原子力産業新聞

海外NEWS

英ロールス・ロイス社、2029年までにSMR初号機の完成目指すと表明

27 Jan 2020

完成予想図 ©ロールス・ロイス社

英国で小型モジュール炉(SMR)の開発企業連合を率いるロールス・ロイス社のP. ステイン最高技術責任者は1月24日、同国の公共放送局BBCのインタビューに答え、2029年までに同社製SMR初号機の完成と運転開始を目指していることを明らかにした。

同社の企業連合には、国内の大手エンジニアリング企業や建設企業であるアシステム社やアトキンズ社、レイン・オルーク社などが参加。発表によると、英国原子力産業界はSMRのような小型原子炉であれば、工場で大量生産して設置場所までトラック輸送ができ、洋上風力発電のような再生可能エネルギーと競合できるレベルまで低コスト化が可能と認識している。

ステイン氏は、ヒンクリーポイントC原子力発電所の大きさの16分の一程度というSMRを約10エーカー(約4万平方メートル)の敷地で建設できるとしており、カンブリア地方やウェールズ地方など、閉鎖済みの原子力発電所も含めた3地点で10~15基のSMR建設を計画中だと述べている。

英国ではエネルギー気候変動省(DECC)(当時)が2016年3月、英国にとって最適なSMR設計を特定するためのコンペを開始し、SMR技術の開発業者や電気事業者、潜在的投資家等から関心表明(EOI)を募った。2017年12月に同コンペの終了後、DECCを改組して発足したビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、先進的モジュール炉(AMR)の実行可能性・開発(F&D)プロジェクトで改めてコンペを実施。2018年6月に民生用原子力部門との戦略的パートナーシップとなる「部門別協定」を発表した際、BEISはAMRの研究開発資金として5,600万ポンド(約79億8,000万円)を充てるとしたほか、同年9月にはこの中から400万ポンド(約5億7,000万円)をコンペの第1フェーズで選定した企業8社の実行可能性調査用に提供するとしていた。

この8社の中にロールス・ロイス社は含まれなかったが、同社はこれとは別枠で2019年11月、BEIS傘下の戦略的政策研究機関「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」から、英国政府の「産業戦略チャレンジ基金」の中から初回の共同投資金として1,800万ポンド(約25億6,000万円)を受けることが決定。同社はまた、ヨルダンで同社製SMRを建設するための技術的実行可能性調査実施に向け、2017年11月にヨルダン原子力委員会と了解覚書を締結した。2018年2月には、風力や太陽光よりも競争力のある英国型SMRの実証モジュールを開発するため、ロールス・ロイス社が産業界側の窓口を勤める英国政府の「先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)」と契約を結んでいる。

今回の発表でロールス・ロイス社は、「過去数年間に複数の大型炉建設プロジェクトが資金調達問題により凍結されたが、再生可能エネルギーのコストが急落するなか、SMRでコスト削減の可能性があることは、資金面で苦戦を強いられてきた原子力産業界にとって珍しく明るいニュースだ」と指摘。コスト削減の秘訣は、先進的デジタル溶接法やロボット組立等で予め製造したパーツを建設サイトで組み立てることであり、このように原子炉建設費を大幅に削減することで、電気料金を一層安く抑えることができると強調した。

同社はまた、SMRの輸出で大量生産によるスケールメリットを実現し、コスト面の障害を克服したいと表明。これに関しては地元メディアの情報として、2,500億ポンド(約35兆6,000億円)規模の輸出市場で出力44万kWの同社製SMRの建設コストを約17億5,000万ポンド(約2,500億円)と試算した上で、は1MWhあたり60ポンド(約8,500円)を下回ること、すでに複数の外国政府から書面で関心表明があり、交渉中であると同社が述べたことが伝えられている。

(参照資料:BBCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月24日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

cooperation