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中国の熔融塩実験炉がトリウムからウランへの転換を達成 世界初

26 Nov 2025

桜井久子

トリウム熔融塩実験炉のホール Ⓒ SINAP

中国科学院の上海応用物理研究所(SINAP)は111日、同研究所が中心となって、甘粛省のゴビ砂漠に建設した0.2kWt液体燃料トリウム熔融塩実験炉(TMSR-LF1)において、トリウム(Th-232)からウラン(U-233)への転換を実現したことを明らかにした。同炉は現在、世界で唯一、トリウム燃料を投入して運転を行っている熔融塩炉。

熔融塩炉は、高温の熔融塩を冷却材とする第4世代炉であり、固有の安全性、水冷却不要、常圧運転、高温出力などの特長を持つ。1960年代には米国のオークリッジ国立研究所でトリウム熔融塩炉の開発が推進され、19641969年にフッ化物熔融塩実験炉が稼働。1970年代には熔融塩増殖炉の開発が進められたが、1976年の政策変更等により熔融塩炉研究開発はすべて中止された。

一方、中国は、トリウム資源の大規模開発・利用を通じ、トリウム熔融塩炉の研究開発を進め、太陽光・風力発電、熔融塩蓄熱、高温熱による水素製造などとともに、多様なエネルギーが相互補完する低炭素複合エネルギーシステムを構築し、自国のエネルギー安全保障を強化していく方針である。中国はレアアース(希土類元素)の世界最大の供給国であるが、レアアース鉱にはトリウムが約10%含まれており、トリウムは豊富に存在する。

2011年、中国科学院は国家のエネルギー安全保障と持続可能な発展という戦略的ニーズに応えるため、戦略的先導科学技術特別プロジェクト「未来先進原子力トリウム熔融塩炉原子力システム」を立ち上げ、専門の研究開発チームを結成した。201711月、実験炉のサイトに甘粛省武威市を選定。2020年1月に着工し、2023年6月に中国国家核安全局が運転認可を発給。2023年10月に初臨界を達成し、2024年6月に定格出力での運転を実現した。2024年10月にはトリウム投入を完了し、世界に先駆けて独自の特徴を備えた熔融塩炉とトリウム・ウラン燃料サイクル研究プラットフォームを構築。今回、トリウム(Th-232)が中性子を吸収し、核分裂の連鎖反応を引き起こすウラン(U-233)に転換したことを実験データによって確認した。

発表によると、実験炉の国産化率は90%以上、重要な炉心設備は100%国産化を実現し、トリウム熔融塩炉関連技術のサプライチェーンは、すでに中国でほぼ構築されているという。

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