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【第54回原産年次大会】セッション3「日本が持つべきエネルギービジョン」

15 Apr 2021

54回原産年次大会の最後のセッション3では、来るべきゼロエミッション時代を念頭に、日本が目指すべきエネルギービジョンについて、国内外の有識者を迎え、パネル討論を実施。金融アナリストの市川眞一氏がモデレーターを務め、昨今話題の「カーボンニュートラル(ネットゼロ)」時代に対応するための日本のエネルギー・環境政策を、原子力の果たすべき役割を交えて考察した。

今大会に於いては、セッション1で「脱炭素社会に向けた地球規模の課題」を洗い出し、セッション2でエネルギー政策/原子力政策を前へ進める上で欠かせない福島の復興を議論した。本セッションではそれらのセッションを受けて、「未来へ向けてどうするべきか」(市川氏)について、ゼロエミッション分野で先行する海外事例を参考にしながら、「日本が持つべきエネルギービジョンとはいかなるものか?」「原子力産業界はそれに向けてどのように取り組むべきか?」といった議論が展開された。

市川氏は、カーボンニュートラルという考え方にまだ日本人がキャッチアップしていないと指摘。世界の認識では「温暖化対策はコストではなく成長戦略」と捉えられているとした上で、金融の世界でも昨今ESG[1]Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)が非常に重視されており、ESGを疎かにしている企業は資金調達が困難になるだろうと警鐘を鳴らした。

最初に国連欧州経済委員会(UNECE)の持続可能エネルギー部門のディレクターであるスコット・フォスター氏が発表。国連が掲げる17SDGs(持続可能な開発目標)の中心にエネルギーの安定供給があるとした上で、ゼロエミッション電源への移行において原子力発電は不可欠との認識を示した。

フォスター氏 発言要旨

今や「気候変動」はいつか来たるべき預言なのではない。現在進行中の現実だ。地球全体の気温はすでに1上昇しており、この上昇を近い将来に2までに抑えるのは極めて困難。今すぐに手を打たなければならない。

欧州経済委員会(ECE)加盟国を対象に実施したUNECEの分析では、このまま何もしないレファレンス(REF)シナリオ、各国で目標を実施する(NDC)シナリオ、パリ協定以降の温度上昇を2に抑える真剣な取り組みを行う(P2C)シナリオの3つを検討した。その結果、P2C実現のためには2050年までに少なくとも900億トンのCO2を削減/回収しなければならないことが分かった。

P2Cシナリオでは原子力の役割は非常に大きく、原子力を除外すると成立しない。炭素回収・貯留(CCS)や水素利用なども高コストではあるが、将来必要になるものだ。どんな技術も排除する余裕はない。

まず現行のエネルギーシステムの環境負荷を低減させるため、CCSや高効率低排出(HELE)技術など低炭素技術への投資ガイドラインを策定する必要がある。また天然ガスから発生するメタンも温室効果が高いため、適切に管理しなければならない。

エネルギー変革にあたっては、現在掲げられている各国の政策では全く不十分である。政治的な配慮を排し、現実的に持続可能なエネルギー行動計画を追求しなければならない。またカーボンプライシングや市場の再設計も必要だ。プラグマティズムに基づいて、経済面、社会面、環境面から持続可能な開発を追求することで、これは必ずや達成可能である。

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続いて英国原子力産業協会(NIA)会長のティモシー・ストーン卿が「原子力なくしてネットゼロなし」と題して発表。子孫のためにもネットゼロへ向けて今すぐに行動しなければならないと、強く呼びかけた。

ストーン卿 発言要旨 

英国の電力の大半は依然として化石燃料によって賄われている。さらに一次エネルギーを見ると、多くが化石燃料によって賄われている。この状況は日本と共通点が多い。

日本のエネルギーミックスを見ると、原子力や水力のシェアは僅かで、大半は化石燃料によっている。日本ではエネルギーセキュリティ的に多くのリスクが顕在している。大半を他国に依存しており、燃料輸送も(スエズ運河を含む)シーレーンに依存するなどリスクが高い。 

2050年までに温室効果ガス排出をネットゼロにするためには、日本も英国同様に化石燃料を別のエネルギー源で代替する必要がある。

中でも天然ガスを代替するものがなければ、エネルギー供給には大きな問題が生じる。現実的な代替候補は水素であり、原子力(高温ガス炉)によって製造される水素は、他の方法によって生成されるものに比べて最も安価になると思われる。日英が先進モジュラー炉や高温ガス炉の開発で連携することは、極めて実り多い。

