電力広域的運営推進機関(OCCTO)は5月29日、今夏の電力需給見通しを取りまとめた。30日開催の総合資源エネルギー調査会に報告される運び。それによると、全国各エリアで安定供給に最低限必要となる予備率3.0%以上を確保できる見通しとなったが、東京エリアについては、2021年度の冬季以降、電力の高需要期に実施してきた追加供給力公募、いわゆる「kW公募」による供給力増加を含めても、最も厳しい7月の予備率は3.1%と、ぎりぎりの水準が見込まれ、依然と予断を許さぬ状況にある。OCCTOでは、発電所の計画外停止などに備え、国・事業者と連携した追加対策を検討するとともに、電力需給モニタリングによる監視体制を強化し、需給ひっ迫の可能性がある場合のSNSを通じた周知を図るよう準備を進めていく。資源エネルギー庁は3月末、今夏の電力供給力対策の基本的方向性を提示。「2022年度冬季は、暖冬などの影響もあり、燃料調達に起因する電力安定供給上の支障は生じなかったものの、ウクライナ情勢は未だ収束しておらず、今後、他国の需要の伸び次第では、LNGを始めとした燃料調達がさらに激化することも予想される」ことから、今後の供給力確保に向け検討を進めてきた。その中で、東京エリアでは、「kW公募」により、JERAが長期計画停止中の広野火力2号機(重油・原油、60万kW)で落札され、今夏の供給力として57.6万kW(7・8月)分が追加されている。原子力発電の供給力は、2022年度冬季の全国最大需要時(1月25日9~10時、15,967万kWで東日本大震災以降の冬季最大需要を更新)、関西、四国、九州の3エリアで計857万kWだった。今夏の供給力見通しでは、同3エリアで計955万kW(8月)が見込まれている。
30 May 2023
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日本原子力産業協会の新井史朗理事長は5月26日、定例の記者会見を行った。新井理事長はまず、19~21日に開催されたG7広島サミットを受けて発表した理事長メッセージについて説明。今回のサミットで発出された共同コミュニケでは、原子力について、「化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候危機に対処し、ベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギーを確保する」ものと、その役割の重要性が改めて確認された。これに先立ち、原産協会は、「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)の機会を捉え、米原子力エネルギー協会(NEI)と「国際原子力エネルギーフォーラム」を共同開催。会見で新井理事長は、その成果にも言及し、原子力産業界として、「G7で確認された原子力の役割の重要性に鑑み、気候危機への対応とエネルギー安全保障の確保に向けて原子力を最大限活用すべく、世界の原子力産業界と協力しながら、引き続き取り組んでいく」と強調した。また、最近の原子力政策を巡る政府の動きとして、4月28日に閣議決定された高レベル放射性廃棄物の「最終処分に関する基本方針」の改定では、処分地選定に向けて国が前面に立ち有望地点の拡大などの取組を強化していくこととされたが、これに関して、新井理事長は「この課題が日本全体で共有されるとともに、具体的なプロセスが進展する」よう期待。さらに、同日、原子力関係閣僚会議で、再稼働への総力結集、既設炉の最大限活用、次世代革新炉の開発・建設、サプライチェーンの維持・強化などに取り組む「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が決定されたことについては、「わが国のエネルギー安全保障、電力の安定供給、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、原子力を持続的に活用するための今後の方向性が整理された」ものと認識。「これを踏まえ、原子力の最大限活用に取り組んでいく」と改めて述べた。記者より、昨今、核融合エネルギーの実用化を目指し研究開発に取り組むベンチャー企業や、浮体式原子力発電所プロジェクトを進める海外企業、これに対する国内企業による出資の動きから、その実現可能性について問われたのに対し、新井理事長は、今後の技術革新やスタートアップに期待しつつも「まだハードルは高い」などと応えた。
29 May 2023
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福島第一原子力発電所のALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する。))に関する現状理解のため、来日していた韓国専門家による現地視察が5月25日、全日程を終了した。7日に行われた日韓首脳会談で、韓国国内における理解を深めるために実施が合意されていたもの。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉23、24日には、韓国のユ・グクヒ原子力安全委員長他、専門家ら20名が福島第一原子力発電所を訪問。外務省、経済産業省、原子力規制庁、東京電力など、日本側の同行のもと、多核種除去設備(ALPS)、貯蔵タンク、希釈放出設備、分析施設などを視察。発電所訪問後の25日、一行は日本側との意見交換に臨んだ。資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室調整官は、今回、来日した視察団との技術的な質疑応答の詳細は明らかにしなかったが、「基本的に韓国側から要望のあった設備はすべて視察した」と説明している。日本政府は、これまでも韓国政府の他、各国・地域の在京外交団らに向け、ALPS処理水の取扱いに関するテレビ会議説明会などを開催してきた。今後も引き続き、福島第一原子力発電所の現地視察の実施を含め、情報発信を行い、国際社会の理解を求めていくとしている。なお、東京電力は25日、昨秋に本格開始した海洋生物(ヒラメ、アワビなど)の生育状況を「通常の海水」と「海水で希釈したALPS処理水」とで比較する飼育試験の進捗状況を発表。近畿大学水産研究所の家戸敬太郎教授より「ALPS処理水添加の水槽も、通常海水の水槽も生育状況に違いは見られず、自分の知見と比べても遜色なく良好である」とのコメントを受けたとしている。
26 May 2023
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原子力規制委員会は5月24日、日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」(大洗町、ナトリウム冷却型高速炉、熱出力100MW)について、新規制基準に「適合している」とする審査書案を了承した。今後、原子力委員会と文部科学省への意見照会、パブリックコメントを経て、正式決定となる運び。原子力機構は2017年3月、「常陽」の新規制基準適合性に係る審査を規制委員会に申請。炉心設計・熱出力に係る申請内容の補正に伴い、およそ1年半の審査保留を挟み、都合6年余の審査期間を経て、審査書案の了承となった。「常陽」は、高速増殖炉の基礎・基盤技術の実証、燃料・材料の照射試験、将来炉のための革新技術検証を使命に、1977年に初臨界に達した後、約71,000時間の運転実績を積んできた。現在、2007年度に実験装置のトラブルが生じ運転を停止中。2016年に高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉決定を踏まえ原子力関係閣僚会議が策定した「高速炉開発の方針」では、炉心燃料関連技術、ナトリウム取扱・主要機器関連技術など、高速炉特有の技術課題解決のための知見獲得、国際協力との相乗効果による開発推進の観点から、「常陽」の再稼働に向けて積極的に取り組むとされている。高速炉開発は非エネルギー分野での貢献も期待されており、原子力機構が昨秋開催した報告会での説明によると、現在、全量を海外に依存している医療用ラジオアイソトープの国産化に向けて、「常陽」を活用し、がん治療で世界的に注目されるアクチニウム225の製造実証を2026年度までに行うとしている。
