原子力産業新聞

メディアへの直言

柏崎刈羽再稼働への大手新聞報道 相変わらずの「バイアス報道」 地方紙の独善ぶりも気になる

二〇二五年十二月二日

 新潟県の花角英世知事が1121日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6~7号機(出力各135kW)の再稼働を容認する考えを表明した。この判断に対して、大手新聞社はどう報じたのだろうか。やはりリベラル系新聞(朝日、毎日、東京新聞)と保守系新聞(読売、産経新聞)ではかなりの「差」が見られた。いつものことだが、地元紙がネガティブニュースで不安を増長させていることも分かった。

産経新聞はAI需要を強調

 新聞記事の中身を判断するのに一番適しているのは見出しだ。見出しを見れば、新聞社の姿勢がよく分かる。再稼働を最も肯定的にとらえていたのは産経新聞(11月22日付だ。1面で「柏崎刈羽再稼働容認 AI需要 脱炭素の安定電源」とうたい、3面で「東電 経営再建へ前進 1基1000億円の収支改善」の文字が躍った。

 日本は今後、人工知能(AI)向けデータセンターの増加で電力需要の拡大が見込まれる。その観点から原発の再稼働は安定電源となり、国から見ても悲願だったと見出しに「AI需要 脱炭素の安定電源」を入れたのが特色だ。3面で不祥事が続く東電に対する県民の不信があることにも触れたが、見出しに取るほどの内容にはなっていない。

 一方、読売新聞(11月22日付)は記事全体では肯定的だが、「東電綱渡りの経営 再稼働でも改善厳しく」と産経に比べると厳しい眼差しを向ける。再稼働で1基1000億円の収益改善が見込めるが、福島第一原発事故の賠償や廃炉費用が巨額なため、再建は厳しいと断じた。ただ、社会面ではほぼ一面を費やし「地元 経済安定に期待」との見出しで、東電への透明性のある運営を求めつつも、地元経済の活性化に期待する声をひろった。20日付記事でも「再稼働で首都圏の電力需給が緩和する」と報じ、根強い東電不信に対しても、「知事、時間かけ判断」との見出しで徹底した安全対策と経済振興策が再稼働を後押ししたと書いた。

 この二紙は、東電の問題点にも触れつつ、原発のメリットも伝え、バランスよく報じたと言えるだろう。

毎日新聞は東電への不信を強調

 これに対し、毎日新聞(1122日付)は1面の見出しは「柏崎刈羽再稼働へ 新潟知事容認表明」と通常の見出しだが、3面では一転「原発回帰 国に同調」「政府再三要請に知事決断 東電問われる適格性」と批判的になり、社会面では「東電が信じられぬ 不祥事山積 県民忘れず 福島避難者あきれた」と東電への不信に満ちた内容をくどいほど並べ、県民感情を置き去りにしたと厳しい。同日付の社説でも「解消されぬ東電への疑念」と題し、「東電の安全軽視の体質が改まっていない。新潟県民の不信を置き去りすることは許されない」ときっぱり。「再稼働に反対だ」と社自体が明確に主張しているわけではないが、県民の不安を楯に、再稼働は暴挙だというニュアンスがひしひしと伝わってくる。

朝日は5ページにわたり批判を展開

 朝日新聞(1122日付)は5ページにわたり、批判的なトーンを展開した。2面で「再稼働 県民の信待たず 議決狙う国、県議に働きかけ 福島への責任・東電適格性は」と不祥事続きの東電に「原発を動かす資格はあるのか」と相当に手厳しい。解説欄でも「東電が原発を運転することに県民の69%が心配だと答えている。電力は首都圏に送られ、新潟県民にはメリットがないとの見方も根強い」と地元にもメリットがないことを強調した。社説でも「疑念ぬぐえないままの容認。原発回帰に向けた重い判断を立地自治体に押しつけ、地元同意の手続きの不条理がまたも繰り返された」と地元同意が不条理だと一喝した。

