
高市首相は12月2日、就任後初めて福島第一原子力発電所とその周辺施設を視察し、廃炉の進捗状況や帰還困難区域の現状を自ら確認した。高市首相はまず、大熊町の中間貯蔵施設を訪れ、土壌貯蔵施設や、除染土壌を道路盛土に再生利用する実証事業の取組みを確認。その後、福島の復興・環境再生の取組みを発信している中間貯蔵事業情報センターに移動し、職員から説明を受けた。午後には双葉町の帰還困難区域と荒廃農地を視察し、未だ復興途上にある地域の現状に理解を深め、特定帰還居住区域制度を活用しながら、避難指示解除に向けた取組みを加速させる考えを示した。また、将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除し、復興・再生に責任をもって取り組む決意を示した。そして、高市首相は、除去土の中間貯蔵施設を受入れた大熊町・双葉町、そして福島県に対し、改めて深い謝意を表明。福島県内で発生した除去土を2045年3月までに県外で最終処分を行うという国の方針について、「法律に基づく国の約束であり、責任をもって実現すべきものだ」と強調した。政府はこれら除染土の処分量を減らすために、放射性物質の濃度が低い土を、全国の公共工事の盛り土等に用いて再生利用する計画を進めている。すでにその第一歩として、総理大臣官邸の前庭や、霞が関の省庁の花壇などで除染土の利用が開始されている。さらに今年8月、政府は県外処分へ向けたロードマップを策定。2030年頃に最終処分場候補地の選定を開始し、2035年を目途に処分場の仕様を具体化、候補地選定につなげる計画を示した。高市首相は、「責任を持ってロードマップの取組みを進めるとともに、段階的に2030年以降の道筋も示していきたい」と述べ、改めて国の責任を明確にした。高市首相は今回の視察を通じ、福島の復興が依然として長い道のりであり、震災と事故の記憶を決して風化させない姿勢を強調。「『全ての閣僚が復興大臣である』との決意のもと、復興に向けた取組みを一層加速させる方針で、福島の再生を内閣の最重要課題として責任を持って進めていく」と強い意志を示した。
05 Dec 2025
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東京電力は12月1日、青森県の東通村に地域共生の拠点として、「東通ヘッドオフィス」を開設した。東京電力は、東通1号機(ABWR、138.5万kW)の工事再開に向けた準備を進めているほか、同2号機(ABWR、138.5万kW)を計画中である。同社の青森事業本部は、2019年7月の設置以来、東通原子力建設所内のオフィスを間借りして業務を行ってきたが、機能・人員の一層の強化が必要と判断。今回のヘッドオフィス開設により、地域に根ざした原子力事業の推進、地域の持続的な発展への貢献を目指す。オフィス棟と社員寮の入った住居・交流施設棟から成る同施設は、それぞれ、「nooqu-OFFICE(ノークオフィス)」、「nooqu-LIVING(ノークリビング)」と名付けられた。施設名の「nooqu〈ノーク〉」とは、n(=next 次なる)、∞(=infinity持続可能な)、q(=quest 探求・追求)、u(=unite つなげる、まとめる)を組み合わせた造語だ。「これからの持続可能な地域づくりを追求し、地域とつながる施設でありたい」という想いを込めて、この名称に決定したという。ノークオフィスには、オフィス機能に加え、シェアオフィスや屋内広場など多目的に利用できる空間を設けた。屋内広場には、約200インチの大型LEDスクリーンを備え、季節に応じたイベントなど、多様な用途に対応する。誰もが気軽に集まり、地域とのつながりを育む拠点としての活用を見込む。また、災害対策として、太陽光パネルや蓄電池、非常用発電機を設置し、有事の際には地域防災にも活用できる設備を備えている。ノークリビングの2・3階は社員寮となっているが、社員食堂やコインランドリーなど一部施設を地域住民に開放する。同社は同施設のオープンを機に、地域住民のさらなる利便性向上と交流促進に貢献し、地域に根ざした原子力事業の展開、地域の持続的な発展に向けた取り組みを進めていく。
04 Dec 2025
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原子力規制委員会は11月26日の定例委員会で、「原子力規制庁職員に係る研修の現状及び今後の取組」について、原子力安全人材育成センターの竹本亮副所長より説明があり、今後の展望を含め意見交換を実施した。原子力安全人材育成センターとは、審査官や検査官らを育成するために創設された人材育成の専任機関のこと。2014年の開設以来、昨年度末までに累計1,405コース、2,366回の研修が実施されてきた。同センターは常勤職員が44名、非常勤職員が23名の計67名体制(2025年11月現在)で運営されており、行政基礎研修、国際性向上研修、eラーニング、基本知識習得研修、専門性向上研修の5つのカテゴリーに分け、計183コースを提供している。竹本副所長によると、新規採用職員には、「職員間のコミュニケーションの土台となる共通の言語が必要」という規制委の人材育成方針に基づき、法令、放射線、原子力技術などの体系的な教育を入庁初期から実施しているという。2年目以降は、規制対象施設に係る原子力規制事務所での業務経験を通じて実践力を養い、3年目以降は、階層別の研修プログラムを通して、継続的な人材成長を支える仕組みを整えている。また、語学研修にも重点を置き、国際会議の参加レベルとされる英語力を目指す体系的教育を実施していると説明した。さらに同センターでは、原子力発電所の中央制御室を模したプラントシミュレータ(PWR・BWRどちらにも対応)が導入されている。昨年度、このシミュレータを活用した研修を、延べ246名が受講したという。座学に加え、通常運転から設計基準事故、過酷事故までの挙動を体系的に学ぶ仕組みが整備されている。