24 May 2023
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名古屋大学大学院理学研究科・森島邦博准教授らの研究グループは5月18日、上空から飛来する宇宙線ミュオンを利用した観測手法「宇宙線イメージング」により、イタリア・ナポリ市内地下10mに埋もれる「古代ネアポリス」遺跡の構造を可視化し、紀元前ギリシャ時代の埋葬室を新たに発見したと発表した。ナポリ大学との共同研究で行われたもの。ナポリ・サニタ地区には、未知の埋葬室が存在するという仮設が立てられていた。〈名大発表資料は こちら〉この「宇宙線イメージング」は、X線では測定不可能な巨大な対象物の周辺に、宇宙線を検出する特殊な写真フィルム「原子核乾板」を用いた検出器を設置して、岩盤1kmでも透過する宇宙線ミュオンの「エネルギーが高いほど透過能力が高い」特徴を利用し、対象物を通過するミュオンの飛来方向分布を計測。これを名古屋大独自開発のコンピューターシミュレーションにより分析することで、対象物を破壊することなく、内部の低密度領域、高密度領域の存在を把握し、未知なる空間の詳細構造の解明につなげるというもの。森島准教授らの研究グループは、同手法により、これまでも、エジプト・カイロ大学などとの共同研究で、クフ王ピラミッド内部に2つの未知の空間を発見するなど、研究成果をあげてきた。今回、発掘による考古学調査が困難な市街地における地下構造把握に極めて有効な手段となることが実証され、道路陥没事故を引き起こす地下空洞の探査など、都市部の防災技術への応用も期待されるとしている。「原子核乾板」を用いたミュオン測定手法は、軽量・コンパクトで電源を必要としないため、狭あい・過酷な環境下でも短時間で設置できる利点を持つ。森島准教授らは2015年に、東芝他との協力で、福島第一原子力発電所2号機の原子炉内部の透視に成功している。*森島准教授の研究は、放射線の基礎知識シリーズ「原子力ワンポイント」でも紹介されています。こちら をご覧ください。
23 May 2023
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G7広島サミット(5月19~21日、広島市)が全日程を終了。21日、岸田文雄首相は、議長国記者会見を行い、今回の開催地に広島を選んだ意義を「平和への誓いを象徴する」ふさわしい場所と改めて述べた上で、G7首脳との議論を通じ「『核兵器のない世界』に向けて取り組んでいく決意」が共有できたと強調した。同日夕刻、岸田首相は、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談。依然、ロシアによる侵略が予断を許さぬ同国に対し、新たな支援を約束した。サミットでは、20日、「G7広島首脳コミュニケ」を発出。エネルギーに係る項目の中で、原子力の有する潜在性として、「化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候変動に対処し、およびベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギー安全保障を確保する」との認識を示した。さらに、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)のコミュニケに盛り込まれた既設炉の最大限活用、革新炉の開発・建設、強固な原子力サプライチェーンの構築、原子力技術・人材の維持・強化に係る取組姿勢を確認。改めて「最高水準の原子力安全および核セキュリティが、すべての国およびそれぞれの国民にとって重要である」と強調している。また、「G7広島首脳コミュニケ」では、福島第一原子力発電所の廃炉作業の着実な進展、日本による取組について、「科学的根拠に基づきIAEAとともに行われている」と、その透明性を歓迎。ALPS処理水((トリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、多核種除去設備等で浄化処理した水))の海洋放出に関しては、「IAEA安全基準および国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」としている。20日、岸田首相は、今回、招待国となったクック諸島のマーク・ブラウン首相と会談を行っており、2月にも太平洋諸島フォーラム(PIF)代表団として来日したブラウン首相は、政治レベルや専門家間の対話など、ALPS処理水の海洋放出に係る日本の取組に理解を示した。今回のG7広島サミットを受け、日本経済団体連合会の十倉雅和会長は22日、地球環境・エネルギー分野の議論に関し、「気候変動対策について、開発途上国等との連携や多様な道筋の追求が合意され、エネルギー安全保障と持続的な経済成長を確保しつつ、再生可能エネルギーの拡大や、原子力、水素・アンモニア等の活用で一致したことを高く評価する」とのコメントを発表。また、日本原子力産業協会の新井史朗理事長は22日、「G7で確認された原子力の重要性に鑑み、気候危機への対応とエネルギー安全保障の確保に向けて原子力を最大限活用すべく、世界の原子力産業界と協力しながら引き続き取り組んでいく」とするメッセージを発表した。
22 May 2023
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内閣府はこのほど、原子力防災について、「被ばくとは何か」、「いつ避難などの行動をとるのか」などを簡単に説明する短編動画「!サクッと解説!原子力防災」を公開した。動画は全6編。いずれも1~2分程度で、ごく簡素なアニメーションを用いて解説している。第1編「被ばくって何?」では、外部被ばくと内部被ばくの違い、放射線の測定単位などを説明。第3編「どんなときに避難をするの?」では、PAZ((原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針で予防的防護措置を準備する区域、原子力発電所から概ね5km))、UPZ((同じく緊急防護措置を準備する区域、原子力発電所から概ね5~30km圏))の各区域における原子力発電所の状態に応じた防護措置(屋内退避、避難、安定ヨウ素剤の服用など)について説明。第6編「避難の時は、何に注意したらいいの?」では、自然災害から命を守る行動を優先して行う指示がない状況で、慌てて避難しないできる限り肌を露出せず、使い捨てできる服装にする――ことを注意事項として述べている。内閣府(原子力防災)では昨年末、ウェブサイトのデザインを更新し、わかりやすいコンテンツの掲載に努めている。
19 May 2023