しかしここで問題となるのが政治のリーダーシップである。 昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックはこれまで類を見ない問題であったが、気候変動問題はその比ではない。これは市場の問題でも企業レベルの問題でもなく、インフラの問題である。インフラについては政府が責任を負うものであり、そのリーダーシップが大変重要だ。

原子力の最大の課題は、「資本コスト」だろう。原子力の発電コストは、発電所建設に掛かった資本コストに最も影響を受ける。資本コストが低ければ、原子力は再生可能エネルギーと比較しても十分競合できる。したがって政府は、原子力の資本コストを、出来る限り低減させなければならない。

低炭素は我々の将来に欠かせない要素であり、今すぐ対処すべきである。COVID-19に各国が連携して対応するように、COP26に向けての協力が必要だ。忘れてはならないのはそれが次世代の社会に大きく影響するということだ。原子力なしにはネットゼロ実現は不可能であり、日英が協力して課題に対処していけることを願う。

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続いて米国より、米国原子力エネルギー協会(NEI)シニアディレクターのキャロル・ベリガン氏が米国の原子力を取り巻く状況を発表した。

ベリガン氏 発言要旨

この1年で各国のリーダーは気候変動に対し迅速に決然と行動するようになった。意欲的な目標設定が行われており、バイデン政権も2035年までに100%クリーン電力とすることを打ち出した。原子力はこの問題解決のカギとなる。

米国の総発電電力量に占める原子力シェアは20%に過ぎないが、カーボンフリー電力に占める原子力シェアは50%以上である。特にこの1年、コロナ禍や2月に米国南部を襲った大雪といった未曾有の危機の中でも、原子力発電所は運転を継続し、その真価を発揮した。2020年には原子力は初めて石炭火力を抜き、米国で二番目の電源となった。米国の55の原子力発電サイトで8000kWhを発電し、90%以上の設備利用率を維持し、昔より少ないユニット数でより多くの電力を発電している。

世界各国の意欲的な気候変動防止目標の実現にはエネルギーシステムの変革が必要だ。その中核を成すのが原子力であり、各国政府、NGO、民間いずれも原子力なしでは目標達成が難しいとの見解で一致している。バイデン政権も真剣に取り組む姿勢を打ち出しており、パリ協定復帰に加え、来週には気候サミットを主催し世界的な流れを加速させようとしている。政権関係者も原子力の持つ役割を認めている。

また既存の原子力発電所を維持しつつ、迅速に次世代炉への移行を進めなければならない。SMR、マイクロ原子炉、そのほか新型炉により原子力は一層高効率、低コストかつ多機能に使えるものとなる。新型炉は規模も様々で出力も簡単に変更できる。風力や太陽光など変動性のある電源との相性は良い。こうした米国での進展は日本にも波及し、クリーンエネルギー社会の実現につながることになるだろう。

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日本経済団体連合会で副会長ならびに資源・エネルギー対策委員長を務める越智仁三菱ケミカルホールディングス取締役は、経済界の立場からエネルギー政策および原子力の役割・課題について言及した。

越智氏 発言要旨

エネルギー政策の基本はS3E(安全性を大前提とした安定供給、経済効率性、環境性の確保)である。加えて、世界のエネルギー・電力システムは3D、すなわち脱炭素化(Decarbonization)・分散化(Decentralization)・デジタル化(Digitalization)という方向に向かっており、こうした潮流にもしっかりと対応していく必要がある。菅総理のカーボンニュートラル宣言を経済界としても高く評価しており、その実現に全力で取り組む考えだ。

脱炭素社会の実現のためには、エネルギーの需給両面から、抜本的な構造転換を図っていく必要がある。電源の脱炭素化はもちろん、エネルギー消費の4分の3が非電力、熱需要であることを踏まえれば、非電力も含めた総合的な対策が求められる。具体的には、政府の検討でも示されている通り、①エネルギー需要の電化と電源の脱炭素化、②エネルギー需要の水素化と安価な水素の大量供給、③なお排出が避けられないCO2の固定・再利用--の3つを柱に、取り組みを進めていくことが重要だ。

