原子力産業新聞

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米マイクロ炉 大学キャンパスに設置へ

17 Apr 2025

桜井久子

イリノイ大学におけるKRONOS MMRエネルギーシステムの設置予想図 Ⓒ NANO Nuclear Energy Inc.

米国の先進原子力会社である、ナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は42日、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)と、研究用マイクロモジュール炉「KRONOS MMR」初号機の同大学キャンパスでの建設に向けて戦略的提携契約を締結した。

同契約により、イリノイ大学はKRONOS MMRの許認可、立地、市民参加、研究活動に係わる正式パートナーとなり、研究・実証施設である原子炉の恒久的な設置サイトとなる。

NANO
社の創設者兼会長であるJ. ユー氏は、「設計が現実のものとなる。今回、サイトが選定され、イリノイ大学シャンペーン校の世界トップクラスの工学教育機関グレインジャー工科大学がパートナーとなった。単なる研究炉ではなく、安全でポータブル、かつレジリエンスのある原子力エネルギーの未来のための実証実験の場となる。当社の長期的な原子炉開発戦略の基盤となるものであり、世界中のコミュニティ、キャンパス、産業界に次世代の原子力エネルギーを供給していきたい」と意気込みを語った。

KRONOS MMR
は、冷却材にヘリウムを使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。5エーカー(0.02㎢)未満のコンパクトな設置面積で、最大4.5kWt1.5kWe)の出力により、ローカルグリッド、再生可能グリッド、プロセス熱システムとシームレスに統合し、柔軟に稼働するように設計されている。燃料は、低濃縮ウラン(LEU)またはHALEU燃料を使用。NANO社は、KRONOS MMRエネルギーシステムは、既存の技術を活用し、新たなブレークスルーや時間とコストのかかる研究プログラムが不要と強調している。

MMR(マイクロ・モジュール炉)は米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社が開発していたが、USNC社は202410月、米国破産法第11章第363条に従い、自社技術の売却プロセスを実施することを発表。競売により同年12月、NANO社がUSNC社のMMRを含む、原子力技術資産の一部を買収し、MMRKRONOS MMR改称した。

今後NANO社は、イリノイ大学が米原子力規制委員会(NRC)に提出する建設許可申請(CPA)の準備を支援するため、地下調査を含む地質学的特性評価のプロセスを開始する。この作業はサイトの環境パラメータを理解するために不可欠であり、施設の信頼性と安全性を最大限に確保し、NANO社の予備安全解析報告書(PSAR)と環境報告書(ER)作成をサポートするものである。

この戦略的提携により、イリノイ大学とNANO社は、規制当局の許認可プロセス、プラント設計の実施、市民やステークホルダーの関与、および労働力の育成分野で協力していく。イリノイ大学はNRCとの規制面での関わりや市民との交流を主導するほか、PSARERなどのライセンス活動を支援しつつ、サイト配置、建設性評価、将来のオペレーター訓練プログラムを実施。NANO社は、プラントの設計、建設、システム統合、商業化に向けた開発を行う。この提携は、イリノイ大学のノウハウとNRCとの関わりを基に構築されており、同大学は2021年6月、(当時)USNC社製MMRを将来に学内で建設するため、NRC意向表明書(LOI)を提出している。

イリノイ大学内のグレインジャー工科大学のC. ブルックス教授は、「KRONOS MMRプロジェクトは、国内初となるだけでなく、学術界初となる可能性があり、学生、研究者、規制当局、市民が実際の世界のマイクロ炉開発の取組みを直接、大学サイトで学ぶことができる」「このエネルギーシステムは、教育、研究、大規模な実証を通じて原子力の新しいパラダイムを可能にする可能性を秘めており、米国のどのキャンパスにおいても最先端の原子力研究のプラットフォームとなり得るものだ」と指摘。NANO社の最高技術責任者兼原子炉開発責任者であるF.ハイデット博士も「同プロジェクトは、将来のあらゆる大学主導の原子力プロジェクトの先例となる」と強調した。

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