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核融合エネルギーの実用化に取り組む京都大学発のベンチャー企業「京都フュージョニアリング」は5月17日、総額約100億円の資金調達に成功したことを発表した。電力、商社、金融など、各界から、計17社が引き受けたもの。〈京都フュージョニアリング発表資料は こちら〉エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する次世代エネルギーとして核融合の研究開発に取り組む同社では、「ITER計画に加え、近年では諸外国で民間投資が増加したことにより、フュージョン(核融合)スタートアップによる研究開発も加速し、フュージョンエネルギーの早期実現と産業化に向けた動きが活発化している」と、核融合エネルギーの実用化を巡る国際競争の激化を認識。今回の資金調達によって獲得した資金と投資家の持つ知見を活用して、主力製品である核融合周辺装置やプラントの研究開発を加速させ、「米国・英国を拠点とした事業拡大をさらに強化し、世界におけるいち早いフュージョンエネルギーの実現と産業化に向けて邁進する」と、意気込みを見せている。出資企業の関西電力グループ合同会社「K4 Ventures」は「フュージョンエネルギーにかかる新しい知見の獲得や実用化の可能性検討に取り組み、ゼロカーボン社会の実現に貢献していく」と、電源開発株式会社は「発電事業、水素製造事業においても新たな価値をもたらす」と、それぞれ展望、期待。また、三菱商事は「フュージョンエネルギーを活かしたカーボンニュートラル新産業の創出に取り組み、脱炭素化および日本を含む世界各国でのエネルギーの安定供給に貢献する」としている。原研時代の小西哲之氏(原産新聞1999年8月12日号〈発刊2000号〉より)政府の統合イノベーション戦略推進会議では4月に、産業界からの参画も得た議論を踏まえ、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定。核融合エネルギーを新たな産業と捉え実用化に向け加速化を図っていく方針が示された。同会議には、有識者として「京都フュージョニアリング」取締役の小西哲之氏も参画。同氏は、日本原子力研究所(日本原子力研究開発機構の前身)でトリチウム工学研究に取り組んだ経験を有しており、1999年に、原子力産業新聞が創刊した「昭和31年」の生まれに因んだ発刊2000号特集インタビューで、核融合の将来に向け、「21世紀のエネルギーを考えると、核融合を筆頭として地球再生可能エネルギーを使っていくべきだ。あと30年で実証したい」と、熱く語っていた。
18 May 2023
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原子力規制委員会は5月17日の定例会合で、核物質防護に係る不適切事案のため東京電力柏崎刈羽原子力発電所に対し実施している追加検査を、引き続き行う対応方針を了承した。柏崎刈羽原子力発電所では、2020年9月に発電所社員が他社員のIDカードを無断で持ち出し中央制御室まで不正に入域する事案が発生。この他にも、核物質防護設備の機能の一部喪失事案が発覚したことから、規制委員会は、「組織的な管理機能が低下」、「核物質防護上、重大な事態になり得る状況」と指摘し、2021年3月、同所に対する原子力規制検査の対応区分を「第4区分」(事業者が行う安全活動に長期間にわたる、または重大な劣化がある状態)に変更。約2,000人・時間を目安として追加検査を行うことを決定し、東京電力に対し同年4月、対応区分が「第1区分」(事業者の自律的な改善が見込める状態)に改善するまで、事実上、運転が不可能となる是正措置命令を発出した。17日の会合では、原子力規制庁が2021年4月~23年4月に実施した追加検査の報告書について説明。検査時間は3,475人・時間に達したとしている。そのうち、2021年秋の東京電力による改善措置報告後に行われた「フェーズⅡ」では、「強固な核物質防護の実現」、「自律的に改善する仕組みの定着」、「改善措置を一過性のものとしない仕組みの構築」の3つの確認方針で検査。これに基づく27項目からなる確認視点のうち、4項目が未だ「是正が図られていない」との判断に至り、原子力規制検査の対応区分を「第4区分」のまま、「フェーズⅢ」として追加検査を継続するとしている。今回の報告書では、「是正が図られていない」と判断された確認視点の一つ「自然環境に適合した設備が設置され不要警報が減少しているか」に関し、荒天時の体制構築や不要警報の低減目標を踏まえた具体的対応について、引き続き確認の必要があると指摘。自然ハザードに関する審査を担当する石渡明委員は、日本海側の厳しい気象条件にも言及しながら、「長期的に改善している傾向がはっきりと見える。『あと一息』という感じではないか」と、東京電力の取組に一定の評価を示した。山中伸介委員長は、今後、追加検査の進捗について引き続き報告を受けるとともに、東京電力社長との対話の場を設定し、今回の報告書で指摘された課題への対応状況について意見交換を行う考えを示した。なお、規制委員会による対応方針を受け、東京電力は、検査で指摘事項のあった4項目について「しっかりと是正を図っていく」とのコメントを発表した。
17 May 2023
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日立製作所は5月16日、台湾・台北栄民総医院に納入した重粒子線がん治療システムが15日から治療を開始したと発表した。台湾では初めての重粒子線がん治療システム稼働となる。また、陽子線がん治療システムでこれまで多くの海外納入実績を積んできた日立にとっても、今回の重粒子線がん治療システムは、初めての海外での治療開始となった。〈日立発表資料は こちら〉日立の発表によると、同システムは、台北栄民総医院の新しい重粒子線がん治療センターに設置され、水平・垂直方向からの照射が可能な治療室を2室完備。呼吸に伴う臓器の動きを捉える動体追跡技術と、腫瘍の形状に合わせて重粒子線を照射できるスキャニング照射技術を搭載している。納入先の台北栄民総医院は、台湾有数の医学センターとして世界でも高い知名度を有している。台湾のメディアによると、同地域内で、2020年にがんを発症した患者は前年比725人増の121,979人、前年より1秒縮まった4分19秒に1人のペースでがんに罹患している計算だという。今回の重粒子線がん治療システムの稼働開始により、訪日して治療を受けるより費用が安くあがり言葉の壁もなくなるといった期待の声も上がっている。昨今、国内メーカーによる重粒子線がん治療システムの海外展開が顕著となっており、4月末には、東芝エネルギーシステムズが韓国・延世大学校医療院に納入した装置が治療を開始した。
16 May 2023
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福島県の内堀雅雄知事は5月15日の定例記者会見で、19~21日に開催されるG7広島サミットを前に、「復興の歩みを進める本県への理解を深めてもらう貴重な機会」ととらえ、県の復興状況の積極的な発信に意欲を示した。内堀知事によると、G7広島サミットでは、各国から来日する要人の食事に福島県産の食材を活用するほか、報道関係者の取材拠点となる国際メディアセンターにおいても、県産の酒・食品の展示コーナーが設けられる予定。知事は、既に終了した関係閣僚会合、「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15~16日)、「G7長野県軽井沢外務大臣会合」(4月16~18日)と同様、政府とも連携しながら、同センターでパネル展示を行い福島県の復興状況の発信に努めると述べた。また、福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))に係る国際理解に関し、5月12日の日韓外交レベルでの議論で「韓国専門家視察団の4日間の日本訪問」が合意されたことについて、内堀知事は、「国においては、こういった視察の場を活用し、科学的な事実に基づく正確な情報発信を行うとともに、引き続きIAEAなどと連携し、国内外の理解醸成に向け責任を持って取り組んで欲しい」と強調。韓国専門家視察団の5月中来日は、7日の岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領との会談で合意されたもの。今回の視察団来日に際し、知事は県として具体的な対応予定はないとしたが、韓国側の「『汚染水』を『処理水』に改める」といった呼称を巡る動きに関して、「本質的な問題に係る重要な部分だと考える」との認識を示した。さらに、県内の除染により発生した除去土壌の再生利用に関する視察で来日したIAEA専門家チームが12日、国民の信頼醸成を今後の課題にあげたことについて、知事は、「科学的な安全論と社会的な安心感はイコールではなく、別の側面がある」として、リスクコミュニケーションの重要性を改めて述べた。
15 May 2023