 国が主体的に再稼働を決めれば、「地元の同意を無視した暴政だ」と批判し、地元の同意を重視すれば、今度は「地元に判断を押しつける不条理だ」と批判する。どちらにせよ、朝日新聞は批判したいのだというトーンが強く伝わってくる。

 東電の経営に関しても、「不祥事相次ぎ負債膨張、事故の責任重く いばらの道」と再建は極めて困難と断じた。社会面では福島の被災者を取り上げ、「福島を知るから複雑 『同じ経験してほしくない』 私たちの犠牲、なかったことにされるのか」と、柏崎刈羽原発が近くまた事故を起こすかのような書きぶりだ。

 朝日、毎日とも東電の「適格性」を大きく取り上げ、事故を起こした当事者が再稼働させる資格はあるのかと問う。二紙とも、反原発路線に沿った論調なのが改めて分かる。

東京新聞はさらに過激

 朝日新聞以上に過激なのは、毎度のことながら、東京新聞(1122日付)だ。1面の見出しに「県民の『東電不信』耳かさず」を入れ、2面で「『再稼働ありき』のシナリオ、柏崎刈羽『信問う』知事選択せず」とし、社会面では「被災者怒り『事故究明が先』 都民は賛否『電力安定』『安全不安』」とネガティブ情報が圧倒する。電力の需給面でも「原発の必要性は薄れている」と書き、23日付からは「見切り発車柏崎刈羽 東電再稼働を問う」と題した計三回の連載記事を載せた。どういうわけか再稼働に怒りをぶつける市民の名前は実名で登場するが、電力が安定すると肯定的な意見を述べる弁護士や講師の名前は匿名だ。

 再稼働の経済効果については「柏崎刈羽原発の6、7号機が再稼働したときの経済波及効果は10年で4396億円と試算されているが、単年度では440億円に過ぎず、新潟県の総生産額の8兆9000億円の0・5%ほどでしかない」と経済効果にも疑義を示す。東京新聞を読むと、再稼働のメリットは全く感じられない。

原発の拡大とリベラル系新聞の拮抗

 こうして見ると、やはり新聞はバイアス(偏り)に満ちている。注意深く読まないと洗脳されてしまう。原発への批判度を順番に並べてみると、一番過激な東京新聞を筆頭に、朝日、毎日となる。逆に肯定度の順番は、産経が強く、次に読売が来る。

 いま世界を見れば、原発は拡大傾向にあり、AIや半導体の需要拡大で、原発の必要性が高くなることは間違いない。そうなると、リベラル系新聞が原発批判だけで購読者を維持していくことが、どこまで可能なのかが気になるところだ。

地方紙も批判勢力として健在

 一方、地元の新潟日報はいつものことながら批判的だ。これまでにも原発に批判的な報道を繰り返してきただけに、批判自体は予想の範囲内だが、独自に延べ7142人(なぜ、延べ人数なのか。重複しているとしたら正確といえるのか疑問だが)を対象にアンケート調査を行い、その結果を報じた(1128日オンライン)のには、ただならぬ執念を感じた。東電が運転することに対し、「83%が不安を感じる」と報じ、「知事の判断を支持しない」が78%に上ったと報じた。まるで市民活動家並みのアクションだ。

 そして1128日には、鈴木直道・北海道知事が、北海道電力・泊原子力発電所3号機(91・2万kW)の再稼働を容認する考えを表明した。待ってましたとばかり、北海道新聞の社説(29日)は「知事の表明は拙速であり、到底受け入れられない。容認ありきでは道民の命と暮らしを守るリーダーとしての責務は果たせない」と反対論をぶちまけた。北海道新聞も新潟日報と似て、原発批判の双璧をなす印象をもつ。

 そう言えば、23年8月に福島第一原発の処理水が海洋放出されたときに、地方紙(福島県を除き)の社説の大半は「反対」だった。大手新聞の偏りだけでなく、地方紙の独善ぶりも要注意だと改めて感じる。

小島正美Masami Kojima
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、2021年3月まで「食生活ジャーナリストの会」代表を務めた。近著「フェイクを見抜く」(ウェッジブックス)。小島正美ブログ「FOOD NEWS ONLINE

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