台湾の原子力学会や学生からエネルギー事情を巡る近況を聞き、電力供給や環境保全に果たす原子力の役割と福島復興について考えるシンポジウムが9月5日、東京工業大学大岡山キャンパスで行われた。同学および福島イノベーション・コースト構想推進機構が主催。台湾では2017年8月に全土の約半数世帯に及ぶ大停電が発生した。また、日本でも2018年9月、新規制基準対応に伴い北海道電力の泊発電所が全号機停止している中、北海道胆振東部大地震により道内全域が大停電に見舞われた。台湾では現在脱原子力政策が進められているが、今回のシンポジウム開催に際し、日本原子力学会の岡嶋成晃会長は、メッセージの中で、「日台ともにエネルギー源における原子力の位置付けについて考えることが重要」と述べ、また、福島を含め5県の食品に対し輸入規制が継続している台湾の現状に関し、「科学的根拠に基づき『真の福島の姿』を知ってもらう必要がある」としている。シンポジウムの中で、台湾原子力学会会長の李敏氏(清華大学工程與系統科學系特聘教授)は、台湾の電力事情を説明し、原子力発電の現状について「発電電力量に占める割合が2017年に初めて1割を切った」とした上で、その要因は技術的問題ではないことを強調。政権交替に左右されてきた台湾の原子力発電に関し、「建設が中断となっている龍門(第4)発電所はその象徴」とも述べた。また、2017年の大停電を振り返り、「発生直前の電力予備率は3.17%と、非常に厳しい状況にあった」としている。さらに、李氏は、台湾における大気汚染の深刻化にも触れた上で、「Go Green With Nuclear」と、環境保全に貢献する原子力の重要性を訴えかけた。李氏の引率により9月2~4日に福島を訪れた台湾の学生も登壇。現在京都大学で医学を学ぶ廖彦朋さんは、福島第一原子力発電所沖合10㎞で捕れたヒラメの検査を見学し、放射性セシウムが検出されなかったことから、「人々は福島の食品を誤解している。真実を伝えることが重要」と強調した。また、台湾では2018年11月の公民投票で電気事業法の「脱原子力」の条文削除が決定したが、廖さんは投票実施に際し、街頭スピーチや署名活動で原子力の必要性を訴えかけ、こうした活動を通じ「コミュニケーションの重要性を学んだ」としている。 シンポジウムでは、この他、日本科学技術ジャーナリスト会議理事の小出重幸氏、東京工業大学特任教授の奈良林直氏らが講演を行った。小出氏は、海外での取材経験も踏まえ、福島第一原子力発電所事故で得られたコミュニケーションに関わる教訓や、各国共通の課題として「National Security of Energy」を提唱。奈良林氏は、地球温暖化の影響と再生可能エネルギーの限界について考えを述べるなどした。
06 Sep 2019
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原子力規制委員会は9月4日の定例会合で、福島第一原子力発電所事故に関する調査・分析を再開する方向性を示した。2020年内の中間報告書(第2次)取りまとめを目指す。同委では、福島第一原子力発電所事故に関し、東京電力による廃炉に向けた取組を監視・評価する検討会を概ね月1回の頻度で開催しているが、事故の調査・分析を行う検討会は2014年の中間報告書取りまとめ以降開かれていない。中間報告書では、国会事故調報告書で未解明問題とされた7項目の個別課題に関する検討結果を取りまとめているが、高線量などのため現地調査に着手できない事項もあったことから、廃炉作業の進捗や新たに解明された事実も踏まえ、引き続き長期的な検討が必要であるとしている。4日の規制委員会会合では、今後の事故調査・分析に向けて、「現場の環境改善や廃炉作業の進捗により、原子炉建屋内部などへのアクセス性が向上し、必要な試料の採取や施設の状態確認が可能となってきた」などと、事故分析を再開できる段階に至ったとの見方が示された。その上で、事故分析の再開に際し、施設の状態や機器内付着物など、必要な現場状況が廃炉作業の進捗に伴い変貌・喪失する可能性もあることから、資源エネルギー庁や東京電力他、関係機関を交えた公開の連絡調整会議を設け、作業計画に係る情報共有やスケジュール調整を図りながら進めていくとしている。今後の事故分析の対象範囲に関して、8月下旬に原子力規制庁職員が福島第一2号機の原子炉建屋内の現地調査を行っている。会合終了後の記者会見で、更田豊志委員長は、同建屋内の「耐圧強化ベントライン/ラプチャーディスク」と呼ばれる部位の作動状況に関し、1992年の通商産業省(当時)要請「アクシデントマネジメント」を受けた事業者の自主的取組として整備されたことを振り返り、「着実に施工がなされていたのか、きちんと検証したい」と、予断を持たずに調査に臨む考えを強調した。
05 Sep 2019
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九州電力は9月3日、玄海原子力発電所2号機の廃止措置計画について原子力規制委員会に認可申請を行うとともに、安全協定に基づき、廃止措置に係る事前了解願いを佐賀県と玄海町に提出した。また、合わせて、既に廃止措置が進められている1号機について、2号機と同時並行で行う利点を活かすよう工程を見直した同計画の変更認可申請を同委に提出。これにより、廃止措置の完了時期は両機とも2054年度の予定。玄海2号機の廃止措置計画は、「解体工事準備」、「原子炉周辺設備等解体撤去」、「原子炉等解体撤去」、「建屋等解体撤去」の4段階に区分され、使用済み燃料は、2026~40年度までを見込む「原子炉周辺設備等解体撤去」で2号機施設外への搬出を完了し、廃止措置終了前までに再処理事業者へ譲渡する。九州電力では、1,2号機の並行作業により、「原子炉周辺設備等解体撤去」で利用可能な作業場所が半分程度となるため、その実施期間に倍程度を要するものと想定。1号機については、同期間以降、各工程区分の開始・終了時期が2号機とそろうこととなり、廃止措置完了時期が11年先送りとなった。