原子力産業新聞

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スウェーデン 新規建設の事業環境整備法案を可決

27 May 2025

桜井久子

リングハルス発電所 © Vattenfall

スウェーデン議会(リクスダーゲン)は521日、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助に関する政府法案を採択した。新法は今年81日に施行、同日から申請が可能となる。

同法案は「新規原子力発電プラント建設の資金調達とリスク分担に関する法案」と題し、20253月下旬、E. ブッシュ副首相兼エネルギー・企業・産業担当相、ならびにN. ウィクマン財務次官・金融市場相が議会に提出した。新規建設への投資が収益を生み出すまでの長いリードタイムを勘案し、リスク分担がない場合の民間融資に伴う資金調達コストは、プロジェクトの総コストのかなりの部分を占める。政府の低い借入コストにより、信用リスクを政府に転嫁することで資金調達コストの削減、ひいては原子力発電自体のコスト削減がねらい。

議会は、国家補助が、政府と企業の間でリスクと利益の共有を管理するメカニズムの整備を念頭に、新規建設と試運転、および建設前の設計他の準備に向けて、資金調達コストを引き下げるため、低利の借入コストである政府融資の提案を認めた。なお、補助を受ける企業は投資額の全額の借入は出来ず、原子炉の稼働まで売電収入がないため、融資と株式資本の注入で賄う必要がある。融資額は、原子炉が稼働した時点から、原子炉の予想される運転寿命以内に分割返済しなければならない。また議会は、新規炉の運転時に市場リスクを軽減するため、運転事業者と政府による双方向の差金決済取引(CfD)制度の導入の提案も承認。これは、新規炉のフル稼働が許可されてから適用される。但し国家補助の条件として、新規建設は同一サイトで、合計電気出力が少なくとも30kW以上の場合のみと規定し、特別な理由がある場合は30kW未満であっても、政府が補助の実施を決定できるとしている。また、補助の範囲を大型炉4基分(約500kW)に限定し、プロジェクト会社の申請を受けて政府が決定することに加え、プロジェクト会社の株式を他の民間企業や政府が取得し、共同所有者になる可能性にも言及している。

N. ウィクマン財務次官兼金融市場担当相は、「これは、新規建設にあたり、公的資金と納税者の資金に対して責任を負う歴史的な発表。原子力発電の拡大は、価格の安定性の向上とシステムコストの削減をもたらし、新規建設を検討する企業だけでなく国民の家計にもメリットがある。新規建設は気候目標の達成とともに、より高い経済成長、より多くの雇用など、より良い条件への道を開くものだ」と期待を示した。

スウェーデンは現在、家庭や企業向けの不安定な電力価格と電力システムの不均衡という大きな問題に直面している。これに対処し、化石燃料を使わないベースロードを拡大する必要から、20229月に総選挙を経て、翌10月、40年ぶりに原子力を全面的に推進する中道右派連合の現政権が誕生。202311月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップが発表された。これには、カーボンフリーの電力を競争力のある価格で安定して供給することを目的に、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉で最大10基分を新設することなどが盛り込まれている。また、20241月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする旧・制限事項が撤廃されている。

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