経団連では今年の3月16日、20194月に取りまとめた電力システムの再構築に関する提言の第2弾となる提言を公表した。提言では、まず、2050 年カーボンニュートラルを実現するための電力システムの将来像について論じた。とりわけ、電源ポートフォリオについては、再エネや原子力に加えて、脱炭素化に資するあらゆるリソースを柔軟に組み合わせることが重要だ。そのうえで、電気事業の環境整備策として、カーボンニュートラルの実現を見据えた電源新設投資を確保するため、容量メカニズム[2]卸電力市場(kWh市場)とは別に、供給能力に対する価値に応じた容量価格(kW価格)を支払うの拡充や、FIP制度[3]Feed in Premium:卸市場などで販売した価格にプレミアムを上乗せする⽅式の活用等で適正な収入の予見性を確保するよう提案した。

2050 年の電源構成については、全ての電源を選択肢から排除しないことが重要だ。数ある電源の中でも、原子力は3Eのバランスに優れたエネルギー源であり、人類が将来に亘って必要なエネルギーを確保し、カーボンニュートラルへと向かっていく上で不可欠な技術である。引き続き重要なベースロード電源として活用していくことが重要と考える。原子力は2050 年段階でも然るべき水準を維持し、供給力として相応の役割を担うことが期待される。一方で既存炉の40 年運転では、2050 年段階で稼働している原子炉はわずか3基となってしまう。運転期間の60 年、さらには60年超への延長や、不稼働期間の取扱い[4]現在のように、審査の長期化により稼働していない期間も「運転期間」に含めるのかどうかに関する検討はもちろん、リプレース・新増設にも取り組んでいく必要がある。

また、将来を見据えれば、既存の軽水炉の安全性向上につながる技術はもちろんのこと、SMRや高温ガス炉等の、安全性に優れ、経済性が見込まれる新型原子炉の開発を進めていくことも極めて重要だ。福島第一原子力発電所事故以降、原子力に携わる人材が一貫して減少しており、技術・人材基盤の維持に懸念が生じている。次期エネルギー基本計画への記載をはじめ、早期に国としての方針を明確化する必要がある。

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続いて、「カーボンニュートラルと原子力政策」と題し、慶應義塾大学の遠藤典子特任教授が発表。カーボンニュートラルを目指すからには原子力は必然であり、そのことをきちんと政策に盛り込んでいくべきだと力強く訴えた。

遠藤氏 発言要旨

菅総理のカーボンニュートラル宣言を受け、さまざまな審議会が各所で立ち上がっている。経済産業省だけでなく、環境省でもカーボンプライシングの検討会が始まっている。そして今年はエネルギー基本計画の改定の年であり、エネルギーミックスをどのようにするか、これから基本政策分科会にて結論を出すことになる。

海外へ目を転じると、気候変動サミットが米国で、G7の議長国である英国でG7サミット、G20でもエネルギー大臣会合があり、国連総会、G20首脳会合、そして11月に英国でCOP26が開かれる。

議長国である英国とバイデン政権となった米国との間で、気候変動のリーダーシップをめぐっての駆け引きが行われている。両国に共通しているのは「原子力はカーボンフリー電源である」ことを政策的にきちんと位置づけている点だ。ここが日本とは違う。

日本の場合火力発電由来のCO2排出量が依然として非常に多い。基本政策分科会で示されている参考値として、「原子力と(CO2回収を前提とした)火力」「再生可能エネルギー」が取り上げられており、議論されている。再エネを50〜60%、水素・アンモニア発電を10%、原子力とCCUS[5]Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:炭素回収・利用・貯留を合わせて30〜40%という数字が参考値として示されている。

昨年から今年にかけての年末年始の需給の逼迫は、実に停電寸前の状態であり、危機的な状態にあった。その主たる要因はLNGの不足だったのだが、構造的な要因は原子力が稼働していないことに尽きる。原子力の稼働数が少ない場合、LNGがそれをカバーするため大変な負荷がかかっているのだ。

原子力は現状4基しか稼働しておらず、長期的に見ると40年運転の制限の中では、加速度的に原子力が退役していき、原子力がない状態でカーボンニュートラルを目指さなければいけないことになる。

今後電化の進展により、需要サイドは30〜50%ほど2050年に向かって伸びていくと予測されているが、原子力が40年運転で閉鎖される場合、原子力シェアはわずか2%になる。全ての原子炉が60年まで運転期間を延長できたとしても、2050年には12%に近づくが、2060年には5%を切り、2070年には2%を切るところまで落ち込んでしまう。こうした現状を目にすれば、原子力の新増設が必要になると考えるほかない。カーボンニュートラルを求めるからには原子力の利用は必然なのだ。

  1. 安全性を確保した上での既存炉の長期利用
  2. 革新技術の開発(イノベーションは原子力の分野でも必ず起きる)
  3. 事業の予見可能性を制度的に確立する

