原子力産業新聞

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1分でわかるサマリー

大阪大学核物理研究センターで実施された研修において、参加者は加速器を用いた放射性同位元素(RI)の製造過程を体験した。そこでは、粒子加速からターゲット照射、γ線測定に至る一連の工程を通じて、RI製造の基礎が実践的に示された。加速器によるRI製造は、医療や研究を支える重要な技術であり、その現場を実際に体験することが人材育成の出発点となる。

医療や科学研究を支える放射性同位元素(RI)。その需要が世界的に拡大する一方で、製造を担う人材は十分とは言えない状況が続いている。こうした中、大阪大学で3月17日、加速器を用いたRI製造を実践的に学ぶ3日間の研修が始まった。募集開始からわずか3日で定員に達した本研修は、この分野への関心の高さを如実に示している。開会挨拶に立った核物理研究センター(RCNP)センター長の中野貴志教授は、次のように指摘した。

「RIを製造し、分離し、それを利用までつなげる人材は、世界的に見てもまだ少ない」

そのうえで、「この技術は教科書だけでは絶対に身につかない。実際に手を動かし、経験を積むことが不可欠だ」と述べ、実習中心の研修の意義を強調した。

参加者は、物理、化学、医学、工学など多様な分野のバックグラウンドを持つ大学院生や学部生。放射化学の知識を補いたいとする物理系研究者や、製造工程を実際に理解したいとする医療系の参加者など、その動機もさまざまだ。分野横断的な人材が集う場となっている点も、本研修の特徴である。原子力産業新聞では、大阪大学で実施されたRI製造研修に密着し、加速器による生成から化学分離、測定・解析に至るまでの一連の工程を追った。

現場でしか得られない経験と、理論と実験のギャップ、そして「うまくいかない」ことから始まる理解――。RI製造の最前線にある技術と人材育成の実像を、3回にわたって報告する。

RCNPの中野センター長

錬金術から始まった加速器の物語

最初の講義では、大阪大学RCNPの神田浩樹先生が、加速器とRI製造の関係について解説した。

神田先生は、意外にも「錬金術」から話を始めた。金を作り出そうとした古代の錬金術は、やがて化学へと発展した。しかし、元素そのものを変えることはできなかった。物質の組み合わせは変えられても、「元素を別の元素に変える」という人類の長年の夢は実現されなかったのである。

その転機となったのが20世紀初頭、ラザフォードによる原子核反応の発見である。アルファ線を窒素に照射し、酸素へと変換する実験は、人類が初めて人工的に元素を変換した例とされる。だが、この反応を引き起こすには大きな壁がある。原子核同士はともに正の電荷を持つため、互いに反発し合う。この「クーロン障壁」を乗り越えるためには、キロ電子ボルトではなく、メガ電子ボルト(MeV)級のエネルギーが必要となる。

この高エネルギーを人工的に生み出す装置こそが、加速器である。

神田先生は、「電荷を持つ粒子を、静電場や高周波電場によって加速し、原子核に衝突させることで核反応を起こす」と説明する。こうして目的とするRIを生成する。加速器は、かつての錬金術が夢見た「元素変換」を現実のものとした装置であり、いわば現代の“賢者の石”とも呼べる存在だ。

大阪大学・神田先生

サイクロトロンという装置

今回の研修で用いられるのは「サイクロトロン」と呼ばれる加速器である。

磁場によって粒子を円運動させながら、高周波電場と同期させて繰り返し加速することで、粒子に高いエネルギーを与える仕組みを持つ。粒子は加速されるにつれて軌道半径を広げ、最終的に外部へ取り出される。

大阪大学RCNPには複数のサイクロトロンが設置されており、基礎物理研究からRI製造まで幅広い用途に用いられている。講義では、加速器によるRI製造が医療分野においても重要性を増している点が強調された。

現在、日本で使用される医療用RIの多くは海外の原子炉で製造され、航空輸送によって供給されている。しかし、半減期が短い核種については輸送が難しく、供給の制約となっている。

これに対し、加速器を用いれば国内での分散型製造が可能となり、短寿命RIの利用拡大につながる。実際に、PET診断で用いられる核種の多くは、病院内の小型加速器で製造されている。加速器は単なる研究装置ではなく、医療を支えるインフラとしての側面を強めているのだ。

