科学リテラシーを持った生徒の育成に向けて 教員志望の学生らがSTEAM教育を活用した学習指導案を発表
16 Mar 2026
2026年3月7日、静岡大学の大矢恭久准教授らが企画した「STEAM教育手法を活用し、エネルギー・環境問題を基盤とした原子力人材育成」の2025年度の総合討論会が新潟薬科大学新津駅東キャンパスで開催された。同討論会は文部科学省国際原子力人材育成イニシアティブ事業の一環で、日本全国の教育系大学らが連携し、エネルギー・環境問題のリテラシーの高い教員の養成を目指すプロジェクトだ。
今年度は教員(主に理科系)を目指す学生が26名参加した。
学生たちは前日、柏崎刈羽原子力発電所を見学。その後、新潟市内で北海道教育大学釧路校の森健一郎教授による「STEAM教育の理論と実践」についての講義を受けた。
STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、リベラルアーツ(Liberal Arts)、数学(Mathematics)の統合的なアプローチを重視するものであり、特に日本の教育現場においては、文系理系の垣根を取り払った、分野横断的な学びを強化する手法として注目されている。
森教授によると、STEAM教育は元々STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育として広まった概念に、Art(芸術・リベラルアーツ)が加わることで、より社会的・文化的側面を含む枠組みとして発展したという。
講義では、社会問題を考える際の姿勢として、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉「冷たい頭脳と温かい心」の考え方が紹介された。これは、科学的・論理的に分析する力と、人々の感情や価値観への共感を両立させることが重要だという考え方である。「例えば、ゴミ処理場の建設にあたって、科学的合理性だけでなく住民感情など多様な要素が絡み合うことが往々にしてある。そのため、複数の視点を往復する思考が必要だ」と森教授は述べた。
さらに森教授は、主要教科という入試由来の見方にとらわれるのではなく、各教科が持つ本来の役割を理解することが教科横断的な学びにつながると指摘した。
最後に森教授は、「教師の役割は完成された知識を与えることではなく、ものの見方というレンズを提供し、学習者の世界の見え方を変えることだ」と強調。冷静な論理と他者への共感を往復しながら社会課題を考える力を育てることこそ、STEAM教育の目指す方向だとまとめた。
翌日のポスターセッションでは、26名の学生たちが前後半に分かれ、STEAM教育を活用したエネルギー教育の学習指導案を発表した。
同紙では、原子力発電に関連する指導案を作成した学生らへのインタビューを試みた。
まず、話を伺ったのが、宮崎大学教育学部の増岡直路さん。増岡さんは「原子力は怖いのか」と題した技術・家庭科の学習指導案を作成した。
増岡さんは「原子力発電は、福島第一原子力発電所事故の影響などから、危険・怖いといった印象を持つ人も少なくない。しかし、自然界にはもともと放射線が存在しており、医療や温泉など、日常生活の中でも放射線は利用されている」と指摘。こうした事実を踏まえ、原子力発電をはじめとする各エネルギー技術の利点とリスクの両面について、気づきを与える授業構成を作成したという。
そして、放射線の利用例としてラドン温泉などを取り上げることで、放射線と安全性の関係について考察を促し、適切な利用であれば健康に問題がない場合もあることを理解し、技術を感情的に捉えるのではなく、科学的根拠をもとに判断する力を育むことを目指す学習指導案を作成した。科学的には正しいと理解されていても、感情的には受け入れがたいと感じる人は少なくないが、理性と感情の間に生じるこのギャップに対し、どのように折り合いをつけていくのかを学べる授業となるという。感情やイメージだけに左右されるのではなく、科学的根拠に基づいて技術の安全性や社会的役割を考える姿勢が必要とされている。
同じく宮崎大学教育学部の鎌田康輔さんは、「未来エネルギーを設計!データで考える原子力」と題した学習指導案を作成。各発電方法の原理を科学的に理解した上で、電力需要や予算、二酸化炭素排出量などの条件を設定し、エネルギーミックスの最適解を考えさせる授業だ。トレードオフや最適化の視点を学ぶことが可能で、将来のエネルギー計画を自分たちで設計する探究型学習になっている。鎌田さんによれば、同指導案を通じて、発電方法をめぐる議論を、感情や印象だけで判断するのではなく、データを基に合理的に考える力を養うことが狙いだという。
