原子力産業新聞

INSOの意義と日本における原子力人材育成戦略

――飯本先生に聞く、裾野から頂点へ続く教育の道筋

東京大学 環境安全本部
東京大学大学院 新領域創成科学研究科

飯本 武志 教授

2026.02.10

text:石井敬之

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1分でわかるサマリー

国際原子力科学オリンピック(INSO)は、高校生の競技の場にとどまらず、原子力科学技術を社会と結び直す人材育成プラットフォームとしての意義を持つ。教員育成と教材整備を通じて学校教育の質を底上げし、実験教育や科学的思考の重要性を再認識させる契機となっている。日本代表の活躍は、教育現場や産業界、行政の関心を喚起し、次世代人材の裾野拡大と多様なキャリア形成につながり始めた。

INSOは若者の挑戦を社会全体で支える循環を生み、原子力科学の平和利用と理解促進に資する新たな社会的基盤になるだろう。

裾野の拡大から、挑戦機会の創出へ

飯本先生:国際原子力科学オリンピック(INSO: International Nuclear Science Olympiad)は、国際原子力機関(IAEA)アジア太平洋地域 技術協力プログラム(TCP)での議論を受けて誕生しました。TCPは加盟国間の協力に基づき、地域全体としての連携を強化しレベルアップを図るプログラムで、その中のひとつに、原子力科学技術(NST)の教育や訓練を加盟国に広く届ける活動があります。研究者や技術者を養成する以前に、まずは若い世代に”原子力科学技術とは何か”を伝え、その基礎基盤を普及させる役割を担っていました。

2010年代初頭、私はIAEAの専門家として放射線教育のためにアジア各国から招待を受け、派遣されました。フィリピン、マレーシア、インドネシア、スリランカ、タイ、オマーン、ヨルダン、モンゴル……。各国の大学に体系的な原子力工学の教育課程がなく、大学院に博士課程を持つような仕組みがない、または弱い国がほとんどでした。学部段階で原子力科学技術を学べない国も多く、限られた大学でのみ専門性の高い教育が行われていました。

最初は私のようにIAEAから派遣された日本や欧米の専門家が、中等学校(中学、高校)の生徒を対象として、現地でモデル授業を任されました。

放射線測定の実演や核医学・農業利用の紹介は、生徒に強い印象を残しましたが、人材と時間が限られる中で、持続的に教育の輪を広げるのは困難だとすぐに気づきました。当初のプログラムでは、専門家がおよそ1週間現地に滞在し、生徒に直接講義を行った後、帰国するという方式。生徒たちの反応は非常に良く、「こんなに面白い分野があるのか」と目を輝かせていました。しかし、専門家が帰国すると、現地の先生たちは「次の段階ではどう教えればいいのかわからない」という状況に陥ってしまったのです。

これが転機となり、現地教員の育成に舵が切られました。専門家が直接生徒に教えるのではなく、現地の先生たちを育てることで、継続的に教育を広げる仕組みに変えたのです。1週間現地に滞在して、1日か2日かけてまずはモデル講義を行い、その後先生方とディスカッションをします。実際の学校現場での教育実施にあたり、何に気をつけなければならないか、準備には何が必要か、片付ける時には何が必要か、そして想定される質問への対応についてざっくばらんに話し合ったのです。この仕組みにより、現地の先生たちが次第に自信を持って原子力科学の授業を行えるようになり、活動は拡がって加速し、TCPの第2期となる2018年~2021年の4年間で「100万人への教育」という当初の目標を大きく上回る成果を得たのです。

その頃を振り返ると、正にコロナ禍中でどの国も対面での学校教育活動が困難になった頃、つまりオンライン教育が急速に普及しはじめた時期のことです。当初は各国教育省が定める教育シラバスの内容すら十分に実施できない学校環境だったときに、「追加的な教育に手を出せるか」「実験ができないオンライン教育に意味はあるのか」という困難や疑問にも多々直面しましたが、関係者の熱意や工夫が途切れることはなく、実際それなりに上手くいったのです。この取り組みにより、教育の質を保ちながら、結果としてより多くの生徒にアクセスできるようになり、最終的には200万人規模の教育実績に至りました。

