EU ロシア産エネルギーへの依存脱却へ 一部に反対論も
15 May 2025
欧州委員会(EC)は5月6日、ロシア産エネルギーへの依存を解消させ、欧州連合(EU)全体で安定したエネルギー供給と価格を確保させるための、ロードマップを発表した。EUのクリーンエネルギーへの移行と並行して、ロシアの石油、ガス、原子力(濃縮ウランまたは燃料)を平和裡にEU市場から締め出していく計画だ。ECは来月6月にも、ロードマップを支援する法案を提出するとしている。
EUのロシア産エネルギーへの依存を減らすために2022年5月に開始されたREPowerEU計画により、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降に導入された16の制裁パッケージや、エネルギー供給元の多様化を通じて、ロシア産ガス輸入のシェアは45%(2021年)から15%(2023年)に大幅に減少した。しかし、2024年に19%に回復。ロードマップの作成は、ロシアのエネルギー輸入への過度の依存が安全保障上の脅威であり、より一層、協調的な行動の必要があるとの認識による。
ECは、EU大でのロシア産エネルギー輸入の段階的廃止が、適切に実施されるよう、EU加盟国と協力していく。具体的には、加盟各国は2025年末までに、ロシアのガス、石油、原子力(濃縮ウランまたは燃料)の輸入の段階的な廃止にいかに貢献するかについて、国家計画を作成する。同時に、エネルギー移行を加速しながら、エネルギー供給の多様化と安全保障を維持し、価格と市場への影響を排除するための努力を続けていくとしている。
ロードマップには、以下の対策が含まれている。
- ガス:EU市場におけるロシア産ガスの透明性、監視、トレーサビリティを向上させ、2027年末までにロシア産ガス(パイプラインとLNGの両方)の全面輸入禁止を導入。ロシア産ガス供給業者との新規契約は禁止され、スポット契約(即時支払い)は2025年末まで、既存の長期契約による輸入も2027年末までに禁止。なお、ロシア産ガスを代替する、ロシア以外からのLNG調達は2028年までに約2,000億㎥の増加を予想。
- 石油:石油を輸送するロシアの「影の艦隊」(Shadow fleets:ロシアが制裁回避のために雇用する船舶)に対する制裁を実施。
- 原子力:ロシアの濃縮ウランの輸入に対する貿易措置の提示。欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局が共同で締結した、ロシア由来のウラン、濃縮ウラン、その他の核物質の新規供給の制限。なお、ロシア設計のVVER炉を運転する加盟国は、ロシア以外の燃料調達先を確保中。
※石炭:制裁により、輸入はすでに全面禁止。
ECは、ロシア産エネルギー輸入の段階的な廃止により、よりクリーンで独立したエネルギーシステムを確立し、経済の活性化と、欧州の脱炭素化の目標を達成するとしている。ECのU. フォンデアライエン委員長は、「ロシアのウクライナ侵略は、恐喝、経済的強制、価格ショックのリスクを容赦なく露呈させた。REPowerEUにより、エネルギー供給を多様化し、EUはロシアの化石燃料への依存を大幅に減らすことに成功した。今こそEUは、信頼できない供給国とのエネルギー関係を完全に断ち切る時。我々は、ロシア産エネルギーへの対価が、ウクライナに対する侵略戦争の資金源となることを許容しない」とコメントした。
このECによる発表を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は、「ハンガリーの安価な光熱費に対する攻撃であり、ウクライナ支援の代償を払うことを余儀なくされている。加盟国にロシアとのエネルギー協力を断つよう強制する決定は政治的、イデオロギー的に動機付けられたものだ」と語った。
参考)
2024年のロシアからのエネルギー輸入規模
- ガス(パイプラインとLNG):520億㎥ (EU 10か国)(2021年は1,500億㎥)
- 石油:1,300万トン(EU 3か国)(2022年初めはロシア産シェア27%。2024年は3%に縮小)
- 濃縮ウランまたは燃料:2,800トン(EU 7か国)(EU需要のウランの14%以上、転換サービスの約23%、濃縮サービスの約24%をロシアが充足)