なお、規制委では11月28日に閣議決定された2025年度の補正予算案にて、これら人材育成のためのプラントシミュレータ更新に向け、10.9億円が新たに計上された。竹本副所長は今後の取組として、検査や審査など規制能力の向上のために、「引き続き、総合的かつ実践的な研修プログラムを行う」と語った。そのために、外部の専門的・多角的な視点を積極に取り入れた研修、シミュレータや模型を用いた実践教育の継続、基本・中級・上級の資格制度に基づく段階的スキル向上を進める考えを示し、「原子力に対する確かな規制を通じて人と環境を守る」という使命を実践できる職員の育成に全力で取り組むと結んだ。その後の質疑応答では、自然ハザード、とりわけ地震・津波に関する研修の位置付けに関した質問があり、竹本副所長は「耐震・津波審査部門の協力により、原子力規制庁全職員向けの基礎研修と、審査官向けの高度な専門研修を体系的に実施している」と述べ、大学教授による応用研修などを含め手厚い教育体制が整っていることを示した。
03 Dec 2025
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北海道の鈴木直道知事は11月28日の定例道議会で、泊発電所3号機(PWR、91.2万kWe)の再稼働について、「原子力発電所の活用は当面取り得る現実的な選択である」と述べた。北海道ではこれまで、さまざまな経済団体や市民団体との対話に加え、岩宇4町村や後志管内、道内6圏域で住民説明会を開催し、意見交換を重ねてきた。再稼働に対する不安や懸念の声も寄せられる一方で、地元4町村(泊村・神恵内村・共和町・岩内町)の議会が早期再稼働を求める意見書を採択し、4町村長が再稼働への理解を表明したことを受け、鈴木知事は地元の判断を重く受け止め、同3号機の再稼働を進める姿勢を示した。さらに知事は、「道内の電気料金が全国的にみても高水準にあり、道民の生活や道内経済に大きな影響を与えている」と指摘。また、北海道電力の齋藤晋代表取締役から3号機再稼働後の料金の値下げ見通し<既報>について、直接説明を受けたことも明らかにした。鈴木知事が、「現実的な選択」と判断する根拠として挙げた点は以下の通り。①泊3号機が新規制基準に適合していると認められたこと<既報>②国が北海道およびUPZ(緊急防護措置準備区域)内13町村の防災計画と避難計画を一体化した泊地域の緊急時対応を取りまとめ、原子力防災会議が了承したこと③再稼働により電気料金の引き下げが見込まれること④電力需要増加が見込まれるなか、安定供給の確保に寄与すること⑤脱炭素電源の確保が道内経済の成長や温室効果ガス削減に資すること今後鈴木知事は、3号機を視察し、現地で安全対策について直接確認する予定となっている。また、地元4町村長から改めて話を聞き、定例道議会での議論を踏まえて最終判断を下すとしている。赤澤亮正経済産業大臣は同日の記者会見で、「泊3号機の再稼働は、エネルギー安全保障やカーボンニュートラルの実現に寄与する観点から重要だと考えている。今後も地域の理解が得られるよう、我々も努力をしていきたい」と語った。また、最先端半導体の量産を目指すラピダス社の工場の建設や、データセンターの集積が進む北海道において、産業競争力の観点から原子力発電所の再稼働が持つ意義を記者から問われた赤澤大臣は、「経産省では『ワット・ビット連携』を掲げ、安定した電力を必要とするデータセンターを発電所周辺に集積させることで産業クラスターの形成を図る政策を進めている。泊発電所3号機の再稼働が実現すれば、それら政策の一助となる。大変好ましいことだ」と強調した。
01 Dec 2025
763
原子力規制委員会は11月26日の定例会合で、原子力施設上空および周辺空域の設定に向け、関係省庁との協議状況や今後の検討方針について議論した。併せて、原子力施設付近を飛行する航空機に関する事業者からの情報提供手続きを明確化し、運用を強化する方針を示した。現在、原子力施設付近で航空機の飛行が確認された場合、事業者は、関係省庁へ情報提供する取り決めがあり、昭和40年代から運用されてきた。また、国土交通省が発行する航空路誌(AIP:乗務員に提供される航空機の運航に必要な情報)には、原子力施設の位置や概要が掲載され、航空関係者が参照している。しかし近年、原子力施設の安全確保(防災訓練や緊急時対応等)や救命救護、警備活動といった業務上必要な飛行以外にも、ヘリコプター等による不必要な飛行事例の報告が増加しており、リスク低減に向けた新たな対応が求められていた。規制庁は今回、①飛行状況を写真や動画で記録し証拠として保存、②統一様式による報告、を事業者に求める方針を示した。提出された情報は規制庁から関係省庁に共有され、業務上必要でない飛行であれば関係省庁が当該関係者に注意喚起を実施する。また、規制庁は公表した情報について、後に業務上必要な飛行と確認されても取り下げない方針を明らかにした。飛行制限区域を設定するにあたり、「航空法第80条」の位置づけが論点となっている。これまで、2012年の省庁打ち合わせでは、「第80条は機内被ばく防護を目的とした規定であり、一般的な原子炉上空の飛行禁止には適用できない」とされていた。しかし、2016年のG7伊勢志摩サミットを契機に、警備上の理由から飛行制限区域設定の必要性が高まり、関係省庁との協議を重ねた結果、警備当局からの要請を受けて飛行制限区域を設定(G7広島サミット・東京五輪等)するなど、柔軟な対応へと転じてきた経緯がある。今回の会合では、国土交通省航空局が安全上および警備上の観点から、原子力施設上空に行制限区域を設定できるとの立場を示し、関係省庁の要請を踏まえた具体的検討を進める方針が説明された。また、「原子力施設やその付近上空」の範囲について、高さや対象外となる航空機など詳細は、今後検討していく。現在、原子力発電所の敷地と、その周囲約300メートルを「敷地周辺」と位置付けており、前述のAIPにおいては範囲のみ示され、高さの規定は無い。そのため、今後飛行制限を設ける場合、高度基準の検討が必要になる。規制庁では、航空機特性や気象条件を考慮しながら、より余裕ある距離の確保が望ましいとしている。今回の議論で対象となるのは、有人航空機であり、ドローン(無人航空機)は別法令で規定されているため本制度には含まれない。
