原子力産業新聞

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早大・都市大による共同原子力専攻が設立10周年記念シンポ開催

16 Mar 2022

共同原子力専攻設立を機に行われた早大・都市大・原子力機構による連携協力協定締結式(2010年1月、東京・セルリアンタワー東急ホテルにて、右から、早大・白井総長、都市大・中村学長、原子力機構・岡﨑理事長<いずれも当時>)

早稲田大学と東京都市大学による共同原子力専攻大学院の設立10周年を記念するシンポジウムが3月14日に開催された。同専攻大学院は、両学がそれぞれ持つ加速器理工学分野、原子力安全分野の強みを活かした共同教育課程を通じ、原子力とその関連技術に関する教育、研究を行い、未来の新エネルギー創成実現に係る人材育成を目指すものとして2010年度に設立。当初2020年に行われる予定だった同シンポジウムは、感染症拡大の影響により延期されていたが、今回、会場(早稲田大学西早稲田キャンパス)とオンラインとの併用にて開催が実現した。

シンポジウムでは、共同原子力専攻大学院の設立当初の面々が登壇し講演。早大元総長の白井克彦氏は、当時、都市大の学長を務めていた中村英夫氏との協力で「日本初の共同大学院」を立ち上げた経緯を振り返り、「何十年か先には明らかに技術者不足が生じる」などと、原子力産業界が直面する人材確保に係る課題を踏まえた高等教育としての使命を強調。「2010年4月に出発したが、翌年3月11日に悪夢が起き、この先どうなるのだろうかと思った」と、同専攻大学院設立から間もなく福島第一原子力発電所事故が発生し不安を感じたことを思い起こしながらも、今日まで多くの学生を受け入れ産業界への輩出に至ったとし、関係者による支援に対し謝意を表した。また、将来の原子力利用に関し「コンセンサスが必ずしもできていない」と指摘。「世界全体が原子力利用についてもう一度見直す時代が来ている」とも述べ、「『良いか、悪いか』ではなく、どういう風に取り組んでいくのか、真剣に考えるべき」と訴えかけた。

続いて、早大、都市大でそれぞれ共同原子力専攻大学院の初代主任を務めた元原子力委員会委員長の岡芳明氏、都市大名誉教授の吉田正氏が講演。岡氏は「原子力発電所廃止は国民的損失」と繰り返し述べ、再稼働の促進・建設中プラントの工事完遂とともに、最大20年間・1回限りの運転期間延長制度の見直しや稼働しながらの新規制基準対応などを提唱。1960年代に都市大の前身である武蔵工業大学に学び民間企業勤務を経た後、現在も大学で指導に当たっている吉田氏は、「武蔵工業大学炉」(2003年廃止)での実習経験を通じて抱いた原子力技術への期待を回想したほか、昨今のウクライナ情勢に鑑み「エネルギーは国の安定・存立にとって決定的に重要」と述べるなど、両者とも原子力エネルギー、およびそれに関わる人材育成の重要性を強調した。

共同原子力専攻大学院では、発足以来、「未来エネルギーフォーラム」と題し、福島第一原子力発電所事故の教訓、先端加速器の開発・応用他、特定のテーマを設け、大学、研究機関、企業、行政庁などが会し人材交流や情報交換を図るシンポジウムを継続的に開催している。今回は、原子力安全の向上や新型炉の技術開発に関し、東芝エネルギーシステムズ、三菱重工業、日立GEニュークリア・エナジーによる発表を受け議論した。また、オンライン併用のため参加者は限定的となったが交流会も行われ、冒頭、原子力発電環境整備機構(NUMO)の近藤駿介理事長、日本原子力産業協会の新井史朗理事長らが挨拶。近藤理事長は、原子力委員長在任時の2008年、同委「地球環境保全・エネルギー安定供給のための原子力のビジョンを考える懇談会」による提言を現首相の岸田文雄・内閣府科学技術担当大臣(当時)を通じ福田康夫首相(同)に説明したことを振り返ったほか、現在NUMOとして取り組む高レベル放射性廃棄物処分地選定に向けた文献調査における地元との対話活動について紹介。原子力政策に関わってきた経験を踏まえ、「SLO」(Social License to Operate:社会が事業の実施を同意し受け入れてもらえる状態)の概念の重要性を掲げ、「高い倫理観を備えた人材の育成」が図られるよう切望した。新井理事長は、SDGs達成に向けた原子力の貢献にも言及した上で、産学官が連携し共同原子力専攻大学院がさらに発展するよう期待を寄せた。

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