田尚宏氏が講演。同社の六ヶ所再処理施設の状況を説明した。

増田氏 発言要旨

六ヶ所再処理施設は、廃棄物管理から再処理、濃縮など1か所で実施する世界に類を見ない「燃料サイクルが集結した工場」である。電力/ゼネコン/メーカーがオールジャパン体制で協力している。

六ヶ所再処理施設では新規制基準への対応として、水素爆発を防ぐ可搬型空気圧縮機の導入など、新たな重大事故対策を実施している。「設工認(工事の方法)」の対応としては、原子力発電所でいうと5-6基分の対応を1か所で実施していることになる。対応分野も多岐にわたるため、メーカーやゼネコンの担当者(約400人)が体育館で一堂に会し、連携を強化している。安全性向上対策工事には毎日5千人が従事しており、六ヶ所村特有の厳冬期対策として、コンクリート打設時の強度低下を防ぐ冬季養生、温風機を使用した塗装乾燥時間の短縮化等を実施している。

JNFL増田社長

今後も安全対策工事を設工認の審査と並行して実施していくが、竣工も間近である。2007年のガラス固化試験の不具合以降、再処理施設全体の本格的な運転は長期間中断していた。ガラス固化試験については過去の不具合を洗い出して改良し、すでに2013年には運転方法を確立しており、再稼働が近い。ただし長期間の運転中断により運転員の技術力低下リスク、工程の立ち上げリスクがあると考えており、アクションプランを定めて取り組んでいる。

運転員の技術力維持・向上のため、運転員を仏ラ・アーグ再処理工場に研修派遣し、実機運転、起動や停止操作を実施している。実機運転を通じて、剪断時の作動音や燃料端末の落下音などを肌で感じることや、パラメータの動きから運転状況を把握できるようになるなど、運転操作に自信を持てるようになったようだ。また、重大事故の対処スキル向上のため、外部電源喪失による重大事故を想定したさまざまな訓練を、繰り返し実施している。

外部知見も積極的に取り入れており、海外専門家や外部機関によるレビューを継続して実施している。特に再処理工場は化学物質を扱う「化学プラント」であることから、原子力の視野のみならず化学の視野を持ってプラント運営等にあたるよう心掛けている。

核燃料サイクルを実施するには地元の人々からの信頼が不可欠である。地元に密着した工場である特徴を活かし、地元出身の社員が広報活動を実施し、拾い上げた声を会社運営に反映させている。コロナの影響や遠隔地であることから、なかなか実際に視察してもらうことが難しくなっていることから、ウェブ視察コンテンツを導入している。

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最後に仏オラノ社最高経営責任者(CEO)のフィリップ・クノル氏が講演。気候変動問題、CEの課題解決に貢献する原子力の位置付けや日本への期待が述べられた。

クノル氏 発言要旨

JAIF年次大会は、原子力と気候問題について議論し、燃料サイクルの進化がどのようにCEの課題に取り組むことができるかをあらためて浮き彫りにする絶好の機会だ。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などで算出された数値を参考にすると、人類にとって持続可能な気候を維持するためには、地球の気温上昇を2℃未満に抑える必要がある。そのためにはCO2排出量を現在の4分の1とし、2050年の発電由来の炭素排出をゼロにする必要があり、我々の生活を電化することが重要なポイントになる。この変革には、より多くの低炭素電力が必要だ。電力需要は今後数十年で倍増し、その大部分を再生可能エネルギーのみならず原子力発電が占めることになるだろう。原子力は確実にソリューションの一部であり、持続可能な方法で気候問題に対処することに貢献している。

オラノ社のクノルCEO

フランスでは54基の原子力発電所が稼働している。原子力シェアは7割以上で、電気と熱の発生はCO2排出量の主な原因ではない。一方、日本では10基の原子力発電所が再稼働したにもかかわらず、電気と熱の発生による炭素排出が、フランスの炭素排出量のほぼ2倍である。そのため、フランスが自動車の電化、建物や産業用のエネルギー効率の改善、発電量の増加に取り組む一方で、日本は既存の電力部門の脱炭素化にも取り組まねばならない。どの国も期限は2050年であり、日本は二倍の労力と投資が必要となるだろう。

オラノの事業は、採掘、転換、濃縮から使用済み燃料の再処理まで、燃料サイクルのあらゆる分野を網羅している。また、燃料サイクル業界向けに輸送・エンジニアリングサービスも提供している。フランスは燃料リサイクルでCEの課題に対処しており、1990年代のメロックス工場の操業開始とともに、多くの国々が使用済み燃料の再処理に関心を示した。今後は、使用済みMOX燃料や廃棄物に含まれる貴重な資源を再利用して発電する機会が増えるだろう。燃料サイクルを構築することは、CEを強化し、原子力に対する国民の意識を改善するための第一歩なのだ。日本で使用済み燃料のリサイクルに成功することは、オラノにとって重要であり、日仏は信頼できる長期的な関係を築いている。

オラノはこの2年間、既存の軽水炉向けにMOX2と呼ばれる新型MOX燃料を開発している。MOX2の最初の照射実験は2030年までにPWRで計画されており、MOX装荷認可炉に実装できる新型燃料を2040年代に供給することを目標としている。

一方、商用高速炉につながる研究開発プログラムを成功させるためには国際協力が不可欠である。オラノは主要な国際パートナーシップとの連携を進めており、米国ではARDP(先進的原子炉実証プログラム)の枠組みで、テラパワー社らと協力関係を構築している。また多国間プログラムを通じて、溶融塩炉(MSR)やナトリウム冷却高速炉(SFR)などの高速炉開発を加速させていく。野心的な目標としては、2035年までにプルトニウムを燃料とする小型MSR実証機の建設に貢献したい。2050年には、MOX2を燃料とする軽水炉で構成される原子炉群が送電を開始し、SFR/MSRが軽水炉群で発生する放射性廃棄物を再処理することが想定される。軽水炉とSFR/MSRの双方にこのような相乗的な関係を築けると、高レベル廃棄物の大幅な削減につながる可能性がある。

原子力は今、再び注目されており、日本は次世代原子炉の開発に活用できる多くのノウハウを持っている。日本の三菱重工と原子力研究開発機構は最近、Natrium炉に投資を決定したが、オラノは日本のパートナーによる新型炉開発を支援する準備ができている。

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その後ここまでの講演を踏まえ、①サーキュラーエコノミー(CE=循環経済)における原子力の役割と価値、②核燃料サイクルの意義、③国民理解--の3テーマでパネルディスカッションが行われた。社会の成熟に伴い、過去に例のないほど複数の目標を同時に解決しなければならない現代において、原子力や核燃料サイクルが、いかに多くの地球規模の課題のソリューションとなりうるかをあらためて気付かされるセッションとなった。

脚注

脚注
1 使用済み燃料からウランとプルトニウムの混合物を分離せずに回収し、最大17%の濃縮ウランを加えて製造する軽水炉用の原子燃料
2 より高濃度の MOX 燃料と濃縮度 5%以下のウラン燃料を集合体として構成、エネルギーの低下を補う

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