28 Nov 2025
673
新潟県の花角英世知事は11月26日の記者会見で、来月開会する県議会の定例会に総額約73億円の補正予算案を提出すると発表した。これらは原子力複合災害時の避難道路整備費や鳥獣被害対策など幅広い分野で使われる予定だ。そのうち約3,100万円は、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機(ABWR、135.6万kWe×2基)の再稼働に関する広報費等に充てられる。これら広報費について花角知事は、県議会で議論がしやすくなるよう、通常の補正予算案と議案を分けることにしたという。国の再稼働交付金を活用し、原子力発電所の安全・防災対策を県民に周知する冊子等を作成し、理解促進を図る。また、安全協定に基づき、これまでも実施してきた自治体職員による原子力発電所のチェック体制をさらに強化し、外部の専門家を交えたチームを新たに創設する。記者団から、これら理解促進事業にどのような効果を期待するかと問われた花角知事は、「定量的な数値目標は定めていないが、県民公聴会や意識調査では、安全対策に関する認知が十分に浸透していない現状が明らかになった」と述べ、「県や各市町村が長年にわたり取り組んできた防災対策を県民に正しく伝えることは我々の責務だ」と語った。これまでの意識調査では、安全・防災対策の認知度が高いほど再稼働に肯定的であること、また、20~30代の若年層は再稼働に賛成している傾向が強いことが明らかとなっている。また、発電された電力の多くが首都圏に送られている点について問われた花角知事は、「生産地と消費地の非対称性は、電力に関わらず多くの場面で存在する。ただ新潟県民がどういった思いで原子力に関する諸問題に向き合ってきたのか、電力を使う側に知ってもらいたいとも思う」と語った。赤沢亮正経済産業大臣は11月21日の記者会見で、花角知事のこれまでの取り組みに敬意を表した上で、「国として原子力防災の充実・強化、東京電力のガバナンス強化、地域振興策の具体化を進め、丁寧な情報発信に努める」と強調。さらに、UPZ(緊急防護措置準備区域)が30km圏に拡大したにもかかわらず、電源立地対策交付金制度が見直されていない点を問題視し、公平な制度運用のため早期の見直しを要請した花角知事の発言に触れ、「地域の持続的発展に向け、見直しに向けた議論を深めていく」と述べた。また、赤沢大臣は「まだ再稼働が決まったわけではないが、柏崎刈羽原子力発電所6号機が定格出力で稼働したと仮定すれば、2%程度、東京エリアの需給を改善する効果がある」と電力供給面での再稼働の重要性を示した。
26 Nov 2025
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新潟県の花角英世知事は11月21日の記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機(ABWR、135.6万kWe×2基)の再稼働に同意する意向を表明した。判断は12月の新潟県議会に諮った上で、国へ正式に報告する。知事は同意の前提として、国に対して次の7項目を確実に対応し、責任を持って確約するよう求めた。国へ求めた7項目①県民への丁寧な説明の徹底原子力の必要性・安全性について、取り組み内容が県民に十分伝わっていないとの意識調査結果を踏まえ、国と東京電力に対し改めて丁寧な説明を要請。②新たな知見に基づく安全性の再確認最新知見が得られた場合、迅速に安全性を再確認するよう要請。③緊急時対応での国の関与強化避難・屋内退避で民間事業者では対応困難なケースに備え、国の実動組織が確実に行動できるよう、平時から関係機関の連携強化を要請。④避難道路・退避施設、豪雪対応の集中的整備原子力関係閣僚会議が示したインフラ整備を、新潟の豪雪事情も踏まえ早期かつ集中的に実施するよう要請。⑤使用済み燃料処分、武力攻撃対策、損害賠償の確保県民の大きな懸念である課題へ、国が責任を持って対応するよう要請。⑥東京電力の信頼性回復依然として十分に信頼が回復していないと指摘。国が設置する「監視強化チーム」の実効性と、活動成果の確実なフィードバックを要請。⑦UPZ拡大と交付金制度の見直しUPZ(緊急防護措置準備区域)が30km圏に拡大したにもかかわらず、電源立地対策交付金制度が見直されていない点を問題視し、公平な制度運用のため早期の見直しを要請。花角知事は容認判断の理由として、同6、7号機が原子力規制委員会の審査に合格し安全性が確認されたこと、原子力発電が優れた安定供給力と国産化率を有し、国が原子力の最大限活用を推進する方針を示していること、同発電所の再稼働が東日本の電力供給構造の脆弱性や電気料金の東西格差を是正し、脱炭素電源を活用した経済成長にも寄与するとの見通しを示し、「国民生活と国内産業の競争力を維持・向上させるためには、柏崎刈羽原子力発電所が一定の役割を担う必要があるとの国の判断は、現時点において理解できる」と述べた。このタイミングで容認となった背景について花角知事は、「昨年3月に経済産業省から理解要請を受けて以来、長い時間をかけて関係各所と議論した。リスクを完全にゼロにはできないが、ただ漠然とした不安や合理性のない理由で再稼働を止めることはできないと考えていた」と説明。また、県民意識調査では、安全・防災対策の認知度が高いほど再稼働を肯定する意見が増加する傾向や、20~30代の若年層で賛成する傾向が強いことが示された一方、依然として原子力に不安を抱えている県民が多いことも明らかになった。その上で知事自身が、今月半ばに福島第一原子力発電所を視察し、事故の影響や復旧作業の現状を直接確認した事を踏まえ、「原子力規制委員会が新規制基準を策定し、その知見と教訓が柏崎刈羽原子力発電所にも適用されている」と強調。19日の定例知事会見では発電所内の新しい技術や設備の改善にも触れ、「災害発生時の柔軟な対応を可能にする可搬型(モバイル型)設備の充実は、多重防護の観点からも教訓が反映されている」と評価。また、現場で働く東京電力社員の努力についても言及し、「約5,000人の職員や協力企業の方々がチームで動く意識を持ち、コミュニケーションを重視していた。『ワンチーム』という言葉が繰り返され、意識の高さを感じた」と語っていた。また、花角知事は、自身の判断が県政全体の信頼の上に成り立つべきだとの姿勢を示し、県議会に対し、知事職継続への信任を求める意向を示した。