このような活動を積み重ねた結果、裾野が広がって次の課題が出現しました。「もっと深く、もっと難しい内容を学びたい」「専門教育を受けたい」と望む声が生徒側から次々と上がってきたのです。このTCPプログラムを通じて、各国の中学生、高校生の一部が原子力科学技術分野への強い関心をもつようになったのですが、自国の大学ですと十分な教育を受けられないという構造的な課題がますます浮き彫りになってきました。各国の大学は限られた人材、施設でそれなりに頑張ってはいるのですが、国としてシステマティックに次世代を育成するとか、原子力科学技術分野の博士号取得者をたくさん育てるという形には、実態はほど遠かったのです。

このような背景で、大学以上の教育レベルを向上、強化するために、各国の大学教員を育成する目的で「国際原子力科学技術アカデミー(International Nuclear Science and Technology Academy; INSTA)がスタートし、それとほぼ同時期に、今回の話題であるINSOをオマーン教育省の方が提案しました。オマーン国内での国際科学オリンピックの責任者だった彼女が「原子力科学にもオリンピックを」と訴えたのです。つまり、次世代のトップクラスが競争する場を作ることで各国関係者を動機づけ、レベルアップを図る戦略です。TCPの裾野拡大戦略の成果と、この教育行政からの声が結びつき、INSO誕生への道が開かれました。2022年に「INSOを開催しようじゃないか」ということで合意され、その準備委員会がIAEAのTCPの枠組みの中で結成され、どういう設問にするとよさそうか、どういう仕組みを作ったら実現するかと、などの検討を開始しました。

TCPでの各国への出前授業はどのようなものですか?

初期は専門家が直接生徒に授業しましたが、すぐに教員研修方式へと転換しました。現地中等学校のコアとなる教員を育てることで、ノウハウが持続的に広がり、実質的には2年間程度の短期間に、200万人規模の教育に成功しました。具体的には、1週間の研修で現地教員を指導し、その後は現地教員が中心となって生徒への教育を展開していくシステムです。

なぜ高校1〜2年生を主な対象にしたのですか?

大学入学時にはすでに専門分野が決まっているケースが多く、入試の本格的な準備をする高校3年生の段階でも大学進路をほぼ決めてしまっています。したがって、その前の世代である16~17歳が主な対象となりました。18歳では遅いのです。進路が固まる前の17歳前後なら柔軟に学べます。
この多感で吸収力の高い時期に原子力科学技術に触れることで、多様なキャリアの可能性がひらけます。また高校生世代は興味を持った内容には学習意欲が高く、自らの意志で学び、国際的な競技にも積極的に参加する傾向があることは、すでにある多くの国際「科学」オリンピックが証明しています。

INSOの発案者が教育省関係者だったことは、どのような効果がありましたか?

産業界関係者からの提案だと各国の政策含め、第三者的にはさまざまな意図が想像されそうですが、教育の行政と現場の視点からの提案だったため、生徒の可能性を純粋に広げ、また伸ばすための教育プラットフォームの構築が目的であることが明確になったように思います。

コロナ禍でのオンライン教育の効果はどうでしたか?

当初は実験ができない点を心配していましたが、バーチャル実験や動画教材により、むしろ教育の質も、機会も飛躍的に向上したように感じます。地理的な制約もなくなり、より多くの生徒や教員が、国境を越えてでもアクセスできるようになったのは、圧倒的に有利でした。

200万人規模の教育達成の要因は何ですか?