宮城教育大学教職大学院の佐々木春花さんは、高レベル放射性廃棄物の処分問題を扱った学習指導案を作成。エネルギーミックスや原子燃料サイクル等の基礎知識から学習し、高レベル放射性廃棄物の最終処分方法の調査・議論・発表を段階的に行う構成だ。佐々木さんは、大学在学中に青森県六ヶ所村を訪問し、日本原燃の職員から同事業に関する説明を受けた経験があり、それが当指導案の作成のきっかけになったという。「現地で話を聞いたことで、高レベル放射性廃棄物の処分方法が地層処分に至った経緯を深く理解することができた。その経験を活かして子どもたちが考えるきっかけにしたい」と展望を語った。
島根大学教育学部の玉木愛梨さんは、「カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み 今後の日本の電源構成を考えよう」と題した学習指導案を作成。中学校の社会科(地理)の教科書に掲載された各国の電源構成や排出量のグラフを読み取り、国によって電源構成が大きく異なることに気づかせたうえで、「日本ではどのような電源構成が望ましいのか」を考える探究課題を設定した指導案になっている。各国の資源、地形、気候などの特徴を整理しながら電源構成の背景を分析する力を身に付ける狙いがあるという。その後、地形や気象条件の制約がある日本における実現可能な電源構成を言語化する段階的な思考プロセスを設計している。
玉木さんは、島根県の発電事情に言及したほか、松江市に立地する島根原子力発電所があることから、同県ではエネルギーについて学習しやすい環境にあるのではないかと語った。そして、「私自身が好きだった教科のひとつである地理の視点を軸にしながら、STEAM教育の概念を取り入れて指導案を作成した」と説明。また、情報は集めるだけでなく再構築して初めて自分の考えになるという同STEAM教育の可能性を言及した。
各学生とも、STEAM教育の要素・概念については、科学(Science)と技術(Technology)の区別が難しい場面があるといった意見や、A(アート)の扱いについて、感情や価値観、時には政治的な要素も関わるとし、科学や技術と比べると理解しづらい側面があるとの意見が挙がった。
一方で、教育内容を構造的に整理する枠組みとして有効だと指摘する声や、理科に対して「計算が多くて難しい」「覚えることが多い」と感じる子供たちが他教科との関連を意識することで、理科への興味を高める契機になるとの声が寄せられた。多様な視点を取り入れることで、生徒の理解や関心、そして考える力を養う授業づくりにつながるのではないかとの期待が示された。
今回の総合討論会では、STEAM教育の意義が改めて示され、実際に学習指導案に採り入れやすい概念だとの認識が多数を占めた。
同原子力人材育成イニシアティブ事業のプログラムディレクターを務めた名古屋大学大学院工学研究科の山本章夫教授は講評で、当日のポスター発表について、「着眼点が多様で非常に興味深く、多くの気づきを得ることができた」と評価した。また静岡大学の大矢恭久准教授が主導する本プログラムには毎年参加し、「今年も大変楽しませてもらった」と述べた。
また、福島第一原子力発電所の事故から約15年が経過し、エネルギー情勢や国際情勢の変化を背景に原子力に対する社会の受け止め方も変化しつつあるとの認識を示した上で、「重要なのは事実に基づいて議論できる資質を持つ学生を育てること」と強調した。
一方で、科学的に正しいと考えられている事象だからといって、それを一方的に押し付ける姿勢では、社会の理解は得られにくいとも指摘。例えば、「放射線治療を避けて代替療法を選ぶ人が身近な家族に居た場合どう向き合うか」という問いを紹介し、「第三者として議論をするのと、自分の身近な問題として考える場合では状況は大きく異なる。唯一の正解があるとは限らない」と述べた。
そのうえで、「自分の頭で考え、判断できる人材を育ててほしい」と参加した学生らに呼びかけた。原子力に対する立場についても「賛成でも反対でも構わないが、考え抜いたうえで自分の立場を持つことが重要だ」とし、今後、次世代の学生を育てる教育者としての役割に期待を寄せた。