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戸田建設は5月11日、建物の解体時、水素を利用し環境負荷の低減を図る「マスカットH工法」を、放射線施設の解体工事に適用したと発表した。〈戸田建設発表資料は こちら〉同工法は、現在、東京都中央区内で計画する新社屋「TODA BUILDING」(地上28階・約165m、2024年9月しゅん工予定)開発プロジェクトに伴う解体工事で適用実績のある「マスカット工法」を改良したもの。コンクリート構造物の解体作業時における現場周辺の環境振動への配慮に加え、水素のみを可燃性ガスに使用することでCO2を発生せず、建設業界における温室効果ガス排出量低減にもつながるのが特長だ。切り出された遮蔽鋼板、従来工法では150mm厚の切断が限界だった(戸田建設発表資料より引用)戸田建設では、新たな「マスカットH工法」を解体工事に適用し、厚さ1m以上の鉄筋コンクリート部材の切断など、実績を積み重ねてきたが、このほど、病院併設の放射線施設に初めて適用。これまで、放射線施設の解体工事では、遮蔽鋼板やコンクリートで堅牢な躯体が構築されているため、騒音、振動、粉塵の発生の他、一般的な建設現場で使用するガス切断設備では極厚の複数鋼板を一度に切断できず、プロパンガスなどの使用によるCO2排出の課題があった。同社では、今回、新工法を適用した施設の詳細は明らかにしていないが、「周辺に人通りの多い商業施設や閑静な住宅地がある」としており、近隣環境への影響低減に十分な効果が得られたという。「マスカットH工法」は、振動による落盤事故リスク、粉塵発生に伴う排気設備設置に制約のあるトンネル工事にも適用され、作業工程の短縮にもつながっており、同社では、今後も困難な解体作業を抱えている様々な現場に積極的に適用し、建設工事における水素エネルギーの利用拡大、脱炭素社会の実現に貢献したいとしている。
12 May 2023
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原子力規制委員会の山中伸介委員長は5月10日夕刻の定例記者会見で、同日会合の議題となり了承された運転開始から60年目以降の原子力発電所に課する「追加点検」の考え方に関し、「今後の専門的な議論に向けて大筋が固まった」と述べ、技術的論点は概ねクリアされたとの認識を示した。〈規制委発表資料は こちら〉現在、国会で「原子力発電の運転期間に関する規律の整備」、「高経年化した原子炉に対する規制の厳格化」などを盛り込んだ原子力関連の法案が審議中となっている。原子力事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り現行規定で最長60年の運転期間から除外する(電気事業法)とともに、運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに設備劣化に関する技術的評価、および劣化を管理する計画の認可を受けることを義務付ける(原子炉等規制法)というもの。60年超の運転も認め得ることとなる。規制委員会では、こうした運転期間見直しの動きを踏まえ、昨秋より高経年化した原子力発電所の安全規制に関する検討を進め、随時、専門チームでの検討状況について報告を受けてきた。10日の定例会合では、現行の運転開始40年目で課する「特別点検」と同じ項目で、60年目以降の運転に係る認可の際、「追加点検」の実施を求めることを原則とする考え方を了承。山中委員長は会見で、「今後は規則・ガイド類をまとめていく必要がある」として、関連法案成立後、膨大な作業を要する見通しを示した。同委では高経年化した原子力発電所の安全規制に関するわかりやすい資料作りに取り組んでいるが、山中委員長は、「『劣化が進んでいくとはどういうことなのか。それに対しどういう規制を行っていくのか』を、国民に理解してもらうよう今後も改善を図っていく」と改めて強調。また、人工知能を使ったチャットサービス「ChatGPT」の活用について問われたのに対し、同氏は「職員の間で色々と勉強している段階だと思う」と応え、現時点では導入に向けた具体的検討はなされていないとした。
11 May 2023
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IAEA・カルーソ氏原子力規制委員会は5月10日の定例会合で、2023年1月に行われた福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)取扱いに関するIAEA規制レビュー(ミッション団長=グスタボ・カルーソIAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官)の報告書について原子力規制庁より説明を受けた。〈規制委発表資料 こちら〉同報告書は、ALPS処理水の海洋放出に関し、2021年7月に日本政府がIAEAによる支援を要請し署名した付託事項に基づき行われたレビューのうち、規制面でのレビューについて取りまとめたもの。1月のIAEAによる規制レビューは2022年3月に続き2回目となり、規制委員会へのヒアリングや現地視察を終了後、団長のカルーソ氏は、「前回のミッションで出たほとんどの問題について考慮されていることを確認できた」と、日本の規制当局の取組を評価した上で、3か月以内にも報告書を公表するとしていた。今回、IAEAが公表した報告書では、政府の役割と責任、主要概念と安全目的、認可プロセスなど、規制に係る5つの技術的事項に関するレビューについて記載。進捗報告書との位置付けで、結論には言及しておらず、「ALPS処理水の海洋放出開始まで、および放出開始後において、国際安全基準に照らし規制プロセスとその活動を引き続き監視する」としている。IAEAはレビュー全側面にわたる包括的報告書を年央にも公表することとしているが、原子力規制庁担当者によると、これに向けたミッションが5月末にも来日する予定。日本政府は海洋放出開始時期を春から夏頃と見込んでいる。トンネル掘進完了後の放水トンネルの様子©東京電力この他、10日の定例会合では、東京電力が昨秋に申請した福島第一原子力発電所廃炉に関する実施計画の変更認可が決定された。ALPS処理水の海洋放出に当たり、トリチウム以外に測定・評価を行う対象核種として29核種を選定し放出基準を満足することを確認するとしたもの。ALPS処理水の希釈放出設備の設置工事は、4月26日に全長約1,031mの放水トンネルの掘進が完了している。
10 May 2023
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西村康稔経済産業相は5月9日の閣議後記者会見で、7、8日に行われた日韓首脳会談など、直近の外交を巡り質疑に応じた。韓国・ソウルを訪問した岸田文雄首相は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領と会談。福島第一原子力発電所で発生しタンクに貯蔵されているALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いに関し、韓国国内の理解を深める観点から同国専門家からなる現地視察団の5月中の受入れが合意された。〈外務省発表資料は こちら〉これについて、西村経産相はまず、「タンクがもう一杯になる状況を含め、ALPS処理水の海洋放出が必要であり、また、それに当たってはIAEAのレビューを受けながら、安全を確保し放出設備の工事を進めている」と強調。各国・地域への説明に努めている姿勢を改めて示し、韓国からの視察団来日に際しても、「日韓双方がIAEAの取組を共通の前提に調整している」とした上で、「現場の状況を見てもらいながら丁寧に説明する。視察を通じ韓国内でALPS処理水の海洋放出について安全性の理解が深まるよう期待したい」と述べた。IAEAによるALPS処理水の安全性レビューについては、直近5月4日の規制レビューに関するものを含め、これまでに5件の報告書が公表されており、本年前半にも包括的報告書が公表される見込み。