現地教員による教育システムの構築に関する努力と、コロナ禍で整備されたオンライン教育の普及が主な要因と思います。魅力と情熱をあわせもつ現地のリーダー教員が中心となって活動を展開することで、持続可能な教育システムが構築されていきました。

到達可能だが高難度、公平性を支える仕組み

飯本先生:INSOの設問の設計思想は「到達可能だが高難度」というバランスにあります。5時間の理論試験と3.5時間の実験試験は、高校で学ぶ数学や物理を軸にしながらも、核分裂や核融合、核医学、環境、宇宙、歴史や安全など多彩な応用を扱います。発電に限らず、人々の生活に密着した原子力科学技術の幅広さを体感できるのです。

理論試験では、5問が出題されます。高校生でも理解できるように設問は十分に工夫され、原子力科学技術の幅広さを体感できる内容となっています。

実験試験では、同一機材を全員に揃えるのは困難なため、多くは模擬実験形式で提示されます。映像や図表などでデータと条件を示し、それを基に考察させる方式を採用しています。例えば、放射線測定の実験試験では、実際の測定器の状況を見せて、測定器の読み取り値から放射能や線量を計算する、測定条件の違いが結果に与える影響を分析する、測定結果の信頼性を評価するといった問題が出題されています。このような形式により、実際の実験経験がなくても、実験の本質を理解できるようになっています。

設問では原子力科学技術の社会への応用を重視し、平和利用の理念も込められています。単なる学術競技ではなく、社会に貢献する科学技術の理解を促進する教育的な意義をもっている点にINSOの特徴があるのです。

公平性を担保する仕組みも徹底しています。問題案を開催国の科学委員会が作成し、各国の代表選手団に所属する2名の専門家(リーダーと称する)が全員で事前に全問をレビュー、文化や教育制度の違いで不利等がないかもチェックされます。各国リーダーによる採点と科学委員会による採点を並行して行い、両者の採点結果を比較し、差異があれば交渉で調整します。

実験試験はどのように実施されますか?

同一機材を全員に揃えるのは困難なため、多くは模擬実験形式で提示。映像や図表でデータと条件を示し、それを基に考察させます。実際の測定器の様子を見せながら、測定値から放射線量を計算したり、測定条件の影響を分析したりする問題などが出題されています。

公平性をどう担保していますか?

各国リーダーと現地科学委員会が並行して採点し、結果を突き合わせます。差異は交渉で調整し、透明性を確保します。

他の国際科学オリンピックとの違いは?

INSOは医療への応用や食品、環境の話題など生活に直結する題材も扱う点が特徴的です。また、平和利用の理念も込められており、単なる学術競技ではなく、社会に貢献する科学技術の理解を促進する教育的な意義をもっています。

問題の難易度はどの程度ですか?

高校で学ぶ数学や物理を軸としながらも、核分裂や核融合、核医学、環境、宇宙、歴史、安全など多彩な分野を扱います。「到達可能だが高難度」というバランスを重視しており、高校生でも理解できるレベルで、原子力科学技術の幅広さを体感できる内容となっています。

支援委員会の立ち上げと「学びの道筋」

飯本先生:私を含む有志がINSO日本代表選手団の編成を目指す決断をしたのは、2024年、第1回大会直後の8月中旬でした。「学校教育で原子力を扱うのは難しい」という風潮もあり、当初には「日本から代表選手を送ることができるのか」との疑問もありました。

それでも有志が動き続け、2024年の年末に日本チーム出場支援委員会(現 日本代表選手団出場支援委員会)を正式に設立しました。外務省や文部科学省の関係者が理解を示してくださり、産業界や専門者コミュニティも少しずつ輪に加わってくださいました。関係者のボランティアでの献身的な活動を基盤にして、支援委員会の活動が始まったのです。

日本の代表選手の選考と育成には、ANEC(未来社会に向けた先進原子力教育コンソーシアム)のe-learningを入り口にして、国内予選、集中トレーニング、本選出場という流れを整えました。INSOのシラバスに沿って既存教材をマッピングし、不足分は新規教材を制作して補っています。このANECの強みは幅広い内容をカバーする教材の豊富さですが、高校生にとっては難易度が高い点が現時点での課題です。今後はレベルに合致した教材整備も不可欠になると考えています。選手の育成という意味では、女子生徒の参加比率の向上や英語力の強化も、我が国のみならず地域の国際的な大きな課題になっています。

2025年夏の第2回大会に向けた日本代表選手候補の募集では、全国から挑戦者が集まりました。高校の理科教員が集う日本理化学協会を通じて全国に案内を配布しましたが、おそらく実際の応募者の多くは、ウェブなどで自らで情報を入手した生徒たちのように感じます。アメリカの高校に留学している日本の生徒からも「自分は出場できるか」という問い合わせがあったほどです。このような自発的な動きや関心の高さは、「科学オリンピック」というプラットフォームそのものの魅力を物語っているのではないでしょうか。

支援委員会立ち上げの最大のハードルは?