25 Nov 2025
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四国電力は11月20日、伊方発電所1号機(PWR、56.6万kWe)の廃止措置計画について、第2段階の実施に向けた計画変更認可申請書を原子力規制委員会に提出し、愛媛県および伊方町に対して安全協定に基づく事前協議の申し入れを行った。使用済み燃料の搬出や管理区域内設備の解体計画の作成など、第1段階の作業が計画通り完了したことを受け、廃止措置作業は次の工程へ進む。第2段階では、管理区域内設備のうち、原子炉領域周辺のポンプ・タンクなど放射能レベルが比較的低い設備の解体撤去に着手する。作業にあたっては、作業員の被ばく低減と放射性物質の飛散防止を重視し、密閉型の囲いや局所排風機を活用するほか、粉じん抑制のための適切な工法が採用されるという。また、解体撤去物のうちクリアランス制度の対象となり得るものは一時保管し、国の認可を得て一般廃棄物として再利用または処分する。クリアランス処理できない撤去物は固体廃棄物貯蔵庫で適切に管理される。伊方発電所は現在、3号機(PWR、89.0万kWe)が運転中で、1・2号機はそれぞれ2017年、2021年より廃止措置作業に着手している。廃止措置の全体工程は、第1段階「準備作業(約10年)」、第2段階「1次系設備の解体撤去(約15年)」、第3段階「原子炉容器や蒸気発生器等の原子炉領域設備の解体撤去(約8年)」、第4段階「建屋等の解体撤去(約7年)」の順で進められ、約40年をかけて実施される。同1号機の廃止措置完了は2050年代半ばを見込む。また四国電力は、同発電所の事故を想定した原子力総合防災訓練を11月28日~30日にかけて実施する予定だ。複合災害時の対応等、半島で孤立地域が発生したというシナリオで、自衛隊、警察、消防らと連携し、住民の避難経路を確保する手順などを検証する。原子力総合防災訓練は、原子力防災体制や緊急事態における連携確認、住民理解の促進等を目的として、国が主催し毎年度実施しているもの。
21 Nov 2025
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原子力規制委員会は11月19日、第14回「緊急時活動レベル(EAL)の見直し等への対応に係る会合」を開催した。EALは、原子力災害時に、原子力事業者が原子力施設の状況に応じて緊急事態レベルを判断するための基準で、2011年の福島事故を受け、国際基準を踏まえて2013年に導入された。その後、段階的な見直しを経て現在の体系に至っている。具体的には、放射線の線量変化・設備機能の喪失・格納容器の状態に応じて、「警戒事態」、「施設敷地緊急事態」、「全面緊急事態」の3区分に分類される。緊急時にはこのレベルに応じて、周辺住民の被ばく低減のための避難、屋内退避、ヨウ素剤の服用等の防護措置が実施される。今回の会合では、日本と米国およびIAEAにおけるEALの考え方を比較検証した結果が示された。その中で、日本の基準では設備機能が喪失した段階で全面緊急事態へ移行するケースが多く、実際のプラントの状態と緊急事態区分の深刻度が一致しない可能性が指摘された。結果として、避難の早期化や、緊急度の低い避難指示の発出を招くおそれがあると懸念された。いわゆる、日本のEALは設備の機能喪失に起因する発出条件が多く、今後はプラントの状態そのものに応じた実際のリスクの大きさに基づき判断する手法(放射性物質放出のリスク状態に応じる必要性)に切り替えるべきだとの意見が挙がった。EALの見直しの必要性は以前から議論され、必要な知見の蓄積が規制委の重要な研究課題となってきた。次回会合(12月中旬予定)では、屋内退避解除の判断基準を取り上げ、議論を深める予定だ。
20 Nov 2025
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北海道・東北の水産業を応援する「シーフードフェア」が11月20日、東京・JR新橋駅前SL広場で始まった。福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出を契機にスタートした取り組みで、今年で3回目を迎える。会場には浜焼きの香ばしい香りが漂い、初日から多くの来場者でにぎわった。実行委員会の一員である東京電力は、ALPS処理水の海洋放出以降、販売促進を目的とした「ホタテ応援隊」の活動を継続。今年から対象地域を北海道・東北全体に広げ、イベント名を「ホタテ祭り」から「シーフードフェア」に改めた。会場には9つのブースが並び、うち4つが初出店。青森県産ホタテ焼き、福島県産メヒカリやアンコウのから揚げ、宮城県産ホヤのほか、水産加工品、日本酒、クラフトビールなど多彩な品が提供された。約400席が設けられているが、実行委員会によると例年2日間ほぼ満席状態が続き、昨年は全店合わせて8,500食を完売したという。午後3時の開場と同時に、多くの来場者が足を運んだ。福島県の海産物専門店「おのざき」の担当者は「多くの方に常磐もののおいしさを知ってほしい」と話す。販売現場の実感として、来場者の関心の中心は「処理水問題」よりも水産物そのものの品質に向いているという。来場した女性は「SNSで知って立ち寄った。メヒカリのから揚げは初めてなので楽しみ」と笑顔を見せた。一方、水産業は課題も抱える。中国による日本産水産物の輸入停止措置が実質継続しているほか、海面水温の上昇による漁獲量の減少も懸念されている。ホタテ焼きを販売する青森県漁業協同組合連合会の担当者は「例年は7~8万トン獲れていたホタテが、今年は1万トン程度に減少している。たくさん食べてほしいが、出せるものが少ないのが現状だ」と話していた。フェアは明日21日まで開催される。開催時間は午後3時から午後8時。