また、依然と予断を許さぬロシアによるウクライナの原子力発電所に対する武力攻撃に関して、西村経産相は、戦争犠牲者の人道的な扱いを求めたジュネーブ諸条約の観点からも「断じて容認できるものではない」と強調。経産省として、ウクライナの原子力施設の安全確保に向けた支援を図る200万ユーロのIAEA拠出、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)における原子力安全・核セキュリティの重要性を強調するコミュニケの採択を行ったことを改めて説明。さらに、大型連休を挟んだ4月29日~5月8日の欧州8か国訪問に言及し、その中で、チェコ、ポーランド、ルーマニアの関係閣僚に対し「価値観を共有する同志国とのサプライチェーン強化を働きかけた」などと述べた。今回の欧州訪問で、西村経産相は、フランスのA.パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相と会談を行い、日仏の原子力協力深化に向け、既存原子炉の長期運転、福島第一原子力発電所の廃炉、新興国への支援、次世代革新炉開発などに係る研究開発に焦点を当てた共同声明に署名。また、チェコでも産業貿易相と会談し、原子力協力の強化に向けた協力覚書に署名を行っている。「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」のコミュニケを踏まえ、「価値観を共有する同志国」および「原子力の使用を選択する国」として、協力の重要性を認識した上、小型モジュール炉(SMR)開発などの協力を盛り込んでいる。
09 May 2023
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日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)は4月20日、科学技術に関する優れた報道や啓発活動などを顕彰する「科学ジャーナリスト賞」の2023年度受賞作品を発表した。JASTJは、ジャーナリスト、企業・研究機関の広報担当者らで構成される科学技術ジャーナリズムの向上・発展を目指し活動する団体で、講演会や見学会の開催などを通じ会員の資質・見識の向上や相互間の親睦を図っている。2023年度の「科学ジャーナリスト賞」では、最も名誉な大賞の該当作品はなかったが、「気候変動など、人類が直面する地球環境の課題を考える」継続的な取組として、福井県年縞博物館(福井県若狭町)の常設展示に特別賞が贈られた。この常設展示は、立命館大学との協力により、三方五湖の一つ「水月湖」の湖底で堆積する地層が年ごとに積み重なって描く縞模様「年縞」を用いて、考古学における遺物の年代測定を精緻化する研究成果を展示している「世界唯一」のもの。遺物の年代測定は、これに含まれる放射性炭素14の残存量による方法があるが、生物では年代によってその量が変動しており、遺骸からでは正確な年代が測定できない。「水月湖」では好条件が幾つも重なり、世界に類を見ないほどの年月にわたり「年縞」が形成され続け、その規模は約45m・7万年分にも及ぶ。例えば、「年縞」の13,927層目から出土した葉は13,927年前のものとなり、同じ葉を放射性炭素14の残存量で調べた年代との差が補正される。つまり、「年縞」が過去約7万年の地球の歴史をたどる「ものさし」となるのだ。この「年縞」は年代決定の世界標準尺度に採用されている。同博物館には、原子力・放射線を用いた測定技術が気候変動に関する研究に応用されている実例をとらえ、原子力協力の多国間枠組み「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の気候変動科学プロジェクトの専門家が2019年に視察に訪れている。
08 May 2023
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福島県飯舘村に設定されていた避難指示の一部が、5月1日午前10時をもって解除された。帰還困難区域のうち、避難指示を先行して解除し居住を可能とすることにより復興・再生の推進を図る「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)として設定された約186haの地域と、それ以外の一部地域が該当。復興拠点として、県内6町村・計約2,800 haの地域が国により認定されていたが、今回、そのすべてで避難指示が解除となった(富岡町の一部を除く)。飯舘村で避難指示が解除された長泥地区では、除染に伴い発生する除去土壌の減容・再生利用に向けた実証事業が行われている。村内の仮置場などに保管されている除去土壌を再生資源化し農地を造成する取組で、これまでに、カブ、キュウリ、ズッキーニ、レタスなどの食用作物や花き類を栽培。収穫した食用作物は、十分な生育状況とともに、放射性セシウム濃度が基準値を大きく下回っていることが確認されている。飯舘村の避難指示解除は4月25日、政府の原子力災害対策本部で決定された。福島県の内堀雅雄知事は、5月1日午後の定例記者会見で、「帰還困難区域全体の復興・再生に向けた大きな前進となる」と、その意義を改めて強調。今後、復興拠点以外の帰還困難区域の避難指示解除に向けても、「各自治体で帰還意向の調査が進められている。除染の範囲、帰還しない住民の家屋をどうするかなど、課題を解決しながら、国・県・市町村が一体となって方向性をしっかりと整備していく」と述べ、県として全力で取り組んでいく考えを示した。また、折しも大相撲五月場所の番付発表となった同日、福島県出身の若元春関の新関脇昇進について所感を問われたのに対し、内堀知事は、「一番一番ベストを尽くして活躍する姿は、復興・創生に向かって歩みを進めるわれわれ福島県民を大いに勇気づけている」と喜びをあらわにした。「大波三兄弟」力士として知られる若元春関は、一月場所の小結昇進後、2場所連続勝越しの好成績をあげている。
02 May 2023
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瑞宝重光章を受章する池田氏(2015年、全原協総会にて)政府は4月29日、春の叙勲受章者を発表した。原子力規制庁の初代長官を務めた池田克彦氏が瑞宝重光章を受章する。同氏は、2012年9月に発足した原子力規制委員会の事務方トップとして2015年7月まで在任。福島第一原子力発電所事故後の原子力規制行政の建て直しに尽力した。池田氏は、同職就任以前、警察官僚として警察庁警備局長、警視総監などを歴任。警備部門の経験が豊富で、1995年の「地下鉄サリン事件」以降、有毒ガス発生事案に注目が集まった時期、NBC(核、生物、化学)テロ対策訓練で指揮を執ったこともある。現在は、日本道路交通情報センター理事長。同氏は雑学本の著者としても知られている。
01 May 2023
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関西電力は4月25日、原子力規制委員会に、高浜発電所3・4号機(PWR、各87.0万kW)の40年超運転に係る認可申請を行った。それぞれ2025年1月、6月に運転開始から40年を迎える。同社では、これに続く20年間の運転期間延長の認可申請に必要な特別点検を昨秋に実施。原子炉容器、コンクリート構造物などの劣化事象に関し「運転開始35年以降に採取したデータを確認・評価した結果、異常は認められなかった」としている。〈関西電力発表資料は こちら〉関西電力では4月、既に再稼働している高浜3・4号機、美浜3号機、大飯3・4号機がそろって月間を通じて稼働した。美浜3号機に続く40年超運転となる高浜1・2号機は、それぞれ6月、7月に発電を再開する見通し。今夏は、同社の現役原子力発電プラント全7基のフル稼働が実現しそうだ。国内原子力発電プラントの40年超運転に係る認可申請は、既に原子炉設置変更許可が得られている高浜1・2号機、美浜3号機、日本原子力発電東海第二の他、現在、審査中の九州電力川内1・2号機、今回の高浜3・4号機で計8基となった。いずれも60年間の運転を目指している。なお、三菱重工業は4月26日、高浜3・4号機向けに、PWRで用いられる取替用の蒸気発生器6基を受注したと発表した。両プラントが3基ずつ有する蒸気発生器すべてを取り替える計画だ。〈三菱重工発表資料は こちら〉
