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フィリピン 新規建設誘致にむけて準備

22 Oct 2025

桜井久子

Ⓒ Department of Energy - Philippines

フィリピンのエネルギー省(DOE)のS. ガリン長官は103日、マニラで開催されたフィリピン国際原子力サプライチェーンフォーラム(PINSCF2025において講演し、国内のエネルギーミックスに原子力を組み入れる包括的枠組みに関する省令に、前日に署名したことを明らかにした。この枠組みの下、商業的に開発・運転される同国初となる原子力発電所は、導入される原子力技術に係わらず、ベースロード電源となり、優先的な送電が認められるなど、大統領令に基づく優遇措置と迅速な手続きの対象となる国家重要エネルギープロジェクトに認定されるという。

DOEは、原子力発電所への競争力ある投資環境を整備し、先行開発事業者による円滑な電力販売を促進させ、国の長期的なエネルギー安全保障を強化したい考え。省令の公布から90日以内に、DOE職員と財務省、経済計画開発省、政府系ファンドのマハルリカ投資公社、その他関連機関が、政府参加モデルや資金調達オプションを検討。エネルギー規制委員会が、規制資産ベース型モデルまたは類似の資本回収メカニズムを実施する任務を負っているという。さらに送電システムへの原子力発電の円滑な統合を確保するため、送電網整備の作業を優先するとしている。

ガリン長官は、「原子力をエネルギーミックスに組み入れる明確なルールを確立することで、投資家、パートナー、関係者に対して、フィリピンがクリーンエネルギー移行の一環として原子力を責任ある戦略的導入の準備が整っているという確信を与える。原子力は信頼性が高く安定したベースロード電源となって再生可能エネルギーを補完し、気候目標を達成しながら、経済成長に必要なエネルギー安全保障を確保するものだ」と述べた。また同長官は、政府による支援政策と投資家の強い関心から、2032年までに国内初の原子力発電所の運転に期待を寄せつつも、その実現は投資家の決定など多くの要因に左右されると言及。さらに地域社会の受け入れが原子力発電所を建設する際の主要な要件の一つであると強調した。

PINSCF 2025には、米国、韓国、カナダ、UAE、アルゼンチン、フランス、フィンランド、ハンガリー、フィリピンの政策立案者、原子力技術部門や規制当局の専門家が参加し、フィリピンのエネルギー転換を支える戦略的かつ適応性のあるサプライチェーン構築に焦点を当て、議論された。昨年11月に開催された第1回フォーラムでは、国際的に活躍する原子力専門家、政策立案者、エネルギー関係者、外交官らが出席。原子力産業における最新の動向、ベストプラクティス、安全とセキュリティ、および資金調達メカニズムなどについて協議されている。

フィリピンでは20222月、大統領令により原子力をエネルギーミックスに加えるという方針が確定し、昨年には原子力ロードマップが発表された。2032年までに同国初の原子力発電所の稼働を目指し、少なくとも出力120kWeをエネルギーミックスに組み入れ、2035年までに240kWeに倍増、2050年までに480kWeまで増強する方針である。今年9月には、国家原子力安全法を制定。原子力の平和利用を規定し、原子力安全および放射線活動を監督する、独立した原子力規制機関(PhilATOM)の設立を定めており、原子力の導入にむけた諸準備が本格化している。

なお同国では、1985年に東南アジア初の原子力発電所となるバターン原子力発電所(=BNPP、米ウェスチングハウス社製PWR62kWe)がほぼ完成したが、1986年に発足したアキノ政権は、同年のチョルノービリ原子力発電所事故の発生を受け、安全性及び経済性を疑問視し、運転認可の発給を見送った。その後、急速なエネルギー需要が国産エネルギーの開発や輸入エネルギーの増加でも賄えない場合に備え、1995年から原子力発電の導入について検討が始まったが、20113月の福島第一原子力発電所事故により、再度原子力発電開発を断念した。現在、韓国水力・原子力の支援を受け、BNPP稼働に係わる包括的な実行可能性調査を実施中である。

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