事務局体制の構築と選手団の大会渡航資金の準備でした。前者については、日本原子力文化財団の矢野伸一郎専務理事がこの活動の趣旨に強く共感してくださり、同財団の中での事務局設置を実現してくださいました。また、日本アイソトープ協会の藤島かおり部長が実務のとりまとめ役を担ってくださり、日本原子力研究開発機構・原子力人材育成センターのメンバーがポータルサイトを整備くださったり、他にもさまざまな場面で本当に丁寧に対応いただいた結果として、なんとか形になったのだと思います。
後者についてのハードルは現在も高いままで大きな課題のひとつではありますが、外務省や文科省関係者の理解や専門家の献身的なボランティアが強い支えになりました。
原子力に関連した教育活動に対する風当たりは必ずしも弱くはなかったのですが、高校生が抱く興味や挑戦を止めたり、可能性を我々大人が閉じたりすることは良くないと、できるだけ広く多くの方から理解を得たいと奔走しました。

文部科学省のANEC教材をどのように活用?

INSOのシラバスに沿って既存教材をマッピングし、不足分を新規に追加。高校生でも学びやすい形を整備しています。基礎編から応用編まで段階的に学習できるよう、難易度を調整した教材を現在も開発しつつあります。

日本の、あるいはアジア太平洋地域の特徴的な課題は?

英語対応、挑戦者の女子比率、教材難易度の調整、などです。INSOでは公平性と多様性を追求した設計が求められています。都市部在住ではない、地方の高校生もさまざまな負担や心配なく参加しやすいように、オンラインでの予選会開催もふくめ、工夫を続けています。

福島第一事故後の教育環境はどのようなものでしたか?

結果として、当時は原子力に関する教育の実施が大幅に限定され、ちまたでは「原子力は危険」という認識も広がりました。トラブルを避けるために、学校教員が原子力科学について教えることを断念する傾向も生じ、科学的な理解を深める教育が困難な状況も一部にあったように思います。 一方、現在はその傾向はだいぶ弱まってきたようにも感じ、学校環境での反応も落ち着きつつあると聞いています。

地域格差の解消に向けた取り組みは?

公式ウェブサイトを通じての情報提供や、日本理化学協会などの協力を得つつ、全国の高校への通知などを展開していますが、今後は地域の大学との協力体制の構築なども想定しています。現在は都市部の進学校からの挑戦が多い傾向にありますが、全国レベルで元気で優秀な人材を発掘することを目指しています。

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「全員メダルの快挙と、見えない戦い」

全員メダルの快挙と、見えない戦い

飯本先生:日本代表は初出場で4人全員がメダルを獲得しました。金1、銀2、銅1。そもそも「この活動の真の目的はメダルをとることではない」と私自身は位置づけており、支援委員会の設立当初には、まずは挑戦してくれる複数の高校生がいて、日本代表団を無事にマレーシアに送ることを第一目標に考えていたので、期待を大きく上回る結果で感激しました。

金メダルを獲得したのは私立東海高等学校3年の田中優之介さん。終始落ち着いた存在で、圧倒的な総合力でした。銀メダル獲得者2名のうち、国立筑波大学附属駒場高等学校3年の田部主真さんは実験試験最高得点賞も受賞しました。普段から実験教育を重視している学校環境で培った経験が高得点につながったのだと思います。私立武蔵高等学校3年の堀航士朗さんは理論問題で高い得点を獲得しました。数学と物理の基礎がしっかりしており、複雑な計算問題も正確に解くことができたようです。銅メダルを獲得した大阪府立北野高等学校2年の佐々木柚榎さんは、最優秀女性選手賞も受賞しました。彼女は豊富な国際経験と準備の周到さで会場を魅了し、国際的な舞台での存在感を示していました。