20 Nov 2025
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日本製鋼所(JSW)は11月14日、松尾敏夫社長がオンラインで行った第2四半期決算説明会において、火力・原子力発電関連製品の増産に向けた約100億円規模の設備投資を発表した。室蘭製作所の発電機部材の製造設備を増強し、発電機用ロータシャフトや蒸気タービンの設備能力を2028年度末までに現在の1.5倍に引き上げる。なお、今回の投資には人員の増強なども含まれる。同社の素形材・エンジニアリング事業では、電力・原子力製品や防衛関連機器が想定を上回る受注を確保し、売上や営業利益が前年同期比で増収・増益となった。特に、電力・原子力分野の需要拡大が顕著であり、市場の回復基調が明確になっていることから、2026年度末の受注高・利益見通しを上方修正した。松尾社長は会見で「特に欧米で原子力発電の新設計画や運転期間の延長が進んでいる。フランスは改良型欧州加圧水型炉(EPR2)を計6基新設するほか、カナダではSMRの建設計画が進んでいる。米国でも既設炉の運転期間延長や小型モジュール炉(SMR)の新設計画が本格化しており、将来の市場の一つとして期待している」と展望を語った。記者から「資料にはAP1000やSMRに関する記載があるが、受注状況はどうか」と問われた松尾社長は「SMRは昨年度に受注済みである。AP1000は建設が決まり、機器製造メーカーが固まれば、当社にとって大きなビジネスチャンスになるだろう」と答えた。また、日本国内でも原子力の最大限活用方針の下、既存炉の運転期間延長や次世代革新炉の開発が進む中、「使用済み燃料の輸送・保管用のキャスク部材の需要が顕著だ」と述べ、「長期的な需要増に対応する体制整備を急ぎたい」と意欲を示した。今回の設備投資では、原子力・高効率火力向け大型部材製造に必要な二次溶解装置(ESR)の更新・大型化に加え、鍛錬工程の効率を向上させる鋼材搬送装置(マニプレータ)を増設する。さらに、大型ロータシャフト需要の高水準な継続を見込み、超大型旋盤を新たに導入し、生産能力の拡大を図る。
20 Nov 2025
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MOX燃料を搭載した輸送船「パシフィック・ヘロン号」が11月17日、フランスから福井県の高浜発電所に到着した。輸送船は、9月7日にフランス北西部シェルブール港を出発し、喜望峰・南西太平洋ルートを経由し約2か月かけて到着した。関西電力によると、MOX燃料32体を積載した輸送船は17日早朝に接岸し、午前10時すぎに荷下ろしを開始。同日18時半ごろまでに、全作業工程を完了したという。同発電所へのMOX燃料輸送は、2022年11月以来で、累計7回目となる。燃料は仏オラノ社が加工したもの。使用された輸送容器は、長さ約6.2m、外径約2.5m、重量約108トンの炭素鋼製円筒容器。輸送船には自動衝突予防装置や二重船殻構造の採用、緊急時の通報体制整備など、多重的な安全対策が施されている。また、同社が実施した輸送容器の放射線量測定では、表面線量は0.03mSv/h、表面から1m地点でも0.008mSv/h以下と、いずれも国の基準値を大幅に下回った。表面汚染密度についても基準値の半分以下で、同社は「法令の基準値を満足していることを確認した」としている。MOX燃料とは、使用済み燃料から再処理で取り出したプルトニウムをウランと混合して製造する燃料。関西電力では、使用済みのMOX燃料の再処理実証に向け、2027〜29年度に使用済み燃料約200トンをフランスへ搬出する計画も進めている(既報)。
18 Nov 2025
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ラジオアイソトープの安全管理や環境放射能対策の向上に尽力し、優れた成果をあげた人物を称える「令和7年度放射性安全管理功労・環境放射能対策功労表彰」の表彰式が11月10日、原子力規制庁にて執り行われた。同表彰は、原子力安全技術センター、日本アイソトープ協会、日本分析センター、放射線障害防止中央協議会ら4団体が原子力規制委員会の後援を受けて共同主催。放射線の安全利用に関わる関係者の意欲向上と、放射線に対する国民理解促進を目的に、今年度から新設されたもの。今回は、放射線安全管理功労者11名、環境放射能対策功労者3名の合計14名に、原子力規制委員会委員長賞が授与された。表彰式の冒頭、原子力安全技術センターの石田寛人会長は、「本表彰制度は、文部科学省の後援のもと平成22年度まで実施していたが、翌年の東日本大震災を契機に中断されていた。しかし多くの要望を受け、原子力規制委員会の後援のもと再開する運びとなり、大変嬉しく思う」と述べた。そして、「原子力の安全確保は、現場の不断の努力、関係者の支援、そして規制当局との真摯な連携によって成り立つもの。長年にわたり専門性と努力を積み重ね、偉大な功績を挙げられた皆様に敬意を表したい」と受賞者を称えた。続いて挨拶に立った原子力規制委員会の山中伸介委員長は、「放射線利用は、がん治療・画像診断、産業利用など社会基盤を支える重要な技術であり、環境放射能対策は地域の不安解消、正確な情報提供、リスクコミュニケーションの要である」と述べ、「皆さんの活動は社会の信頼を支える柱であり、規制当局にとっても大変心強い存在だ」と受賞者のこれまでの貢献に謝意を述べた。