サプライチェーン強化へ官民議論
10 Mar 2026
経済産業省資源エネルギー庁と日本原子力産業協会は3月9日、東京都内で「第4回原子力サプライチェーンシンポジウム」を開催した。政府、電力会社、プラントメーカー、エンジニアリング企業、IT企業などが参加し、次世代炉開発やサプライチェーン強化、人材育成など原子力産業基盤の維持・強化に向けた取り組みについて議論した。
開会挨拶で小森卓郎経済産業大臣政務官は、「原子力など脱炭素効果の高い電源を最大限活用していくことが不可欠」と述べ、安全と地域の理解を大前提に既設炉の再稼働や次世代革新炉の開発・建設を進める政府の方針を改めて示した。基調講演を行った資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の久米孝氏も、データセンターや半導体産業の拡大により電力需要が増加するなか、総発電電力量に占める原子力シェアについては2040年度に2割程度とする見通しを示し、その実現には既設炉の再稼働に加えて次世代炉の導入が必要になるとの認識を示した。
日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員長の木藤俊一氏(出光興産会長)は、AIやデジタル化の進展に伴い電力需要が増加する中、安価で安定的したエネルギー供給が経済成長に不可欠として原子力の役割が一層重要になるとの認識を示した。また、2050年に原子力シェア2割を維持するには、約40基の設備が必要になるとの試算を紹介し、既設炉の再稼働に加えて次世代炉によるリプレースや新設を進める必要があると指摘した。
Amazon Web Services(AWS)のクゥィント・サイモン公共政策統括責任者も登壇し、今後、24時間安定して電力を供給できる電源が不可欠になると述べ、原子力の役割を示唆した。AWSは2040年までにネットゼロを達成する目標で、日本での32プロジェクトを含め、世界28か国で700以上のカーボンフリー電源プロジェクトに投資、総発電設備容量は4000万kW以上に達している。原子力では、米ワシントン州で、2030年代初頭の運開を目指し、4基、約32万kWのSMRプロジェクトに参加しており、高品質な日本の精密加工技術は世界の原子力建設において重要な役割を担うとの見解を示した。
次世代炉開発に関するセッションでは、国内メーカー各社の取り組みが紹介された。三菱重工業は次世代革新軽水炉「SRZ-1200」の開発状況を説明し、基本設計が概ね完了したことを報告した。日立GEベルノバニュークリアエナジーはSMR「BWRX-300」の開発状況を紹介し、カナダなど海外でのプロジェクトが進んでいることを説明した。東芝エネルギーシステムズは革新型ABWR「iBR」の安全設計を紹介したほか、IHIと日揮グローバルは米NuScale PowerのSMRプロジェクトへの参画状況を説明した。三菱電機も計装制御システムなど原子力プラントを支える技術を紹介した。
サプライチェーン強化に関するパネルセッションでは、原子力産業基盤の維持に向けた課題が共有された。電気事業連合会は、将来的に原子力設備容量が減少する可能性を指摘し、2040年代にはリプレースが必要になるとの見通しを示した。原子力エネルギー協議会(ATENA)は製造中止品への対応やオンラインメンテナンスの導入などの取り組みを紹介した。日立GEベルノバは一般産業用部品を原子力用途に適用する「汎用品グレード格上げ(CGD=Commercial Grade Dedication)」の取り組みを説明し、供給途絶対策の一つとして普及を進めていく方針を示した。
エンジニアリング企業からは人材不足の課題も指摘された。太平電業は原子力プラント建設経験者が減少している現状を説明し、技術伝承の重要性を強調した。また三菱総合研究所はAIなどデジタル技術を活用した発電所入構手続きの効率化に関する研究を紹介し、作業環境改善の可能性を示した。
人材育成に関するセッションでは、産学官の連携による人材確保の取り組みが紹介された。経済産業省は原子力人材育成協議会を設置し、産学官連携による人材育成政策を進めていることを説明。文部科学省は大学連携による教育プログラム「ANEC」を紹介し、今後産業界との協力が重要となると指摘した。原子力規制庁も規制分野における人材確保の課題を説明し、産官学連携の必要性を強調した。
閉会挨拶で日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、第7次エネルギー基本計画の閣議決定から1年で、次世代炉の開発・設置に向けた政策議論が具体化していると指摘。投資判断を可能にする事業環境整備の議論や規制当局との意見交換、さらに電力会社によるリプレース検討の動きなど、原子力をめぐる取り組みが着実に進展しているとの認識を示した。また今回のシンポジウムにおいて、経済界やIT企業からも原子力への期待が示されたことに触れ、次世代炉開発の進展や海外プロジェクトへの参画が国内サプライチェーンの維持にも重要であるとの理解が共有されたと述べた。
その上で、原子力サプライチェーンを維持強化するためには、将来の原子力発電規模や建設計画の見通しを示すことが重要であると指摘。加えて、人材確保と育成は原子力の最大限活用を支える基盤であり、産業界と教育機関、政府が連携して取り組む必要があると述べ、シンポジウムを締めくくった。
今回の議論を通じて浮かび上がったのは、原子力の将来を左右するのは炉型技術だけではなく、それを支える産業基盤であるという点である。日本の精密加工技術や品質管理は、世界の原子力サプライチェーンの中核を担う潜在力を持つ。次世代炉の実装が視野に入りつつある今、政策の方向性と産業界の挑戦が噛み合えば、日本の原子力産業は再び新たな発展の段階に入る可能性を秘めている。