RCNPのリングサイクロトロン

RIはどのように作られるのか

神田先生の加速器の原理に続き、東北大学・先端量子ビーム科学研究センターの塚田和明先生は、RIがどのように生成されるのか、その基本的な考え方を解説した。現在確認されているRIは約3,000種にのぼり、理論的にはさらに多くの核種が存在するとされる。これらは、核反応によって人工的に生成することができる。

RIの製造方法は大きく二つに分けられる。

一つは原子炉を用いる方法である。中性子を原子核に捕獲させることで同位体を生成するもので、現在の医療・産業利用の主流となっている。もう一つが、加速器を用いる方法である。陽子やα粒子といった荷電粒子を加速し、標的に衝突させることで核反応を引き起こす。

両者の違いは本質的なものだ。原子炉では中性子を用いるため、原子番号(元素そのもの)は変わらず、同位体の生成に限られる。一方、加速器では荷電粒子を用いることで、原子番号そのものを変えることができる。

塚田先生は、「加速器では多様な核種を生成できる点が大きな特徴だ」と説明する。加速器を用いたRI製造は、まだ一部の核種に限られているものの、今後の発展が期待される分野である。特に、短寿命核種の製造や分散型供給といった観点から、医療分野における重要性は増している。今回の研修も、こうした流れを背景に、加速器によるRI製造技術の理解を深めることを目的としている。

東北大学・塚田先生

核反応は「確率」で決まる

では、どのようにして目的の核種を作り出すのか。その鍵となるのが「断面積」という概念である。断面積とは、ある核反応がどの程度の確率で起こるかを示す指標であり、直感的には原子核の“当たりやすさ”を表すものだ。

しかし実際の核反応は単純ではない。粒子が原子核に衝突しても、目的の核種が必ず生成されるわけではなく、中性子や陽子の放出など、複数の反応経路が存在する。例えば、陽子を照射した場合でも

  • 中性子が1つ放出される反応
  • 2つ放出される反応
  • 別の粒子が放出される反応

など、さまざまな過程が競合する。このため、「どの反応がどの程度の確率で起こるか」を示す断面積の把握が、RI製造の設計において極めて重要となる。

塚田先生は、断面積に加え、ビーム強度、照射時間、標的の厚さといった条件を組み合わせることで、生成される放射能を事前に予測できると説明した。すなわち、

  • ビーム条件
  • 標的条件
  • 核反応の断面積

が分かれば、どれだけのRIが生成されるかを計算によって見積もることができる。

これは、RI製造が単なる経験則ではなく、物理量に基づいた“設計可能な技術”であることを意味する。研修で行われる演習でも、実際の照射条件と測定データから断面積を求める手法が扱われており、参加者は理論と実験の対応関係を体験的に理解していく。

見えない放射性同位元素を“測る”

加速器によって生成されたRIは、そのままでは利用できない。どんなRIがどれだけ生成されたのか――それを正確に把握する工程が不可欠となる。この役割を担うのが、γ線測定である。

日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センターの浅井雅人先生は、γ線スペクトロメトリの基礎について解説した。

放射性核種は崩壊の過程で、固有のエネルギーを持つγ線を放出する。このエネルギー分布を測定することで、どの核種が存在するかを特定できる。さらに、そのピークの強度(カウント数)を解析することで、試料中に含まれる放射性物質の量を求めることができる。

すなわち、

  • エネルギー → 核種の同定
  • カウント → 放射能の定量

という対応関係が成り立つ。浅井先生は、「今回の実習では、生成したRIをγ線測定によって評価する」と述べ、測定が研修の中心的な工程であることを強調した。

測定には、高純度ゲルマニウム(HPGe)半導体検出器が用いられる。この検出器は、液体窒素で冷却された高純度結晶を用いることで、非常に高いエネルギー分解能を実現している。わずかなエネルギー差も識別できるため、複数の核種が混在する試料でも、それぞれのγ線ピークを分離して検出することが可能だ。検出器に試料を置くだけで測定できる一方、その内部では精密な物理過程が進行している。

JAEA・浅井先生

スペクトルを読み解く

測定によって得られるのは、γ線のエネルギー分布を示すスペクトルである。横軸はエネルギー、縦軸はカウント数を表し、特定のエネルギーに対応するピークが現れる。このピークの位置が核種の同定に、面積(カウント数)が放射能の定量に用いられる。

ただし、実際の解析は単純ではない。ピークの下にはバックグラウンド成分が存在するため、それを差し引いた「正味カウント」を求める必要がある。また、検出器の効率やγ線の放出確率を考慮することで、初めて正確な放射能が算出される。