現在、国内の原子力発電所で廃止措置中または廃止決定となっているプラントは24基(福島第一1~6号機を含む)に上っており、こうした現状から、日本原子力発電は3日の原子力委員会会合で、廃止措置の現状と課題について報告した。同社廃止措置プロジェクト推進室長の山内豊明氏は、安全かつ効率的な廃止措置に必要な要素として、(1)廃止措置のカルチャーとマインド、(2)解体廃棄物の搬出先確保、(3)廃止措置資金と会計制度、(4)廃止措置に相応しい規制――を提示。さらに、米国の廃止措置専業会社エナジーソリューションズ社との協力で実施する「EVMS」(Earned Value Management System: 収益管理システム)トレーニングを紹介し、廃止措置におけるプロジェクトマネジメントの重要性を強調した。また、中部電力も同日、規制委員会との意見交換の中で、浜岡原子力発電所1, 2号機廃止措置の取組について説明し、両機合わせて発生する解体撤去物約45万トンのうち、約8万トン(17%)はクリアランス可能との試算を示すなどしている。
04 Sep 2019
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2020年度政府予算の概算要求が8月末までに各省庁より出そろった。経済産業省では、エネルギー対策特別会計として前年度15.7%増となる8,362億円を要求。福島復興関連では1,141億円を計上しており、引き続き福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策の安全かつ着実な実施を図る。また、原子力技術開発の関連では、「原子力産業基盤強化事業」として新規に15億円、2019年度に開始した「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」で前年度のおよそ倍額となる15億円がそれぞれ計上された。エネルギー基本計画で、原子力に関して「人材・技術・産業基盤の強化に直ちに着手」とされたのを受け、「原子力産業基盤強化事業」では、(1)世界トップクラスの優れた技術を有するサプライヤーの支援、(2)技術開発・再稼働・廃炉などの現場を担う人材の育成――を実施し、原子力産業全体の強化を図る。文部科学省では、原子力関連として前年度31.2%増となる1,937億円を要求。原子力施設の新規制基準対応で前年度の2.7倍となる112億円、施設の安全確保対策で同7倍の210億円が計上された。その中で、日本原子力研究開発機構の研究炉「JRR-3」の運転再開に関する要求額は同8倍の53億円となっている。原子力規制委員会では前年度20%増となる655億円を要求。高経年化技術評価や運転期間延長に関わる審査などに必要な知見を整備し評価手法を検証すべく、「実機材料等を活用した経年劣化評価・検証事業」として新規に14億円が計上された。発電所の長期運転に伴う経年劣化事象の中で、特に、原子炉圧力容器、ケーブルなどの絶縁材料、炉内構造物を対象に、既存の評価手法の妥当性を検証するとともに、廃止措置中のプラントから実機材料を採取して試験・分析を行い、機器の健全性に関する知見を蓄積していく。復興庁では原子力災害関連で前年度の1,4倍となる9,075億円、そのうち中間貯蔵施設の整備として同2.7倍となる5,612億円が計上されている。
03 Sep 2019
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原子力委員会は9月2日、「平成30年度版原子力白書」を決定した。3日に閣議配布となる運び。今回の白書では「原子力施設の廃止措置とマネジメント」を特集。国内において、原子力発電所24基(福島第一1~6号機を含む)が廃止措置中または廃止決定となっているほか、日本原子力研究開発機構でも約半数の研究開発施設の廃止措置を進める計画を発表するなど、廃止措置が本格化しつつある現状をとらえ、海外の先行事例を紹介し参考となる教訓を抽出した。白書では、「核燃料や放射性物質を取り除いて、そのリスクと管理負担を低減する」と、原子力利用における廃止措置の位置付けを改めて述べ、「培ってきた知識・技術・人材を活用しつつ、原子力施設の廃止措置に対応する新しいステージに進んでいくことが必要」と、次段階のスタートとしての重要性を強調。国内で廃止措置事業の実施を通じ技術やシステムを蓄積していくことは、「将来的な世界での原子力施設の廃止措置を考えた際に、わが国の大きな資産となる」などと展望した。今回白書の編集に当たった内閣府の担当者は、発生する放射性廃棄物の処理も含め、原子力施設の廃止措置は数世代にわたる長期事業となりうることから、「特に若い世代にも関心を持ってもらいたい」と話している。諸外国の廃止措置としては、米国、ドイツ、フランス、英国の事例を紹介し、参考とすべき教訓として、「全体的な効率的作業の計画」、「関係者、特に規制機関との対話」、「放射性廃棄物の管理と技術開発」、「サイト周辺住民等、関係者との信頼構築」をあげた。例えば、ドイツのシュターデ原子力発電所(2003年閉鎖)の原子炉容器解体に用いられた水中切断・解体工法に関して、他の複数プラントにも適用される見通しをあげ、「技術の横展開により効率的な廃止措置作業を実施できる」と評価。同発電所の非原子力部分の解体も含めた廃止措置完了は2023年の見込み。さらに、ドイツでは、クリアランス制度を整備し放射性廃棄物の発生量を可能な限り抑制する取組を進めており、「Q&Aウェブサイト」を通じた理解促進に努めていることもあげられた。この他、コスト効率・工程マネジメントについて、米国ノースター社を例に廃止措置専業事業者による一元管理・ノウハウの蓄積が有効であることを示し、信頼構築に関しては、フランスの「CLI」(地域情報委員会)によるコミュニケーション活動をあげ、「長期にわたって地域経済に影響を与える廃止措置事業に関して、地域住民や地元産業への配慮も重要」などと述べている。
02 Sep 2019
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