01 May 2023
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「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が4月27日、衆議院本会議で賛成多数により可決された。同法案は、3月30日に衆院本会議で審議入りし、経済産業委員会に付託。計6回の会合、および環境委員会と原子力問題調査特別委員会との連合審査会が行われた。〈既報〉原子力関連では、高経年化した原子炉に対する規制の厳格化に関し原子力規制委員会が答弁に立つなど、運転期間の見直しが焦点となったほか、次世代革新炉の開発・建設や海外展開の観点から、日本企業の技術基盤強化や人材確保に関しても活発な議論がなされている。30日の本会議で、西村康稔経済産業相による法案趣旨説明の後、質問に立った浅野哲議員(国民民主党)は、日本原子力産業協会による「原子力発電に係る産業動向調査2022(2021年度調査)」を引用し、「現場作業者の60%が運転停止期間の長期化によって技術の維持・伝承ができないと感じており、そのうち84%がOJT機会の喪失をその理由としてあげている。国内企業では原子力事業から撤退する企業も生じており状況は深刻」と、産業基盤の維持・強化に係る危機感を強調。これに対し、西村経産相は、3月6日に設立された原子力関連企業を支援する枠組み「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)を通じた取組に言及しながら答弁。「研究開発や技能実習、技術・技能の承継などをサポートする支援メニューを全国400社の原子力関連企業に展開している。今後ともサプライチェーンの維持・強化に向けた支援をしっかりと進めていく」と説明。また、4月26日の経済産業委員会では、「G7においても、米国、カナダ、英国、フランスといった国々と、サプライチェーンの維持・確保、人材育成などについても連携していく」などと述べ、同15、16日に行われた「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」の成果を強調した。エネルギー政策に係る重要法案として、参議院では、4月28日に、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が修正議決された。今後は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」の審議に焦点が移りそうだ。
28 Apr 2023
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26日の経済産業委員会で答弁に立つ岸田首相衆議院で審議中の「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が4月26日、付託された経済産業委員会(竹内譲委員長〈公明党〉)で、賛成多数により可決された。同法案に対しては、自由民主党など、4派が共同で修正案を提出。原子力基本法に新たに規定された「国の責務」のうち、国民の信頼確保・理解獲得に関して、立地地域だけでなく「電力の大消費地である都市の住民」が追加されたほか、原子炉等規制法関連で、施行後5年以内に審査の効率化や審査体制の充実を含む「安全確保のための規制のあり方」について政府が検討を行うこととされ、原案と合わせて可決された。同法案は、脱炭素電源の利用促進を図りつつ電気の安定供給を確保するための制度整備に向け、2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」に基づき、「地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入促進」、「安全確保を大前提とした原子力の活用」を柱に、関連法を改正するもの。3月30日の衆議院での審議入りに際し、岸田文雄首相は、本会議で「国民生活や産業の基盤となるエネルギーの安定供給と、気候変動問題への対応を両立すべく、脱炭素電源である再エネ、原子力を含めたあらゆる選択肢を確保する」と、その趣旨を強調している。山口氏経済産業委員会では、同法案に関し、計6回の会合、および環境委員会と原子力問題調査特別委員会との連合審査会を行った。4月14日には、参考人として、山口彰氏(原子力安全研究協会理事)、満田夏花氏(国際環境NGO FoE Japan 事務局長)、山内弘隆氏(一橋大学名誉教授)、大島堅一氏(龍谷大学政策学部教授)を招き質疑応答。山口氏は、今回の法案に関し、「安全最優先」の原子力利用脱炭素社会の実現に貢献する基本的政策持続的なエネルギー確立の実現電気事業の安定性と予見性の確保――の方向性が示されたと強調した。その上で、世界の一次エネルギー源の変遷について、海外の有識者によるデータから、19世紀半ば以降、最大のシェアが、1880年に石炭が木材(薪)に、1960年に石油が石炭に取って代わったことを示し、「1970年まで人類は、時代ごとに、潤沢で、低廉で、安定なエネルギーを探し求め、それぞれが新しい主役を担ってきた」と説明。一方で、現在の世界のエネルギーミックスに関しては、化石エネルギー(石油、石炭、LNG)が84%、脱炭素エネルギー(水力、再生可能エネルギー、原子力)が16%で、「日本もほぼ同じ」と説いた上で、「これを逆転させるよう、しっかりとした目標を掲げるべき」、「GX実現のポイントは、省エネ、再エネ、原子力の3つ」と主張した。福島の被災者支援に取り組む満田氏は、原子力事故が及ぼす影響の他、損害賠償や廃炉に要する費用の国民負担なども懸念し、福島で国会主催の公聴会を開催することを切望。環境経済学の立場から、大島氏は、「原子力発電に係る国費投入額や事故対策費用で合計約33兆円が投じられる」との試算を示すなどした上で、原子力を主力電源として位置付けることに否定的な考えを主張した。山内氏総合資源エネルギー調査会の電力・ガス需給・制度設計に関する小委員会で委員長を務める山内氏は、公益経済学の立場から、インフラ事業を市場原理に委ねる限界やリスクに言及。今回法案の柱の一つ「地域と共生した再エネの最大限の導入促進」に関連し、成田空港の敷地を活用した太陽光発電所の設置構想を披露。地元企業とも連携し、空港施設への電力供給の他、水素を製造して航空機燃料のクリーン化も図るもので、脱炭素社会実現に向けて「エネルギー分野だけでは達成できない」、「国有資産にはまだ活用の余地がある」と強調した。今回の法改正案で、原子力発電の運転期間に係る規定は、原子炉等規制法から電気事業法に移管。「最長で60年」との現行の枠組みを維持した上で、原子力事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外される。國場幸之助委員(自民党)は、「『運転期間制度を見直しても安全性は必ず優先される』ことをどのように担保するのか」と質問。これに対し、山口氏は、今回の法案で、高経年化した原子炉に対する規制の厳格化、事業者の責務の明確化が記載されたことを述べるとともに、米国における多くの長期運転実績、関西電力美浜3号機の40年超運転入りに言及し、「技術的観点からしっかりとしたリスク評価・安全管理ができている」と応えた。原子力の特殊管製造に関わった経験も踏まえ意見を述べる大島委員続く21、26日の同委員会会合には、経済産業省、原子力規制委員会の他、文部科学省の担当審議官も出席。原子力開発の技術基盤・人材確保に関連した質疑応答も行われた。21日の会合では、大島敦委員(立憲民主党)が、今後の高速炉開発に向け「もんじゅ」事故の教訓を踏まえる必要性とともに、鋼管メーカーの勤務経験から、「工場を一度閉めてしまうと製品は二度と作れなくなる」と述べ、サプライチェーンの維持や技術継承の課題を指摘。26日の会合では、鈴木義弘委員(国民民主党)が、日本で初めて原子力発電に成功した動力試験炉「JPDR」の廃止措置完遂を視察した経験に触れ、廃炉に伴う放射性廃棄物の処分、クリアランス制度((放射能濃度が基準値以下であることが確認されたものを再利用または一般の産業廃棄物として処分できる制度))による再利用について、国が着実に道筋をつけていくよう求めた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