測定において重要な要素の一つが「検出効率」である。γ線は四方に放出されるため、そのすべてが検出器に入射するわけではない。また、入射したγ線のすべてが検出器内でエネルギーを完全に吸収するわけでもない。さらに、検出効率は

  • 検出器の大きさ
  • 試料との距離
  • γ線のエネルギー
  • 試料の形状や密度

といった条件に大きく依存する。このため、既知の放射能を持つ標準線源を用いて、測定条件ごとに検出効率を校正する必要がある。

測定時間の扱いにも注意が必要だ。検出器は信号処理のためにわずかではあるが有限な時間を要するため、その間に入射した放射線は計数されない。この「数え落とし」を補正するため、実際の測定では“リアルタイム”ではなく“ライブタイム”が用いられる。

また、カウント数が少ないと統計的な誤差が大きくなるため、一定以上のカウントを確保することも重要となる。こうした一連の処理を経て、初めて“見えない”放射性同位元素の量が数値として表現される。

今回の研修では、模擬の形ではあるが参加者が①自ら作製したターゲットにビームを照射し、②生成されたRIをこのγ線測定によって評価する。スペクトル上に現れるピークは、模擬ではあるが、自らの手で作り出した核反応の証だと考えて良い。講義で学んだ理論が、数値として、そしてグラフとして可視化され、経験として記憶されることになる。

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「ターゲットは自らの手で作る」

ターゲットは自らの手で作る

一連の講義を終えた参加者たちは、いよいよ実習に入った。

最初に行われたのは、加速器によるビーム照射に用いるターゲットの作製である。RIの生成は、加速器だけで完結するものではない。ビームが照射される標的――すなわちターゲットの設計と加工が、生成結果を左右する重要な工程となる。

実習で用いられた材料は、実際のRI製造に使用されるものとは異なる。

今回のビーム照射実習で想定されている反応では、イットリウムの標的にビームを照射し、核反応によってジルコニウムのRIを生成する。しかし、こうした実際のターゲット材料は希少で高価なものが多く、教育用として扱うには制約が大きい。このため今回のターゲット作製実習では、アルミニウムや銅といった比較的取り扱いやすい金属箔を用い、ターゲットの構造や加工手順を模擬的に再現する方法が取られた。

これは単なる代替ではない。ターゲットの厚さや構造がビームエネルギーや核反応にどのように影響するか――その設計思想を理解するための、教育的な工夫である。

ミリ単位の精密作業

作業は、厳密な取り扱い手順の確認から始まった。金属箔は直接手で触れず、必ず使い捨ての手袋を着用して扱う。わずかな汚染や損傷が、後の照射結果や測定精度に影響を与えるためだ。参加者にはアルミと銅の金属箔が配布され、それぞれがターゲット材料として加工されていく。

金属箔は、指定されたサイズに切断される。ターゲット替わりの銅箔は、重量を電子天秤で測定し、四辺の長さを測って面積を算出して厚さを求めた後、1.5センチ四方に切断する。加速器で加速された粒子は、ターゲットを通過する際にエネルギーを失う。そのため、ターゲットの厚さは、どのエネルギーで核反応が起こるかを決定する重要な要素となる。アルミ箔はさらに大きめに切り出され、ターゲット全体を保持する構造材として用いられる。

薄い金属箔を切断する作業は見た目以上に難しい。指導にあたった大阪大学・放射線科学基盤機構の村上昌史先生は、「カッターナイフの刃を長めに出し、力をかけないことで、歪みや破れを避ける」のがコツだと言うが、言うは易し行うは難しである。単純な加工に見える作業の裏には、細かなノウハウに加え、ビームエネルギーと核反応を制御するという明確な物理的意味がある。完成したターゲットは単なる金属の重ね合わせではない。そこには

  • ビーム電流モニターとしての役割
  • エネルギーを調整する層
  • 生成核種を生み出す層

といった複数の機能が組み込まれている。つまりターゲットは、核反応を引き起こすために設計された“機能構造体”である。ここまでの講義で学んだ、ビームエネルギー、断面積、核反応といった概念は、このターゲット作製の段階で初めて具体的な形を持つ。参加者にとっては、抽象的だった理論が、金属箔の厚さや構造として実感される瞬間となった。

こうして完成したターゲットは、いよいよ加速器へと持ち込まれる。次の工程では、実際にビームを照射し、RIを生成する。理論、設計、そして手作業――そのすべてが結びつく瞬間が、目前に迫っていた。

