原子力産業新聞

海外NEWS

米ケイロス社の先進的原子炉、2026年に実証炉完成へ

19 Jul 2021

FHR実証炉「ヘルメス」の完成予想図©Kairos Power

米国の原子力技術・エンジニアリング企業ケイロス・パワー社は7月16日、テネシー州のB.リー州知事、および同州経済開発庁(TNECD)のB.ロルフ・コミッショナーと連名で、同社製の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」の実証炉を同州内に建設すると発表した。

この構想はすでに2020年12月に同社が公表していたもので、今回はテネシー州政府の合意を得た同社が1億ドルを投じて、最終完成版より低出力の実証炉「ヘルメス」をオークリッジにあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内で建設すると表明。ETTP内で55名分の雇用の創出が見込まれる同炉の完成を、2026年に目指すとしている。

ケイロス社のFHR(KP-FHR)は電気出力14万kWで、冷却材として低圧の液体フッ化物塩を用い、燃料には3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用。固有の安全性を保持しつつ電力と高温の熱を低コストで生成するもので、2002年にテネシー州にあるDOE傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)がFHRの概念を提案した後は、それに基づきMITやUCバークレーなどが個別の要素技術の研究を進めている。

ケイロス社は、天然ガスのコンバインドサイクル発電とコスト面で競合可能な、無炭素で安全なエネルギー源として、KP-FHRを市場に送り出すことを計画。社内で重要機器類の製造能力を高めながらサプライチェーンの確認も実施し、許認可手続きが確実に進むようKP-FHRが完璧な原子力システムであることを実証、同設計をプロトタイプから商業規模の段階に進展させる考えだ。

ケイロス社のKP-FHR開発については、DOEが2020年12月、設計開発や許認可手続きおよび建設段階におけるリスク削減を目指した官民のコスト分担方式の「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、実証炉「ヘルメス」を支援対象の一つに選定。商業規模のFHR開発につなげることを目的に、同プログラムにおける7年間の総投資額6億2,900万ドルのうち、3億300万ドルをDOEが負担する。

テネシー州のリー知事は今回、「ケイロス社が参加したことで、当州のオークリッジは今後も米国の革新的な技術開発を牽引していく」と表明。同州におけるエネルギー開発は、米国その他の国々にプラスの効果をもたらすとした上で、「実証炉開発の支援を受ける場としてケイロス社が当州を選んだことに感謝する」と述べた。

ケイロス社の創設者の1人であるM.ローファーCEOも、「当社の先進的原子炉技術をテネシー州で実証することは、米国にクリーンで廉価なエネルギーシステムをもたらす重要な節目になる」と説明。パートナーとして支援の提供を受けているORNLやテネシー峡谷開発公社(TVA)、オークリッジ市、東部テネシー経済審議会、州政府のTNECDらに謝意を表明した。

TVAは今年5月、ETTPにおけるケイロス社の実証炉「ヘルメス」の建設計画に対し、原子炉のエンジニアリングや運転および許認可手続き関係の支援を提供すると発表。ケイロス社が同炉を通じて、出力調整可能な米国の電源としては最も手頃な価格でFHRを市場に出せるよう、協力するとしている。

(参照資料:ケイロス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

cooperation