左から田部さん、堀さん、田中さん、佐々木さん ©INSO JAPAN Team

田部さんが受賞された実験最高得点賞は、日本の実験教育の質の高さを示す象徴的な出来事でした。彼は器材の扱いに慣れており、データの分析能力が高く、国際的な舞台でも落ち着いて行動していました。佐々木さんが受賞された最優秀女性選手賞は国連が強く意識している多様性重視の具現化のひとつで、この賞はIAEAから授与されたものです。INSOがこの枠組みで女性の参加を積極的に促進したいと考えていることを示す、象徴的な賞とも言えます。

舞台裏では、採点交渉が繰り広げられました。たとえば、日本の選手の答案で、正しい答えに到達してはいるが、プロセスが標準的な解法と異なっていた問題が特定されました。開催国の科学委員会が「プロセスが違う」として0点を提案してきたところ、日本のリーダーが現場で再計算を行ってみせ、プロセスが異なっても正しい答えに到達できることを証明しました。この結果、該当選手の得点が認められて、生徒の努力が正当に評価されたのです。この交渉は、単なる得点の調整ではなく、選手の努力を守り、思考を正しく評価することの大人の責任、公平性を確保するための透明性のあるプロセス、国際的な舞台での日本の教育の質の高さを示す機会、などの重要な意義もあるでしょう。こうした各国リーダーの奮闘もまた、競技の一部と言っていいのかもしれません。

日本代表選手全員のメダル獲得は、国内外で大きな反響を呼びました。国内ではメディアで報道され、教育関係者からの関心も高まり、次回大会への参加希望者の増加と原子力科学教育への理解なども、他のさまざな要因とも連動して、少しずつ広がりつつあると感じます。国際的には他の参加国からの高い評価を受け、日本の教育システムや支援委員会の構造などへの関心も頂戴しており、次回大会へのさらなる期待の高まりと国際的なネットワークの拡大にもつながっています。

全員メダルの要因は?

なんと言っても代表選手の基礎学力の高さと原子力科学への興味の強さ、短期間に集中できる気力と体力、そして送り出す側の学校教員や保護者の理解、支援者らの後押し、に尽きると思います。
特に日本の学校教育システムが培ってきた数学と物理の基盤とその応用は、国際的な舞台でも通用することが証明されたと思います。代表選手の異文化への適応能力が高かったことも、大きかったように感じます。

学校から産業へ、そして社会全体へ

飯本先生:INSOは若者と社会をつなぐプラットフォームのひとつです。高校生の挑戦は、学校教育のさらなる向上、教員や専門家の育成、教材整備などへも波及します。

先にお話しした通り、福島での原子力災害の後、一部の地域や学校では、いわゆる原子力科学を学校教育のなかでどのように扱うべきか、悩みも多かったと聞いています。しかし、INSOの活動が日本をとりまく各国の動きとも連動して、原子力科学が、視野の広くかつ高いレベルの教養分野でもあると、学校現場でも認識されつつあると感じます。実験最高得点賞の獲得をきっかけに、実験教育の重要性が再認識されることを強く期待しています。実験設備の充実、実験指導者の育成、実験教材の開発なども、関係者へのメッセージになり得ます。

教員や専門家の育成にも強く関連があります。学校教員の原子力科学に関する基礎知識の習得、実験技術の向上、国際的な視点の共有などが重要で、これを支援する専門家集団や個人も、それに足る準備と訓練が必要になるでしょう。英語での直接的な理解や表現も重要な要素になりそうです。