放射線安全管理功労者を代表して、製薬放射線コンファレンス世話人代表の大河原賢一氏が登壇。同氏は、製薬業界における放射線安全管理の在り方の検討や協力体制の構築、人材育成に貢献してきた自身のキャリアを振り返り、「今後も放射線・放射性同位元素の安全利用が社会に幅広く受け入れられるよう、努力を続けていきたい」と語った。環境放射能対策功労者を代表して挨拶したのは、弘前大学被ばく医療総合研究所の木村秀樹客員研究員。長年にわたり環境放射線モニタリング業務に従事してきた経験を踏まえ、「モニタリング担当者は、平常時は計画調査を淡々と進め、異常なデータが得られれば原因を徹底して究明し、有事には即時緊急体制へ移行しなければならない。今回の表彰は、そのような現場の地道な努力に光を当てていただき、大変感慨深く受け止めている」と語った。さらに、「環境放射能対策は、住民の安全と安心、そして回復のために行うものであり、出発点は常に住民のために何ができるかという問いである。その志を若い世代へ確実に引き継いでいきたい」と次世代への継承に向けて意気込みを示した。
17 Nov 2025
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経済産業省・資源エネルギー庁は11月11日、総合資源エネルギー調査会「第6回電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ」を開催し、原子力発電所や送配電網等の大規模投資の費用の一部を、公的融資の対象とする新たな支援制度の創設方針を示した。政府は、第7次エネルギー基本計画で掲げた「原子力の最大限活用」を政策ベースで後押しするため、このタイミングで金融支援策を具体・拡充することで、政府の信用力をテコに積極的な民間投資を促し、脱炭素電源の確保をねらう。新制度では、国の認可法人である電力広域的運営推進機関(OCCTO)の金融機能を用いて融資を実施。民間の金融機関と公的機関による協調融資スキームの構築を想定する。OCCTOは、これまでも送電設備に金融支援をした実績があり、今後、担当者を増員して融資能力を高めるという。また、政府は制度創設と並行して、電気事業法等の関連法の改正も目指す方針だ。原子力発電所の新設には巨額投資が必要で、計画から営業運転開始まで長期間を要するため、事業者側は投資回収に相応の時間を要する。一方で、電力会社の収益環境は、燃料費や資材の高騰、原子力関連の安全対策の厳格化等に左右されやすく、民間金融機関にとっても、貸し出しリスクが伴う。すでに諸外国では政府による債務保証を活用した事業環境整備が進んでおり、日本でも同様の施策が求められていた。今回の公的融資スキームは、こうした課題への一つの回答であり、政府は脱炭素電源の安定確保に向けて金融面からの後押しを強化する。赤澤亮正経済産業大臣は同日の記者会見で「電力需要の増加が見通される中、脱炭素電源や送電網の大規模投資に向けて、民間融資だけで十分か否かを集中的に検討し、政府の信用力を活用する制度や法改正に関する議論を深めたい」と述べ、原子力を含むベースロード電源の確保・強化に公的関与が不可欠との認識を示した。
14 Nov 2025
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フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)は11月6日と7日の2日間、フュージョンエネルギーの早期社会実装に向けた政策提言の詳細を検討するワークショップを開催。会員企業らを中心に20法人29名が参加し、産業界主導での戦略策定に向け活発な議論が交わされた。今年6月、政府は「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、タスクフォースによる取りまとめを進める方針を明記。これを受けてJ-Fusionは、発電実証、商取引・規格の策定、人材育成などを中心に具体的な方向性を整理し、これら白書を今年度中にとりまとめ、政策提言へと繋げる考えだ。ワークショップの冒頭、J-Fusionの小西哲之会長は「日本にはすでに強力なフュージョンサプライチェーンが整っている。今後は単なる情報交換だけでなく、分析や戦略策定に踏み込んでいく段階」と述べ、公的部門が中心となってきたフュージョン分野が、産業界主導の新たなフェーズに移行したとの認識を示した。さらに同氏は参加者に対し、「今後のエネルギー政策の転換を支える主役は私たち産業界にある。共に素晴らしい戦略を作り上げたい」と呼び掛け、民間による積極的な関与の重要性を強調した。続いて、ゲストとして出席した内閣府の澤田和弘科学技術イノベーション推進事務局参事官は、「国のフュージョンエネルギー戦略は少しずつ整いつつあり、勢いを感じている。高市首相が掲げる強い経済の実現のための投資対象17分野にフュージョンエネルギーが選ばれたことは、まさにその好例だ」と述べた。また、「産業界、アカデミア、政策担当者が率直に意見を交わせるこのような場は非常に重要だ」と語り、同ワークショップの意義を強調。そして、「具体的な戦略を描くためには、今一歩踏み込んだ議論が必要。関係者間の緊密な連携が重要だ」と述べ、政府として高い目標の達成に取り組む姿勢を示した。
13 Nov 2025
