インド 民間企業の原子力分野参入促進に向けた法案が下院で可決
19 Dec 2025
インド国会の冬季会期中の12月17日、「インドの変革にむけた原子力の持続可能な利用と発展に関する法案」(Sustainable Harnessing and Advancement of Nuclear Energy for Transforming India: SHANTI)が国会(下院)で可決された。インド政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣が12月15日に提出した。同法案は、1962年原子力法と2010年原子力損害民事責任法(CLNDA)を廃止し、原子力部門に対する民間参加への開放を含む、原子力の安全かつ確実な利用およびそれに関連する強固な規制枠組みの形成を提案するもの。法案は12月12日に閣議決定されており、今後、上院で審議・可決後、大統領の承認により成立する。
政府は、エネルギー自立の強化に向けた持続的な研究開発により、国産の重水炉(PHWR)導入や燃料サイクル確立に向けた動きの進展など、責任ある方法で原子力計画を運営することが可能になったと指摘。原子力発電設備容量の大幅強化により、クリーンなエネルギー安全保障を支援し、エネルギー集約産業であるデータセンターなどの新たなニーズに信頼性の高い電力を供給する方針である。法案により、これまで原子力省(DAE)によって厳しく制限された原子力の複数の分野(原子力発電所の建設、所有、運転、廃止措置や、燃料製造、燃料または使用済み燃料の輸送・貯蔵、輸出入、取得・所持、重要鉱物の探査や採掘など)が民間を含む事業体が認可を受けたうえで、開放される見込み。但し、濃縮、再処理や高レベル放射性廃棄物管理を含む、使用済み燃料の取扱い、重水の生産などは政府またはその完全所有機関が原則として専管する仕組みとしている。
1962年原子力法は、民間部門による原子力発電参入を禁止しており、原子力省(DAE)傘下のNPCILとバラティヤ・ナビキヤ・ビデュト・ニガム社(BHAVINI、高速炉の建設と運転の事業者)の2つの国営企業に限定。2015年の法改正により、インド国営火力発電会社(NTPC)のような政府系公社がNPCILとの提携が可能になっていたものの、抜本的な原子力部門の開放の必要があった。
その背景には、インドの長期的なエネルギーおよび気候目標がある。政府は、2070年ネットゼロに向けて、独立100周年となる2047年までに現状の十倍以上となる、1億kWeの原子力発電設備容量を達成するという目標を掲げている。この目標達成のため、インドを世界の原子力エコシステムへの貢献者として位置付ける一方で、固有の原子力資源をより十分に活用し、官民双方の積極的な参加を可能にする必要性を強調。官民パートナーシップや合弁事業を含む官民双方の参加を促進し、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力発電設備の大規模展開を念頭に置いている。
運用レベルでは、同法案は、原子力発電またはその利用に関与する事業体に対する許認可および安全認可に関する規定とともに、停止または取消の明確な根拠を定めている。加えて、医療、食料・農業、産業、研究などの分野における原子力および放射線利用を規制対象とする一方で、研究開発およびイノベーション活動については、許認可要件から除外する方針を示している。
同法案はまた、原子力損害に関する現実的かつ実用的な民事責任の枠組みへと見直すとともに、原子力規制委員会(AERB)に法的地位を与え、安全、セキュリティ、保障措置、品質保証、緊急時対応に係る体制を強化。さらに、原子力救済諮問委員会(Atomic Energy Redressal Advisory Council)の設置や重大な原子力損害事案に対応する原子力損害賠償請求委員会(Nuclear Damage Claims Commission)の創設など、新たな制度的枠組みを規定し、これら判断に対する控訴審については、電力上訴審判所(Appellate Tribunal for Electricity)がその役割を担うとしている。また、これまで海外サプライヤーによるインドでの原子力発電所建設の大きな障壁とされてきたCLINDAの供給者責任条項を見直し、保険や政府の補償枠組みを整え、原子炉建設を後押しする方針である。
N. モディ首相は11月下旬、原子力分野において民間部門が強力な役割を担う基盤を築く改革を行っていると演説の中で表明。これにより、SMR、先進炉、原子力イノベーションにおける機会を創出し、インドのエネルギー安全保障と技術的リーダーシップをさらに強化するだろうと展望を示した。
政府は、法律の改正により、インドのエネルギー移行、技術進歩、国際的義務に沿って、原子力ガバナンスを近代化したい考え。
■インドのSMRの建設計画
シン大臣は法案提出に先立ち、両院議会への複数の答弁書でSMR建設計画について明らかにしている。政府は、2025年2月に国会承認された2025年度連邦予算(2025年4月~2026年3月)において、SMRの研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」に2,000億ルピー(約3,400億円)を割当て、2033年までに少なくとも国産SMR×5基の運転開始をめざす方針を示した。現在、バーバ原子力研究所(BARC)で、3種類の実証用SMRであるBSMR-200(PWR、20万kWe)、SMR-55(PWR、5.5万kWe)、水素製造用の最大0.5万kWthの高温ガス冷却炉を設計・開発中であり、BSMR-200とSMR-55の先行炉をマハラシュトラ州にあるタラプール原子力発電所サイトに建設、高温ガス冷却炉をアンドラ・プラデシュ州にあるBARCのビザグ・キャンパスに建設を提案しているという。
答弁書の中で、SMRは特に、安定的な電力供給が要求される産業の脱炭素化において有望な技術と強調。閉鎖予定の火力発電所のリプレース、エネルギー集約型産業向けの自家発電所や遠隔地でのオフグリッド適用を想定しているとした。
なお政府はすでに、22万kW級重水炉(PHWR)の「バーラト小型炉(BSR)」の導入について、民間企業と連携する方針を表明している。これを受け、NPCILは2024年12月、現行法制度の下で提案依頼書(RFP)を発出し、産業向け自家発電用BSRの設置に関心を持つ国内企業に参加を呼びかけている。より多くの企業からの参加を促すため、提出期限が2026年3月31日まで延長された。