26 Apr 2023
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経済産業省はこのほど、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の風評影響について、農林水産業(生産者)、食品製造・卸売・小売業者など(生産者以外)を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。復興相をヘッドとする原子力災害に伴う風評対策に関するタスクフォース会合で4月13日に報告されたもの。調査は、福島県およびその近隣道県に所在する事業者を対象として2022年11~12月に実施。生産者以外については、同道県産農林水産物の主要出荷先となる都府県(東京、神奈川、愛知、大阪など)所在の事業者も含んでおり、合計で約3,000件の回答(同一事業者が複数業種で回答したものも含む)を得た。調査結果は、生産者、生産者以外でそれぞれ整理。政府によるALPS処理水の処分方針決定後の販売動向について、生産者では約45%、生産者以外では約40%が「何らかの注視すべき動きがある」と、先行きを懸念していることがわかった。その中で、生産者については、販売価格低下、販売量減少、販売条件の悪化、販売先による取引停止、クレームの増加、問合せの増加の各項目について回答を分析。いずれの項目とも、業種別で、水産業者が最も高い比率で「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしてあげていた。項目別で、全業種ともに最も比率の高かった販売価格低下をあげた事業者は、水産業者で55.1%、米農家で22.9%、野菜農家で19.8%、畜産業者で17.5%、果樹農家で17.1%だった。また、生産者以外については、販売量減少、客数の減少、他地域産品への変更要請・取引停止、問合せの増加、販売価格低下、販売条件の悪化(陳列方法など)、クレームの増加の各項目について回答を分析。「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしては、食品関連業種で販売量減少をあげた比率が高く、食品製造業で29.6%、食品卸売業で29.4%、食品小売業で23.2%だった。同じく、販売価格低下については、食品製造業で12.9%、食品卸売業で19.7%、食品小売業で10.3%だった。外食業・宿泊業では、客数の減少をあげた比率が15.8%で最も高かった。一方で、自由記述の回答や個別ヒアリングの範囲からは、生産者、生産者以外のいずれとも、現時点では、取引停止などの具体的な影響が発生していることは確認されておらず、「将来的な影響の発生を懸念している事業者がほとんど」と考察している。なお、経産省では4月24日、小売関係の業界5団体(日本チェーンストア協会、全国スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリーチェーン協会、オール日本スーパーマーケット協会)と、「ALPS処理水の処分に係る風評対策・流通対策連絡会」を開催。太田房江副大臣より、先の調査で「効果的だと思う取組」として回答割合の高かったモニタリングデータの発信、リーフレット、Q&A集の作成とともに、今後、現場での取組状況を視察してもらう勉強会を企画していることなどが説明された。
25 Apr 2023
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「第56回原産年次大会」では2日目の4月19日、セッション4「原子力の最大限活用とその進化―2050年を見据えて」が行われた。黒﨑健氏(京都大学複合原子力科学研究所所長・教授)をモデレーターに、パネリストとして、神﨑寛氏(三菱重工業原子力セグメント原子力技術部部長)、姉川尚史氏(東京電力ホールディングフェロー)、大島宏之氏(日本原子力研究開発機構理事)、ミカル・ボー氏(英国 CORE POWER社創設者、会長兼CEO)、曽根理嗣氏(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所准教授)が登壇。セッション開始に際し、黒﨑氏は、「原子力は発電分野にとどまらず、様々な社会・経済活動と脱炭素化に貢献できる技術だ。2050年の姿を見据え、原子力のポテンシャルや多様な利用形態に焦点を当て、原子力利用の幅を広げ深化させていくための示唆を得たい」とねらいを述べた。同セッションには原子力分野に関心を持つ学生ら約50人も訪れ聴講。総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループで座長を務めている黒﨑氏は、「革新炉開発をきっかけに原子力イノベーションを実現していきたい」と強調するとともに、「原子力の新しい価値の創造」、「最先端分野・異分野との融合」、「人を呼び込む・若者にとって魅力ある原子力」をキーワードに掲げ、口火を切った。日本における革新炉開発の取組については、神﨑氏が三菱重工の取り組む革新軽水炉「SRZ-1200」(電気出力120万kW、2030年代半ばの実用化が目標)のコンセプトを中心に説明。同氏は、「SRZ-1200」の他、小型軽水炉(電気出力30万kW)、高温ガス炉、高速炉、マイクロ炉(離島・へき地・災害地用の電源に利用できるポータブル炉)からなる同社の「革新炉ラインナップ」を披露した上で、参集した学生たちに対し「色々な技術、オポチュニティがある。是非挑戦し社会に貢献して欲しい」と呼びかけた。また、研究開発の立場から、大島氏は、社会実装に向けた次世代革新炉に求められる要件として、「一層の安全性向上」を前提に、「安定供給」(大規模で安定な脱炭素電源、革新的安全性向上、サプライチェーンの維持・強化や技術自給)、「資源循環性」(廃棄物問題の解決、資源の有効利用)、「柔軟性」(再エネを支える出力可変性、水素・熱利用、立地の柔軟性、医療用RI製造)を提示した上で、原子力機構が取り組む高温ガス炉、高速炉に係る技術開発について紹介。高速炉については、廃棄物減容・有害度低減の他、他産業からの廃熱も組み合わせ再生可能エネルギーと共存する新たなエネルギー供給システムの可能性を展望。「様々なチャレンジがある。われわれと一緒に開発を進めていければ」と、意欲ある学生たちの参入に期待を寄せた。他分野と連携した原子力開発・利用の可能性に関しては、姉川氏、ボー氏、曽根氏が発表。姉川氏は、造船関連企業も参画した「産業競争力懇談会」が検討を進めている浮体式原子力発電について紹介。海外の石油掘削などで実用化されている海上浮揚型プラントの技術を原子力発電にも応用するもので、沖合に係留することにより、津波の被害を避ける、海水を利用した除熱ができる、事故時の住民避難が不要となるといったメリットを持つとしている。同氏は、将来的に地震リスクの高い東南アジア諸国への導入も展望し、今後の基本設計・具体化に向けて、技術継承も合わせ原子力発電所の建設経験を持つ技術者OBと学生との共同作業を提案した。さらに、海上輸送の生産性向上に向けて新たな原子力技術開発に取り組むボー氏は、世界の船舶約10万隻のうち、主に大型船7,300隻が海上燃料の50%超を消費し、CO2や大気汚染物質を排出している現状を示し、船舶の動力源としてクリーンな燃料供給が可能な浮体式原子力発電を導入する意義を強調。その市場規模は6兆ドルにも上ると見込んだ。技術的な実現性として、同氏は、最長30年間の燃料交換不要、組立ラインでの製作可能性などから検討を行った結果、最適な炉型とされた「溶融塩高速炉」(MCFR)の米国アイダホ国立研究所での実証を2026年頃に目指しているとした。また、JAXAで宇宙用蓄電池の研究開発に従事してきた曽根氏はまず、小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル回収の経験を披露。「惑星間往復航行が今の日本で可能な技術となった」とした上で、今後、さらに木星以遠への到達を目指す「深宇宙探査船団構想」の課題として、太陽光利用の限界をあげた。同氏は、宇宙の原子力電源として、崩壊熱利用と連鎖核分裂利用の2つをあげ、それぞれ探査機、拠点開発での適用を見込むとともに、ラジオアイソトープの利用が小電力稼働の探査機の設計に革命を起こす可能性に強く期待。原子力産業界への理解・協力を求めた。「宇宙の電池屋」を自称する曽根氏は、現在も深宇宙探査を展望し、セイル(帆)膜面上に搭載した薄膜太陽光電池で推進する「ソーラー電力セイル探査機システム」の開発に取り組んでいる。同氏は、かつて電池研究への志を周囲に否定された経験を振り返りながら、学生たちに対し「自分の目指すところに逆風が吹いていると思ったら、それはむしろチャンスだと思って欲しい」とエールを送った。