INSOへの挑戦者を指導、支援するための仕組みも、支援委員会では選手育成WGを設置して、順次整備を進めています。

INSOに日本代表選手団を送ろう、と決断したとき、挑戦者の教育や選手の育成を実際にどのようにするのが良いか、かなり悩んだのですが、ANECの存在がふっと脳裏に浮かび、すぐに北海道大学の中島宏特任教授に相談しました。中島先生を通じて文科省や名古屋大学・山本章夫教授、北海道大学・小崎完教授ほか、多くの関係者のご賛同を得ることができ、先にお話ししたような形で利用させていただくことになりました。

ANECは当初、主に大学生や大学院生、さらには原子力施設等の専門家・技術者の育成をイメージして設計されたとお聞きしています。高等教育機関ですでに展開されていた講義プログラムを基盤にして、国内関係者の経験を総力をあげて結集し、e-learningとして体系化しているもので、すでに多彩な教育教材や場が用意され、また現在も開発が続いています。ここに、INSO挑戦者向けの教材としての視点も追加していただいたわけです。

これは本当にありがたかったですね。ますます国内最大の原子力人材育成プラットフォームとしてのANECの役割が拡がり、期待も高まり、また内容自体もどんどん深化していくものと想像しています。

さらに、INSO挑戦者のキャリア形成への影響も大きいと思います。挑戦者はたとえば「核医学をもっと知りたい」「核融合に挑みたい」と口にしており、エネルギー分野のみならずさまざまな分野への関心も高まっています。INSOは次世代メンバーと共に原子力科学技術の幅広さを皆で実感し、関係者のキャリアの選択肢を広げる機会でもあるのです。

INSOを通じて出会った仲間たちは、年齢や国籍を問わず、さまざまな場面で再会することになり、国内での連携協力活動に留まらず、国際的な活動やネットワークの形成の中核にもなり得るでしょう。

多様な若者が挑戦する舞台へ

飯本先生:INSOの広がりは、国際社会全体にも一定の影響力をもつだろうと期待しています。多くの人々が各国の若い挑戦者たちの頑張りを認知するプロセスで、一般の方々の原子力科学技術への理解が進み、結果として平和利用や安全確保の視点の強化や、関連の議論が落ち着いてしっかりとできる健全な社会環境をめざす、そのひとつのきっかけになってほしいと思います。

私は、10年後のINSO日本代表選手候補選考会で、100人を超える規模の応募があり、全国の若者が難問に挑戦する元気な姿を想像しています。

理系だけでなく文系志望の生徒も参加し、法律や経済、あるいはメディアなど、やや離れた分野にも感じる視点でも原子力科学技術を見ていただく。INSOは「科学分野のひとつの国際大会」の位置づけのみならず、「社会全体の基盤的人材育成のプラットフォーム」の役割も担えると考えています。

あまりにたくさんの挑戦者が本当に集まったら、予選会のコントロールで事務局が大混乱するかもしれませんが、そんなことも想定しながら、関係者のご理解と協力を得つつ、体制の整備と準備を着実に進めて参ります。

キャリア形成とのつながりは?

ご承知の通り原子力科学技術はエネルギー分野のみならず各種産業、医療、農業など、多分野に広がっています。INSOのシラバスではその領域のすべてを扱っています。挑戦者たちは国内外の大学進学、研究機関、産業界、国際機関への就職など、多様な進路を選択しています。

教材整備はINSO以外にも役立つ?

はい。たとえば、中学校や高校でのクラブ活動や、モチベーションの高い学校教員の自己啓発にも活用され、このことがトップクラスの科学教育の牽引力や、全体の底上げをしていくひとつの起動力になり得ると考えています。

平和利用のメッセージはどう伝わる?

INSOシラバスでは、医療や環境分野を含む、平和利用のすべてを扱っています。また、利用の延長線上にある、過去に経験した事故やトラブルも範囲に入っています。 設問策定に携わる大会科学委員会は、科学の視点でこれらすべてにバランスよくアプローチすることを目指しています。

学校教育への具体的な影響は?

