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理科教員に求められる科学リテラシー 琉球大学で特別授業

19 Jun 2026

石井敬之

教育学部だけでなく、理学部からも多数の学生が参加

琉球大学教育学部(沖縄県)で6月16日、理科教員を志望する学生約50人を対象に、「原子力と科学リテラシー」をテーマとした特別授業が行われた。授業では放射線の観察実験と講演、質疑応答が実施され、学生たちは科学的な知識だけでなく、科学技術をめぐる社会的課題についても理解を深めた。

授業を企画した教育学部の濱田栄作教授は、理科教員を目指す学生たちに対し、放射線や原子力を単なる知識として学ぶのではなく、科学的な事実と社会的な議論を結び付けて考える力を身につけてほしいとの思いから今回の企画を実施した。

授業前半では、静岡大学の大矢恭久准教授が霧箱を用いた放射線観察実験を実施。放射線は人間の五感では直接感じることができない。そのため大矢准教授は、「まず放射線が飛んでいることを実感することが重要」と説明。飛行機雲が発生する原理を応用した霧箱を用いて、放射線の飛跡を可視化する実験を行った。

学生たちは自ら霧箱を組み立て、アルファ線やベータ線が飛跡として現れる様子を観察した。将来、学校現場で放射線教育を行う際の教材活用についても紹介され、放射線を「見えないもの」としてではなく、観察可能な自然現象として捉える視点が示された。

後半では、科学技術と社会の関係をテーマとした講演が行われた。

講演では、原子力発電をはじめ、食品照射、遺伝子組換え作物、AIやデータセンターなど、現代社会で議論の対象となる科学技術を例に挙げながら、科学的な評価と社会的な受け止め方が必ずしも一致しないことが紹介された。また、SNSや生成AIの普及によって情報が大量に流通する時代においては、単に知識を覚えるだけでなく、情報の出所や根拠を確認し、自ら判断する力が重要になることも説明された。

質疑応答では、学生から活発な質問が相次いだ。

「原子力発電にはどのようなメリットがあるのか」という問いに対しては、安定した電力供給やエネルギー安全保障の観点が紹介された。また、AIやデータセンターの普及に伴い、世界的に電力需要が増加している現状についても説明が行われた。

さらに、「地震や津波の多い日本で原子力を利用することをどう考えるべきか」「基準値以下であれば安全と言える根拠は何か」といった質問も寄せられた。講師陣は、福島第一原子力発電所事故後に強化された安全対策や、国際的な放射線防護の考え方について解説し、科学的なリスク評価の重要性を説明した。

また、「原子力発電所が自宅の近くに建設された場合、不安にどう対処すればよいのか」という率直な質問も出された。これに対しては、科学的な安全性と心理的な安心感は必ずしも一致しないことを踏まえ、社会的な合意形成の難しさについて議論が行われた。

濱田教授は、学習指導要領に放射線教育が位置付けられている一方で、教員養成課程において原子力や放射線を体系的に学ぶ機会は決して多くないと指摘する。また、学生の多くが原子力を「科学の話」というよりも「社会問題」として捉える傾向があり、科学的知識と社会的文脈が切り離されていることを課題として挙げている。

そのため今回の授業では、放射線を実際に観察する体験を出発点とし、その後に原子力やエネルギー問題、情報リテラシーへと議論を広げる構成を採用した。科学的事実を理解した上で、多様な価値観や立場が存在する社会的課題について考えることが狙いだという。濱田教授は、「原子力に限らず、社会で議論されている科学的なテーマについて、教員自身が考え、生徒と語れる状態でいることが重要だ」と語る。

質疑応答では予定時間いっぱいまで質問が続き、終了後も講師を囲んで議論する学生の姿が見られた。濱田教授は「ここまで質問が続くとは思わなかった」と話し、「沖縄には原子力発電所がないため遠いテーマと思われがちだが、学生たちはエネルギーや科学技術をめぐる課題に高い関心を持っていることが分かった」と手応えを語った。

今回の特別授業は、放射線の観察実験から始まり、原子力やエネルギー問題をめぐる議論へと発展した。将来教壇に立つ学生たちにとって、科学的な事実を理解するだけでなく、それを社会の中でどのように伝え、どのように考えていくべきかを学ぶ機会となった。理科教育に求められるのは知識の伝達だけではない。複雑な科学技術をめぐる情報を読み解き、生徒とともに考え続ける姿勢を育むこと――。今回の授業は、その重要性を改めて示す実践となった。

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