24 Apr 2023
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「第56回原産年次大会」2日目のセッション3「福島復興の今と未来」では、東京電力から廃炉状況の説明を受けたのち、福島県双葉郡大熊町にスポットを当て、震災から12年が経過した現状と今後の取り組みについて、大熊町長の吉田淳氏と大熊町商工会会長蜂須賀禮子氏が講演。モデレーターに長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏を迎え、ディスカッションがおこなわれた。最初に高村氏が「福島復興のこれまでとこれから」について、チェルノブイリ事故と福島第一事故の比較、福島復興、長崎大学による復興支援の取り組みなどを紹介。311事故当時、長崎大学でチェルノブイリ対象の甲状腺がんの診断支援などをおこなっていた高村氏は、事故の一週間後に福島へ入り、事故における危機管理として放射線被ばくと健康への影響などを説明するクライシスコミュニケーションをいわき市から始めたという。長崎大学の福島復興支援事業として翌年には川内村に復興推進拠点を設け、長崎大学の保健師が常駐して、帰還した住民を訪問、あるいは、小さなグループでのリスクコミュニケーションを実施した。現在、川内村では約8割の住民が帰還している。その一方で、事故前には人口約1万人いた大熊町に、現在帰還しているのは10%に満たないなど、12年が経つと復興のフェーズが自治体ごとに異なる現状が顕著に浮き彫りになることを高村氏は指摘。「震災から12年が経過した。今回は大熊町の今について皆さんと思いを共有する機会としたい」と、大熊町町長の吉田淳氏の講演につないだ。吉田氏は、震災から12年が経ち、ようやく復興のスタートを切ることができたと感謝の意を表し「大熊町の復興状況について」と題して、復興の進捗と取り組みを紹介した。大熊町の居住制限区域、避難指示解除準備区域は、2019年4月に避難指示が解除された。帰還困難区域の中の特定復興再生拠点区域(復興拠点)においては2022年6月30日に避難指示が解除された。大熊町で最初の復興拠点となった大川原地区の取り組みについて、令和元年5月に大熊町役場新庁舎が業務を開始し、帰還者のための災害公営住宅や新たな転入者を受け入れる再生賃貸住宅も同年に入居が始まったことを報告。令和3年に宿泊温浴施設「ほっと大熊」、交流施設「linkる大熊」、商業施設「おおくまーと」をオープン。医療・福祉施設診も整備した。認定こども園と義務教育学校が一体となる学校教育施設「学び舎 ゆめの森」では、この4月10日に入園式、入学式、始業式、これらを一つにまとめた始まりの式をおこなった。吉田氏は、学校の再開で、帰還する家族、移住してくる家族が増えることに期待を寄せた。蜂須賀氏は「復興のひかり」をテーマに、東日本大震災から今日に至るまで国内外からの支援に感謝の意を表し、今の思いを語った。かつて蜂須賀氏は大熊町で小さなフラワーショップを営んでいた。地元の中学校の卒業式に花を納め、ほっと一息をつこうとする矢先に大きな地震がおきた。全町避難という命令が出され生活が一変した。震災当時を振り返り、12年が経つ今も「心の安心、心の復興を感じられない」と打ち明ける。今も蜂須賀氏は避難者として、大熊町から60km離れた郡山市で生活し、週に3回ほど大熊町の商工会館に通っているという。大熊町商工会には現在260名ほどの会員がいるが、町内の小さな事業者の廃業は続く。早く帰還できなかったこと、帰還して事業を再開してもきてくれるお客様が戻らないことなど、事業継続の難しさを語った。震災当時、50年間は住めないと言われていた大熊町も、今や12年目にして復興拠点地域には役場新庁舎、復興住宅、集合店舗、交流施設ができ、年間1万人以上の利用者がある。蜂須賀氏は、福島民友に掲載された写真付きの記事を示し、家業を引き継いだり新しい事業を起こしたりと懸命に取り組む大熊町商工会青年部の部員たちの話をした。その中で、ある部員が「福島原子力発電所ができること、働くことを自分たちの親は誇りにしていた。今度は、事故が起きた発電所の廃炉作業に自分たちが参加して、廃炉にしたことを子どもや孫たちに自慢をしたい」と語ったという。「変えられるものが二つある。それは自分と未来だ」という福島の偉人、野口英世の言葉を引用し、「12年間かすかな光の中で歩み、未来に向かう若者が前に進もうとしている。未曾有の事故を起こした発電所の廃炉作業において、科学的根拠に基づき、IAEAなどによる安全性の検証、第三者機関による監視を徹底し、地元住民にクリアな情報を伝えていただかないと自分たちにも若者たちにも未来はない」と、蜂須賀氏の思いがこもる言葉で講演を終えた。その後、高村氏の進行で大熊町の将来について意見交換がおこなわれた。吉田氏は、「大熊町の復興は前町長の渡辺利綱氏の強い思い入れと多くの人の支えがあってこそ。教育や起業する人を応援することが恩返しであると考え、大熊インキュベーションセンターは、家賃や光熱費を安くして若い世代が活用しやすくした」と述べた。蜂須賀氏も、商工会には大熊インキュベーションセンターを利用する若者たちと検討している創業塾を開く計画があるとし、「大熊町で生まれ育った人たちと新しい人たち、新しい風、新しい考え方が加わり、一歩進んだ大熊町になる」と続けた。「医療体制についても浜通りの復興において重要なキーワードになる」と高村氏。これに対し、吉田氏も自身が富岡町に新しくできた医療センターで治療を受けた経験を踏まえ、大熊町にも日常的に救急医療に対応できる医療機関の必要性に同意した。医療と並んで地域の復興に欠かせないものに教育がある。今年の4月に大熊町で教育活動が再開したことについて、「0歳から100歳まで、皆が一緒に学べる場にしたい」と吉田氏は語る。「施設が贅沢ではないかと言われることもあるが、元々は、幼稚園が2つ、小学校が2つ、中学校が1つ、保育所が1つ、児童館があったものを1つにまとめた施設。だからこそユニークな建物になる」と、他にはない施設の魅力をアピールする。蜂須賀氏も「大熊町の『学び舎 ゆめの森』に行かなければ『この授業を受けられないんだ』『こんなに楽しいんだ』」と、通いたい気持ちを持ってもらえるような学校になるよう、地域住民で見守っていきたいとエールを送る。意見交換の締めくくりとして、吉田氏は「大熊町の復興は他の地域に比べると遅れている。約11,500人がいた人口は今なお1,000人弱にとどまる。それでも、大熊町には伸びしろがある。まずは人口を増やす。住む場所を増やす。工業団地も整備を進める。遅れを取り戻すべく、期待と支援をお願いしたい」と語った。蜂須賀氏は「大熊町は夢を描ける街。良い方向に変わっていく大熊町を一緒に見守っていただきたい」とのメッセージを参加者に訴えた。
21 Apr 2023
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