教員にとっても、学校での原子力科学教育は容易なことではありません。モチベーションの高い生徒が自らで学ぶことのできる最先端かつ最高レベルの教材の整備を目指しているこの活動は、その強力な支援にもなるでしょう。また、実験教育の重要性も再認識されるきっかけにもなってほしいと願っています。

10年後に望む姿は?

全国からの多くの挑戦者、人材育成と連携協力に関するさらなる強固な国際ネットワークの形成です。INSOの理念が国内外の社会に浸透し、根づいていく証となります。理系だけでなく文系志望の生徒にも興味をもっていただき、一見原子力科学技術とは離れた分野の視点からも参加いただけることが叶えば、INSOは「科学分野のひとつの国際大会」の位置づけのみならず、「社会全体の基盤的人材育成のプラットフォーム」の役割も担えると考えています。

INSO活動を通じて感じる、国際社会のなかでの日本の役割や期待はどのようなものですか?

ANECに代表される高いレベルでの教材開発の実績、内閣府や文部科学省などの国のみならず産業界、民間も力を入れてきた長い歴史をもつ教員・専門家育成研修の仕組みと経験、学校教育の直接的な支援など、各国の関係者が自国の基盤整備のプロセスで日本モデルを参考にしたいと声をあげています。日本としては官学産が一体となって彼らの声と求めに丁寧に応え、リーダーシップを発揮して、情報発信、人材の育成と交流、共同開発の中核の役割を担うべきでしょう。

さまざまな技術の進歩はどのようにINSO関連で活用できますか?

直近では、バーチャルリアリティによる実際の原子力施設の訪問や各種実験の体験、人工知能による個別最適化された学習プログラムの開発、ブロックチェーンによる代表選手候補者の自習進度管理、リアルタイム翻訳による言語の壁の解消などの可能性に期待しています。

飯本先生からのメッセージ

飯本先生:INSOは、国際科学オリンピックのひとつで、原子力科学技術に強い興味と学習意欲をもつ高校生が知識や応用力を競うプラットフォーム。これはIAEAによるアジア太平洋地域の技術協力プログラム(TCP)が進める「人材の裾野拡大」事業に強く関連づけられています。

一方、単なる次世代層が原子力科学の知識や応用力を競う場、に留まらず、年齢や国籍、専門性を問うことなく、関係するすべてのメンバーによる理念や文化の理解と共有、人材育成や技術の伝承、技術や経験の向上、連携協力の推進等、幅広い意味ももちます。日本の若者の中にもし挑戦意欲があるならば、彼らのINSO参加の機会を大人の都合で奪ってはいけないとの合意から、日本代表選手団を結成、支援する動きになったわけです。

現時点では有志による完全ボランティアに頼って運営している事務局体制ではありますが、第3回大会に向けて、原子力人材育成ネットワークの共同事務局である日本原子力研究開発機構の中に事務局を移し、少しずつ機能強化をしつつあります。多くの関係者、関係機関・組織のご理解と、さまざまな形でのご協力を引き続き頂戴しながら、この仕組みと動きを安定的、かつ発展的に展開して参りたいと考えています。

高校生の皆さんへ:

INSOは他者と競い合いつつ自分の可能性を試す、国際規模でのプラットフォームのひとつです。何かに興味をもち、自ら目標を設定してそれに向かって努力するプロセスの大切さをしばしば耳にすると思います。INSOが扱う原子力科学はエネルギー・産業分野だけでなく、医療、農業、環境なども含め、生活にも密着した様々な分野に強く、深く関係しています。ぜひ原子力科学の特徴と奥深さを知っていただいと思います。この分野や海外とのコラボに興味があるようならば、私どもが用意したINSOという挑戦プラットフォームを上手にご活用いただくと、いままでの経験を大きく超え、視野も広がると思います。

ご家族・保護者の皆さんへ:

どのような内容を学び、何に挑戦しているか、ぜひ興味をもってご覧ください。とても難しい内容に取り組んでいることを実感いただけるでしょうし、どの部分が面白いと感じるのかもぜひ話し合っていただきたいと思います。挑戦者の努力を理解し、あたたかく応援いただけますと幸いです。

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