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東洋炭素株式会社は11月7日、同社の子会社であるTOYO TANSO USA, INC.(TTU)が、米国のX-energy社(以下:Xエナジー社)から高温ガス炉用黒鉛製品(黒鉛製炉心構造材など)を受注したと発表した。今回受注したのは、Xエナジー社が開発を進める小型モジュール炉(SMR)の高温ガス炉「Xe-100」(8.0万kWe)向けの製品で、炉心構造材として同社の等方性黒鉛材「IG-110」が用いられる。納品は2028年を予定しており、現在は部品試作・材料認定等を行っている。来年中には最終設計を決定した上で、製造および加工を開始するという。売上高は約50~60億円規模と見込んでいる。「IG-110」がXe-100の炉心構造材等に採用された背景として同社は、優れた熱的・機械的特性と耐中性子照射特性等を備えた信頼性や、日本や中国、フランスの高温ガス炉の試験炉・実証炉・商業炉において採用実績を有していることなどを挙げた。高温ガス炉は、黒鉛を中性子減速材に、ヘリウムガスを冷却材に使用する次世代型の原子炉で、約950℃の高温熱を得られることが特長だ。発電のみならず、水素製造や化学プラントなど幅広い分野への応用が期待されている。高温環境・高線量下で使用されるため、炉心構造材には極めて高い耐熱性と放射線耐性が求められるが、同社の「IG-110」は、長期間にわたり安定した物性を維持し、優れた耐熱衝撃性や高純度・高強度を備える。国内外の公的機関と共同で実施した照射試験データにより、その信頼性が科学的に裏付けられている点も大きな強みだという。今年2月に策定された第7次エネルギー基本計画では、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示され、世界的にも次世代革新炉の開発・導入が加速する中で、日本製の黒鉛材料が国際的な次世代炉プロジェクトに採用されたことは、原子力サプライチェーンにおける日本企業の存在感の高まりに繋がっている。Xe-100をめぐっては、米化学大手のダウ・ケミカル社が、テキサス州シードリフト・サイトで、熱電併給を目的にXe-100の4基の導入を計画中。同社は今年3月、建設許可申請(CPA)を米原子力規制委員会(NRC)に提出し、5月に受理された。2026年に建設を開始し、2030年までの完成をめざしている。そのほか、Amazonが出資するワシントン州で計画中の「カスケード先進エネルギー施設(Cascade)」でも、最大計12基のXe-100を導入する計画が進められており、2030年末までの建設開始、2030年代の運転開始を想定している。さらに、Xe-100の展開加速に向けて、韓国の斗山エナビリティ(Doosan Enerbility)および韓国水力原子力(KHNP)が協力し、米国内でのXe-100の展開を支援している。
12 Nov 2025
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山口県上関町の上関町総合文化センターで10月26日、上関町青壮年連絡協議会主催による「エネルギー講演会」が開催された。後援は日本原子力産業協会。講師にはユニバーサルエネルギー研究所の金田武司代表取締役社長が招かれ、「エネルギーから見た世界情勢と日本の歴史~改めて原子力を考える~」をテーマに約2時間の講演を行った。冒頭、同協議会の守友誠会長が登壇し、第7次エネルギー基本計画で原子力を最大限活用する方針が示されたことに加え、中国電力が上関町で使用済み燃料の中間貯蔵施設の立地が可能であると報告したことについて触れ、「中間貯蔵施設の建設は上関町や周辺の市町村が抱える人口減少・高齢化・厳しい財政状況といった現実を打開し、地域活性化に繋げることができる」と述べ、原子力がもたらす経済的メリットをまちづくりに生かす意義を強調した。続いて登壇した金田氏は、世界各地の経済・社会問題の背後にエネルギー問題が存在することを指摘。国家の破綻、通貨価値の暴落、停電、戦争などを例に挙げ、「ニュースで報道される出来事の多くは、エネルギーの視点から見るとその構造が理解できる」と語った。同氏は、ベネズエラで発生したハイパーインフレを取り上げ、「米国企業による石油独占に反発した国有化政策が、米国の経済制裁を招き、結果的に通貨の暴落につながった」と説明。また、ロシアとウクライナの戦争の背景にもエネルギー資源の争奪があると述べた。さらに、米国テキサス州で2021年に発生した大寒波による大停電を例に挙げ、「同州は風力発電に依存していたが、マイナス18度の寒波で風車が凍結し停止、大規模な停電が発生した。その結果、電気代が高騰し、一般家庭に180万円の電気料金の請求書が届くなど大混乱となった」と紹介。同氏はこの事例を通じて、電力自由化の落とし穴を指摘し、自由化の影響や再エネ依存のリスクについて再考を促した。また、ドイツのエネルギー政策についても「環境重視のあまり石炭火力や原子力を廃止した結果、隣国からの電力供給に頼らざるを得なくなり、ロシア産天然ガス依存が経済を直撃した」と分析した。日本については「エネルギー資源を持たず、他国との電力連系線もない特殊な環境にある」とし、「こうした現実を踏まえたうえで、安定供給と経済成長の両立を考えるべきだ」と述べ、現実的なエネルギー政策への転換を呼びかけた。講演の後半では、原子燃料サイクルの重要性にも触れ、「再処理を前提とするサイクルを維持するには中間貯蔵施設が不可欠である」と強調。国全体での一貫した政策推進の必要性を訴えた。質疑応答では、参加者から「原子力発電所敷地内にも中間貯蔵施設があるが、六ケ所再処理工場が稼働しても処理しきれない使用済み燃料があるのではないか」「上関町に施設を建てても、再処理の順番が回ってこないのでは」といった質問が寄せられた。金田氏は、「再処理工場の稼働準備は国策として進められており、長期にわたり再処理工場が動かないということは基本的にない」と説明。また、「施設は十分な容量を確保しており、満杯になっても増設で対応できる設計になっている」と述べ、燃料サイクルへの理解を求めた。
11 Nov 2025
