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スイス国民の意識調査で原子力支持率が回復傾向

11 Mar 2022

ミューレベルク原子力発電所© BKW

スイス政府が脱原子力政策を進めていくなか、同国の原子力フォーラムは3月9日、原子力発電に対するスイス国民の意識調査を実施した結果、原子力発電所の新設を禁止する法令に懐疑的な国民が多数派を占めるなど、原子力発電の支持率は回復傾向にあると発表した。

この調査は、同フォーラムが市場調査機関のデモスコープ社に委託して実施したもので、2月16日から28日にかけて国内のドイツ語圏とフランス語圏の住民合計1,219名に対し、オンラインでインタビューが行われた。同フォーラムは、これらのインタビューの96%以上が「ロシアが24日にウクライナへの軍事侵攻を開始する」以前に実施された点を強調している。

発表によると、「スイスが今後も原子力発電を続けるべきか」という質問に対する回答者の見解は拮抗しており、44%が「再生可能エネルギーに加えて原子力も続けるべきだ」とした一方、43%はこれに反対。13%が無回答だった。原子力支持派の87%がその理由として、「十分なエネルギー供給に対する不安から」を挙げたほか、同じく原子力支持派の42%は「スイスが地球温暖化防止目標を達成する一助になる」と回答した。

法律による原子力発電所の新設禁止については、回答者の45%が同意した一方、49%は「新設するか否かはケースバイケースで国民に判断の機会が与えられるべきだった」と回答した。この結果について同フォーラムのH.-U.ビグラー理事長は、「原子力の利用は今後スイス国民が受け入れないとする評論家の主張に異議を唱え、考え直す人々が出てきた証拠だ」と指摘。「エネルギーの供給不安や地球温暖化防止意識の高まりを背景に、国民の多くが原子力の利用を認めるのは当然のことだし、無視されてはならない」と述べた。同理事長はまた、「今必要なのは原子力を含むすべての発電技術を利用可能とするエネルギー政策だ」と強調している。

スイスではチェルノブイリ事故等の発生を受けて、国民投票により原子力発電所の新設が1990年から10年間凍結されていたが、2003年の国民投票でこの凍結の延長が否決され、産業界は原子力発電所の建て替えに向けて動き出していた。しかし、福島第一原子力発電所の事故後、連邦政府は「国内で稼働していた原子炉5基を段階的に閉鎖し、建て替えも無し」とする方針を表明。国内の原子力発電所は、平均約50年間の運転期間を終えたものから順次閉鎖していき、2034年までにすべての原子炉を閉鎖することになった。

この政策は、改正エネルギー法に相当する「2050年までのエネルギー戦略」に盛り込まれ、2017年の国民投票で承認されている。既存の5基はこれまで、スイスの総発電量の約35%を賄ってきたが、商業的な理由により2019年にミューレベルク原子力発電所が永久閉鎖。現在は、残り4基が総発電量の約33%を供給している。

(参照資料:スイス原子力フォーラムの発表資料(ドイツ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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