老朽化石炭火力をSMRでリプレース 2035年までに米国を中心に1億4,300万kWeの潜在市場
20 Oct 2025
OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は9月18日、石炭火力発電所から小型モジュール炉(SMR)へ移行する可能性について、市場規模や導入課題、政府と産業界の役割などを分析した報告書「SMRs for Replacing Coal―― Opportunities and Challenges for Small Modular Reactors」を公表した。報告書は、老朽化や脱炭素化の進展に伴い石炭火力が段階的に廃止されるなか、SMRが石炭火力発電所のインフラや立地許可など、既存の許認可を可能な範囲で活用できる有力な代替手段になり得ると指摘。ベースロード電源として系統インフラや労働力を維持しつつ、今後数十年にわたり、手頃な価格でクリーンかつ信頼性の高い電力供給を支えることができるとしている。
まず、対象市場や実現可能性について、報告書は、石炭火力から原子力への移行可能性は地域によって異なると分析。最大の要因は石炭火力発電所の老朽化で、さらに政府の政策方針や既存の原子力インフラ、石炭火力の段階的廃止計画も導入を左右する要素とした。なかでも北米、特に米国は老朽化した石炭火力が多く、原子力の経験も豊富なことから、SMR導入の先行地域として位置付けられた。欧州もまた、石炭火力から原子力への代替によって大きな恩恵を受ける地域と分析されている。
NEAによると、世界の石炭火力発電設備容量(約22億kWe)のうち、2035年までにSMRによるリプレースが見込まれる潜在市場は1億4,300万kWe に達し、主に米国を中心に市場が形成される見通し。さらに2040年には潜在市場が3億8,100万kWeへと拡大し、欧州やアジアでも移行が本格化するとみられる。報告書は、2050年までに世界全体で4億5,000万kWeの石炭火力が原子力へ移行する可能性が高いと結論づけた。なおアジアでは、インドネシアや日本、韓国、フィリピンが潜在市場として挙げられている。
また、報告書は電力会社や大規模ユーザーなど専門家への調査やインタビューも実施。その結果、多くが石炭火力から原子力への移行に関心を示す一方で、「ファーストムーバー(先駆者)」として初めて建設に取り組むことには慎重な姿勢を見せた。初号機建設のリスクや、他社の実績を見極めてから導入する姿勢が背景にあり、こうした状況をふまえ回答者は、リスク軽減やリプレースの加速・実証において、政府が重要な役割を果たすべきと強調している。
そのうえで報告書は、石炭火力から原子力への持続可能な移行には、原子力の開発・導入を後押しする効果的な政策枠組みと強力な国内政策が不可欠と強調。具体的には、明確な脱炭素方針や直接的な財政インセンティブ、合理化された規制プロセスを通じて、原子力導入が促進できるとした。さらに、官民パートナーシップにより、初期の原子力プロジェクトに伴うリスクを共有し、石炭火力がもたらしてきた地域経済への貢献を維持するための財政支援を提供し、移行を支援することも可能としたほか、職業訓練や地域経済支援の政策は、石炭火力依存地域の「公正な移行」を後押しするものと指摘している。