原子力産業新聞

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台湾最後の原子力発電所が永久閉鎖

19 May 2025

桜井久子

馬鞍山原子力発電所 Ⓒ Taiwan Power Company

台湾電力は517日、同国で唯一稼働していた馬鞍山原子力発電所2号機(PWR95.1kWe)を、法律に基づき、永久閉鎖した。同機は、40年間の運転認可期限を満了したことから、同日午後1時頃から出力を下げ、午後10時頃には送電網から切断、午前0時頃に安全に停止された。今後、廃止措置を開始する。

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518日に営業運転を開始した同機は、40年間で約2741.6kWhを発電した。台湾電力によると、同機の発電量シェアは約3%であり、閉鎖による影響は限定的だという。

与党・民進党政権の掲げる「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」政策により、これまでに永久閉鎖されたのは、馬鞍山発電所1号機(20247月閉鎖)のほか、金山原子力発電所12号機(各201812月、20197月閉鎖)、國聖原子力発電所12号機(各202112月、20233月閉鎖)の計5基。

近年、台湾電力は原子力発電所の順次廃止と老朽化した石炭火力発電所の廃止を実施。発電量削減に対応するため、2017年より既存の発電所の更新・改築に順次着手、再生可能エネルギーと、揚水発電、エネルギー貯蔵などの整備を加速し、安定した電力供給を継続しながら、CO2排出量の削減を目指している。今年に入って大型のガス火力発電所(計約500kWe)と、風力・太陽光発電設備(計約350kWe)を導入し、電力需要を確実に満たしていく考えだ。

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年の脱原子力政策の達成に向けて、台湾の経済部(経済省)が掲げる電源別発電構成は、再生可能エネルギーを20%、ガス火力を50%、石炭火力を30%に、原子力をゼロとするもの。2024年の発電構成は、再生可能エネルギーが11.9%、揚水発電が1.2%、ガス火力が47.2%、石炭火力が31.1%、原子力が4.7%となっており、ガス火力の比率が年々上昇している。当面は、再生可能エネルギーの普及を継続し、石炭火力からガス火力へのエネルギー転換を推し進めつつ、2050年には総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を6070%に引き上げ、エネルギー輸入依存度を50%以下に減少させる方針だ。

一方で、台湾ではたびたび大停電が発生しており、産業界は安定的な電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請してきていた。再生可能エネルギーが主力となるまで、火力・ガス発電への依存による大気汚染、電気料金の上昇、企業の経営コスト上昇による台湾の競争力への悪影響を回避し、ネットゼロ排出の気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定を維持するため、国民党(野党)議員らは、立法院(国会)で「核子反応器設施管制法(原子炉等規制法に相当)」の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を最長で20年延長とする改正法案を提出。5月13日の第三読会で、賛成61、反対50票で可決された。

これを受け、与党(民進党)党首の頼清徳総統は翌14日の党中央執行委員会において、原子力発電所の廃止措置に関する法定スケジュールにも大型ガス火力発電所を新規で稼働させるなど、電力の安定供給には責任を持って対応してきたと言及。そのうえで、「立法院は、原子力発電所の運転期間を40年から60年に延長する改正案を可決したが、新たに成立した規定に従ったとしても、同発電所の2号機を実質的な審査なしに直接延長したり、直ちに再稼働したりすることはあり得ない」と強調。一方、「将来的には、先進炉にも門戸を開いているが、政策変更は、原子力安全、放射性廃棄物問題の解決、社会的コンセンサスという3つの重要な前提条件を満たさなければならない」と述べ、新たな原子力技術の導入の可能性についても示唆した。

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