【第59回原産年次大会】原子力産業が直面する人材の課題と展望
15 Apr 2026
第59回原産年次大会・セッション1「原子力産業が直面する人材の課題と展望」では、グローバルで原子力への期待が再び高まる中、その前提となる人材確保・育成が各国共通の課題として浮き彫りになった。海外プロジェクトの教訓や人材需給ギャップの分析を踏まえ、わが国の人材戦略や産官学連携のあり方について議論が行われた。
セッション冒頭、モデレーターの小原徹教授(東京科学大学総合研究院)は、2011年3月の震災以降、日本国内の原子力発電所の新規建設の途絶により、人材確保が困難になるとともに、経験者の高齢化・退職により、技術継承に懸念が生じていると指摘。新規建設に向けたリードタイムを見据え、サプライチェーンと一体となった人材育成や確保が急務であるとした。
フランス原子力産業協会(Gifen)のオリヴィエ・バール氏は、フランスでは大規模な原子力拡大プログラムに伴い、今後10年間で年平均約10,000人の増員が必要とされる一方、政府による明確なロードマップ提示により応募者不足は生じていないと説明。人材育成においては、ニーズに基づく教育制度の整備やメンター訓練を通じたスキル向上・定着支援に取り組んでいると述べた。
米国原子力エネルギー協会(NEI)のエリン・ハルトマン氏は、米国では原子力拡大の気運が高まる一方で、大量退職による技能継承の空白が懸念されていると指摘。特に専門技術職の確保が課題であり、コミュニティカレッジとの連携や、デジタルツインや仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を活用した訓練などにより人材育成の強化を図っているとした。
各国の課題認識には違いもみられた。三菱総合研究所の鈴木清照氏は、日本では建設経験の喪失に伴う技術継承機会の減少が課題であるとし、人材の需給ギャップの定量化と職種の可視化の必要性を強調した。まずは電気事業者を対象とした分析を行い、今後はメーカーやサプライヤーにも拡張する必要があると述べた。
三菱重工業の三牧英仁氏は、採用拡大に取り組む一方で、エンジニアの約7割が原子力学科以外の出身である現状を紹介。工業高校向けの技術指導や工場見学会を通じた、技能職人材の確保に取り組んでいるが、高卒技能者の確保が今後の課題になるとの認識を示した。
後半のパネル討論では、議論は「人材」と「サプライチェーン」に大きく収斂した。特に印象的だったのは、バール氏が「問題の本質は人材不足ではなくシステムにある」と指摘した点で、政府の明確なロードマップと教育・現場訓練の組み合わせが重要であると強調した。一方、ハルトマン氏は、人材育成が機能するためには具体的なプロジェクトの存在が不可欠であり、「仕事が見えなければ人材は育たない」と強調した。鈴木氏は、日本では特にサプライチェーンの下層(部品・材料分野)で人材不足が深刻であるため、階層構造を踏まえた対策が必要と指摘。三牧氏も、人材確保には明確な長期見通しが不可欠であるが、日本では原子力政策において長期・定量的なロードマップが不足していると述べ、産官学の役割分担の明確化が重要であるとした。
また、技術伝承については、作業プロセスの標準化や中小企業への支援の重要性が指摘されたほか、三菱重工は生成AIを活用し熟練者と非熟練者の作業差を可視化する新たな取り組みを紹介した。
海外調達をめぐっては、フランス側がローカル連携の重要性を強調する一方、米国側は国際サプライチェーンの活用継続を示すなど、アプローチの違いも浮き彫りとなった。日本側からは、国内案件を通じた建設システムの再構築が基本であるとの認識が示された。
最後に小原教授は、今回の議論には重要な示唆が多く含まれており、産官学が連携して人材基盤強化に取り組む必要がある、とセッションを締め括った。