今のエネルギー基本計画の中に、以上の3点をしっかりと織り込んでもらうことを強いメッセージとして発しなければならない。

原子力は日本のメーカーが世界的にも優位にある産業で、しっかり守ることが重要だ。私は菅総理のカーボンニュートラル宣言は、総理から原子力産業へのメッセージと受け止めている。

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最後に市川氏が「カーボンプライシングの衝撃」と題して発表。先行事例であるEUの排出枠取引(EU-ETSEuropean Emission Trading)を例に、日本がどのように制度的に取り入れていくかを論じた。

市川氏 発言要旨

カーボンプライシングの代表例が、EU-ETSだ。最近、EU2030年までの温室効果ガス削減目標を、従来の1990年比40%から55%へと大幅に引き上げたことにより、その価格が急騰しており、金融の世界では大変な注目を集めている。

EU-ETSにおいては、温室効果ガス排出量が多い一定規模以上の燃料燃焼施設、産業施設26種類に関し、EUが施設毎に排出枠(キャップ)を定める。ある施設の排出量がキャップを下回った場合、その部分をクレジットとして市場で売却可能とした。一方、排出量が排出枠を超えてしまった施設は、市場でクレジットを購入し、排出枠を増やさなければならない。EU域内の排出枠の総量を毎年削って行けば、EUとして国際的に責任を負った排出削減目標を達成できるわけだ。

さらにEU201912月、『EUグリーンニューディール』を発表。その柱の1つが温室効果ガス排出枠に関する「国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism)」の導入だった。この国境調整は、EU加盟国が排出規制を実施していない国から何かの製品を輸入する場合、EU域内で生産された製品が負担している排出枠購入コストを炭素税として課す制度である。

温室効果ガスに関して国境調整が浮上した背景は、EU-ETSにおける排出枠価格の急騰だ。EU域内で厳しい規制をクリアするため排出枠を購入すれば、製品価格が上昇する。結果として温室効果ガスの排出削減が進んでいない国からの輸入が増えた場合、EU域内の事業者が不利になる上、世界全体で見ると排出量は減らない。

この国境調整によるカーボンプライシングは、既に主要国における共通の関心事になりつつある。米国では、バイデン政権が積極的だと聞いている。また、EUを離脱した英国のボリス・ジョンソン首相も、6月にコーンワルで開催するG7首脳会議において、議長国として国境調整に関する提案を行う意向であると報じられた。日本にはカーボンプライシングの制度がないため、ここでしっかりと制度設計をしておかないと日本企業は国際的な競争に勝てなくなってしまう。

排出枠取引では、価格は市場が決定するので、最終的なコストは不透明だが、確実に排出量を削減できる。今後世界はこちらが主流になるだろう。日本の最終エネルギーに占める電力の割合を徐々に上げながら、発電段階でのゼロエミッション化を進めるのが最も合理的な方法だろう。

もちろん再生可能エネルギーも重要であり、水素・アンモニアにも取り組む必要がある。ただ、ドイツがあれだけこれまで努力を重ねてEUの中でも家庭用の電気料金が2番目に高い状況でありながら、再生可能エネルギーの比率は40%に留まっている。残りの30%は石炭・褐炭であり、10数%が原子力だ。ロシアからの天然ガスパイプラインを敷設し、フランスから電力を買いながらもそれが限界なのだ。

対して日本のような少資源な島国で、どうやってカーボンプライシングの世界の流れに立ち向かい、国際貢献をしながら成長意欲を高めていくのかということを考えていけば、自ずと電源構成がどうあるべきかはわかってくるはずである。

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その後のパネル討論では、昨今話題のEUタクソノミーなど、原子力へのファイナンスを支援する制度のあり方を議論。「政府が原子力プロジェクトのリスクを取り除くことで、資金が回るようにする」(ストーン氏)、「投資促進のためのルール作りが必要」(フォスター氏)、のほか遠藤氏からは「政府がエネルギー基本計画の中できちんと原子力のターゲットの数字を上げることで、民間投資が促進される。戦略的沈黙なのかもしれないが、誤魔化しの10とならないように」との強い要望も出た。

脚注

1 Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)
2 卸電力市場(kWh市場)とは別に、供給能力に対する価値に応じた容量価格(kW価格)を支払う
3 Feed in Premium:卸市場などで販売した価格にプレミアムを上乗せする⽅式
4 現在のように、審査の長期化により稼働していない期間も「運転期間」に含めるのかどうか
5 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:炭素回収・利用・貯留

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