原子力産業新聞

国内NEWS

【第59回原産年次大会】AIは現場を変えられるか——原子力DXが直面する“次の一手”

16 Apr 2026

石井敬之

インタビューの模様は動画で

原子力産業における人材不足とデジタル変革をテーマとしたセッション2では、各社からAIやデータ活用に加え、ロボティクスやオープンイノベーションを軸とした取り組みが相次いで紹介された。かつて課題とされてきた属人化や紙ベースの情報管理に対し、変革は着実に進みつつある。一方で、その多くはなお途上にあり、現場への定着や運用での課題も浮かび上がった。セッションを通じて見えてきたのは、「変革は始まっているが、次の段階への移行が問われている」現状である。

各社に共通する「変革への着手」

セッションでは、欧米の事業者、メーカー、IT企業、建設業など、多様なプレイヤーが登壇した。立場は異なるものの、共通していたのは、過去の構造的課題を前提とした上で、それを変革しようとする明確な意思だった。

フランス電力(EDF)では、これまでのドキュメント中心の情報管理からの脱却を掲げ、「クラウドやAIを活用したデジタル基盤の再構築を進めている」(アイハン ユルドゥズ・EDF原子力・火力デジタルトランスフォーメーション部門 統括ディレクター)。紙やPDFに依存した情報管理の限界を認識し、データとして活用可能な形へ転換することで、業務効率と意思決定の高度化を図るという。

日立製作所の大坂雅昭氏(原子力ビジネスユニット 原子力事業統括本部 デジタルイノベーション本部長)は、原子力分野における技術伝承の課題に対し、ナレッジマネジメントとAIを組み合わせたアプローチを提示した。ベテランに依存していた知識を体系化し、次世代へ継承する仕組みを構築することで、属人化からの脱却を目指すという。すでに「使ってもらう段階に入りつつある」(同氏)とし、実運用への移行が進み始めていることが示された。

日本電気(NEC)の千葉雄樹氏(デジタルプラットフォームサービス BU AIテクノロジーサービス事業部門 主席プロフェッショナル AIチーフナビゲーター)は、生成AIの進展を踏まえつつも、「技術先行」の限界を指摘した。AIは多様な課題に適用可能である一方で、「何に使うか」が設計されていない場合、価値創出につながらないというのだ。実際、AI活用は「うまくいっている企業とそうでない企業の二極化」(同氏)が進んでいるとされ、技術そのものよりも、業務プロセスやデータの設計が重要であることが強調された。

一方、建設分野から登壇した村上陸太氏(建設RXコンソーシアム 会長/竹中工務店 顧問 エグゼクティブ・フェロー)は、人手不足という共通課題に対し、ロボティクスやデジタル技術を活用した「共創」による解決の必要性を強調した。個社ごとに技術開発を行う従来の在り方から、業界横断で技術を持ち寄り、実装につなげていく取り組みが進められているという。

また、米国企業のウェスチングハウス(WE)やThe Nuclear Company(TNC)からは、原子力建設の現場における複雑性と人材不足を背景に、AIやデジタル技術に加え、ロボティクスや高度な製造技術を組み合わせた最適化の可能性が提示された。WEのルー・マルティネス・サンチョ氏(最高技術責任者)は、「どれだけ技術が進んでも、人間が中心にいるという原則は変わらない」と述べ、AI時代においても人材と知識の重要性を強調した。また、TNCのスーマントラ・ゴーシュ氏(バイスプレジデント)は、「原子力は技術や政策の問題ではなく、いかにプロジェクトを実行するかが本質だ」と指摘し、大規模プロジェクトにおける経験の継承と標準化の必要性を訴えた。

各社の取り組みは一見異なるようでいて、本質的には共通している。AIやデータ活用に加え、ロボティクスの導入や企業・業界をまたいだオープンイノベーションなど、変革のアプローチは多様である。こうした取り組みを通じて進められているのは、

  • ドキュメント中心の業務からデータ活用へ
  • 属人化した知識から体系化されたナレッジへ
  • 個別最適から全体最適へ

といった、「これまでの構造」そのものを変えようとする試みである。もっとも、これらの取り組みはまだ完全に定着したとは言い難い。日立製作所の事例に見られるように、技術は「ようやく使われ始めた段階」にあり、NECが指摘するように、AI活用も成果にばらつきがある。EDFにおいても、デジタル基盤の再構築は進行中であり、完成には至っていない。つまり、各社は確実に前進しているものの、その多くは依然として「途上」にあるのだ。

「実装」のカギはどこにあるのか

こうした状況について、モデレーターを務めた澤円氏(元・日本マイクロソフト業務執行役員)は、セッション後のインタビューで次のように語った。

「どんなにいいプランや仕組みがあっても、人間の“気合”がないと前に進まない」

さらに同氏は、この「気合」について、セッション終盤で村上氏が、デジタル技術やロボティクスを活用した共創の取り組みを紹介する中で示した視点に言及しながら、次のように説明した。

「村上さんのおっしゃった、“面白がる、楽しむ”というキーワードそのものだと思います」

課題を前にしたとき、それを負担としてではなく、自ら関わる対象として捉えられるかどうか。澤氏は、その姿勢こそが変革を前に進める原動力になると強調した。

そして澤氏は、原子力における社会受容の問題にも言及。原子力においては、技術や業務の変革に加え、社会との関係も重要な論点である。澤氏は、「人は知らないものを恐れる」と指摘し、知識の共有と理解の深化が不可欠であると述べた。

また、自身がこれまで「原子力」というタグを持たない立場であったことに触れつつ、「今回で(私も)“当事者”になりました」と語り、原子力は社会と対立するものではなく、社会をより良くするための力であり、その実現には多様な人材を巻き込み、「当事者」の裾野を広げていくことが重要だと指摘。デジタル化やAI活用が進む中でも、こうした理解の拡大とコミュニティの広がりを通じた信頼関係の構築が、引き続き意義を持つと強調し、「多くの人を巻き込んで、原子力コミュニティを大きくしていきましょう」と呼び掛けた。

変革は始まっている——そして次の段階へ

セッションを通じて明らかになったのは、原子力産業がすでに変革に着手しているという事実である。各社は過去の課題を認識し、それに対する具体的な対応を進めている。しかし、それらを現場に定着させ、再現性のある形で運用していくには、さらなる取り組みが求められる。技術と制度の整備が進む中で、最終的に変革を前に進めるのは人である。

そして、その変革を持続的なものとするためには、専門領域の内側にとどまらず、外部からの視点も取り込みながら当事者を広げていくことが不可欠であり、その原動力となるのが「楽しむ力」である。

原子力DXは確実に進んでいる。その真価が問われるのは、まさにこれからなのだ。

cooperation