指導にあたる専門家たちと参加者の距離が近いのも、本研修の大きな特徴だ

ビームを当てる瞬間

ターゲットの作製を終えた参加者たちは、RCNPの加速器施設へと移動した。ここからは、いよいよ実際にRIを生成する工程に入る。最初に案内されたのは「コンソール室」と呼ばれる制御室だった。

室内には多数のモニターが所狭しと並び、加速器の運転状態がリアルタイムで表示されている。電磁石、高周波電源、真空系、冷却系など、数百に及ぶ機器の状態がコンピューターによって一元的に管理されている。

加速器は一度運転を開始すると、24時間体制で稼働し続ける。そのためオペレーターが交代で常駐し、常に状態を監視している。ここが、粒子を加速し、原子核反応を生み出す巨大装置の“中枢”である。

実験室に入る前に、参加者には個人線量計と入退域用のキーが配布された。

加速器施設は法令上「放射線発生装置」として管理されており、放射線防護のための厳格な運用が求められる。実験室内でのビーム利用は、インターロックと呼ばれる安全機構によって制限されており、人が実験室内部にいる状態ではビームが出ない仕組みになっている。さらに、空間線量の監視も行われている。照射中には放射線量が上昇し、ビーム停止後には時間とともに低下していく様子がモニター上に表示される。参加者はこうした説明を受けながら、管理区域へと足を踏み入れた。

実験室には、配管のように見えるビームダクトが延びている。この中を、加速器で加速された粒子がビームとして通過する。荷電粒子ビームはダクトの形状に従って進むのではなく、電磁石による偏向や収束の制御を受けて目的のターゲットに到達する。

その状態は、ターゲット直前に配置した蛍光板を用いて確認される。ビームが当たると発光する仕組みで、1ミリ方眼上にビームの位置と広がりが可視化される。研修会の講義の間にオペレーターによって調整を終えたビームは、昼休みやターゲット作製実習をはさんで数時間を経た後でも、ほぼ同じ位置に安定して当たっていることが確認された。

「ビームを当てます」

やがて、照射準備が整う。

「ビームを当てます」

その一言とともに、ターゲットへの照射が開始された。時刻は午後2時25分。モニター上の電流計が動き、約0.1マイクロアンペアのビームがターゲットに到達したことが示される。

同時に、実験室の空間線量が上昇する。モニターに表示されたグラフは、照射の開始とともに鋭く立ち上がった。この瞬間、ターゲット内部では核反応が進行し、新たな放射性同位元素が生成されている。

照射は10分間にわたって行われた。その間、外から見える変化はほとんどない。しかしターゲットの内部では、陽子と原子核が衝突し、複雑な核反応が発生している。生成された核種の一部はすぐに崩壊し、短寿命核種として消えていく。こうした過程も含め、RI製造は時間とともに変化する動的な現象である。

照射終了後、すぐにターゲットへ近づくことはできない。短寿命の放射性核種が多く生成されているため、一定時間待機し、放射線量が十分に低下するのを待つ必要がある。モニター上の空間線量は、時間の経過とともに徐々に低下していく。安全が確認された後、ようやくターゲットの回収が行われる。

大阪大学・村上先生

生成されたRIを“見る”

回収されたターゲットは、巨大な柄杓に入れて運ばれ、γ線測定へと移される。測定装置の画面には、エネルギーごとのカウントを示すスペクトルが表示される。その中に、生成されたジルコニウム88に対応するピークが現れた。

参加者は、自ら作製したターゲットにビームを照射し、その結果を自らの手で測定するという一連の工程を擬似体験した。理論として学んできた核反応が、実際の現象として立ち現れる瞬間でもあった。

加速器、核反応、ターゲット設計、そして測定。これらはそれぞれ異なる専門分野に属するが、RI製造の現場では一体のものとして機能している。講義で得た知識と、実際の装置や作業とが結びついたとき、初めて理解できることがある。中野センター長が述べた「教科書だけでは絶対に身につかない」という言葉は、この工程を通じて実感される。

しかし、RI製造の工程はここで終わらない。生成された放射性同位元素は、この後、化学的に分離され、目的とする核種として取り出されていく。

大阪大学・大江一弘先生

(次回、生成されたRIを取り出す「放射化学」の工程を追う)

RI製造のリアル ― 現場・技術・人材

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