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関西電力は11月5日、美浜発電所サイト内でのプラント新設を見据え、地質調査を再開したと発表した。具体的な調査計画も公表しており、調査は2段階に分けて2030年ごろまで実施する予定である。調査は、2010年にすでに着手されていたが、2011年の福島第一原子力発電所の事故を受けて、一時的に中断されていた。同事故以降、電力会社によるプラント新設に向けた地質調査は、今回が国内初の事例となる。同日には、資機材の搬入を開始。まずは概略調査として、今月10日にボーリング調査を開始し、来月下旬には地表踏査を実施する予定である。発電所の敷地内外の地表面の地質の分布や将来活動する可能性のある断層等の有無を調べるために、ボーリング調査、弾性波探査、地表踏査を行い、地質の概況を把握した上で、より優位なエリアを選定する。続く詳細調査では、選定したエリアにおける地形や地質の状況を把握し、原子炉等の設置に適しているかを確認する。試掘坑調査、弾性波探査、深浅測量、ボーリング調査、地震に関する調査等を行い、新規制基準適合性審査時のスムーズな認可取得を目指すとしている。美浜発電所は、2015年4月に1、2号機の廃止が決定され、現在は、3号機(PWR、82.6万kWe)のみ稼働している。同社は同サイト内でのリプレース、特に次世代型原子炉の設置を視野に入れており、今回の調査結果に加え、革新軽水炉の開発や規制方針、投資判断に係る事業環境整備の状況等を総合的に勘案し、今後の方針を決定する。
07 Nov 2025
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関西電力は11月4日、原子力規制委員会から高浜発電所2号機(PWR、82.6万kWe)の高経年化対策に係る長期施設管理計画の認可を取得したと発表した。これにより同機は、2035年11月13日(営業運転開始から60年)まで運転が可能となった。原子力発電所の長期運転をめぐっては、既存炉の健全性を確認したうえで、運転期間を延長する動きが世界的に広がっている。こうした潮流を受け日本では、GX脱炭素電源法が今年6月に全面的に施行され、原子力発電に関連する「電気事業法」や「原子炉等規制法」の改正によって、実質的に「60年超」運転が可能となっている。ただ、高経年化炉に対する安全規制は強化され、運転開始から30年を超える原子炉は、10年以内ごとに長期施設管理計画を策定し、原子力規制委員会の認可を受けることが義務付けられている。同社によると、同機の安全上重要な機器・構造物を対象に、経年劣化事象が発生していないか、また今後の運転で劣化が進展する可能性はないか、劣化評価を実施した。そして、劣化の恐れがある機器・構造物については、運転開始後70年時点を想定し、現行の保全活動で安全性が確保されているか確認を行った。それらの結果に基づき、同社では現行の保全活動に加えた追加対策を策定。具体的には、炉内構造物の計画的な取替えや原子炉容器の第6回監視試験を行い、疲労評価の継続的な確認を実施。さらに、ステンレス鋼配管の検査計画への最新知見の反映や、原子炉容器保温材内側の冷却空気流入経路の封止など、温度管理の強化を進める。また、電気系統ではピッグテイル型電気ペネトレーションを取替えるなど、長期運転に向けた信頼性向上策を講じる方針だ。同社は、現在行っている保全活動に加えて、これらの追加保全策を実施していくことで、運転開始から50年以降においてもプラントを健全に維持できることを確認したという。
06 Nov 2025
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日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)は10月16日、東京都内でシンポジウムを開催した。2050年以降を見据えた「長期的視点に立った骨太のエネルギー基盤の確立」を基本テーマに、各界の専門家を招いて、エネルギー政策の展望と課題を共有し、原子力が目指すべき道筋について議論を交わした。冒頭挨拶でSNWの早野睦彦会長は、「エネルギー政策は本来、短期的ではなく国家100年の計として進めるべきもの。今年策定された第7次エネルギー基本計画では一定の前進が見られた一方、2040年以降の長期的視点や、原子力発電の具体的な拡大策が十分とは言えない」と指摘。「安全規制の予見性、資金調達、高レベル放射性廃棄物処分、司法リスクなど、解決すべき課題は多く残されている」と今後の課題に言及したうえで、「原子力を含む多様な電源を現実的に組み合わせ、安定供給と脱炭素を両立する中長期の国家戦略を確立することが、日本の持続的な発展の鍵」と強調した。続いて、滝波宏文農林水産副大臣(当時)が登壇。「立地に寄り添うエネルギー政策推進議員連盟」の事務局長も務めている同氏は、これまで一貫してエネルギー・原子力政策に関わり、原子力と立地地域産業との関係構築に携わってきたこれまでの経緯を紹介。同氏は、「立地地域に寄り添うとは、安全性を考えることと同義だ。安全性とは立地自治体の住民を守ることであり、避難道路の整備や最終処分場の現実的な受入れ策など、地域視点での政策が不可欠だ」との認識を示した。また、原子力の是非を「推進か脱原子力か」の二項対立で論じるのではなく、「立地地域に寄り添っているかどうか」というもう一つの軸から考えるべきと訴えた。また、先般行われた自民党総裁選候補者への公開アンケート結果についても触れ、「以前は原子力に否定的だった候補者も、今ではほぼ全員が前向きな姿勢を示している」と意識の変化を指摘。その一方で、風向きが好転している今こそ気を引き締める必要性を強調し、リプレースの実現や人材確保、地域との共生に向けた政策の具体化を訴えた。基調講演では、日本エネルギー経済研究所の専務理事・首席研究員の小山堅氏、慶應義塾大学産業研究所の野村浩二教授、東京大学生産技術研究所の荻本和彦特任教授が登壇したほか、日米学生会議で代表を務めた東京大学医学部医学科の富澤新太郎さんが登壇。同シンポジウムのテーマに沿った展望と課題について、それぞれの立場から具体的な見解が示された。小山氏は、中東情勢をはじめとする地政学リスクや国際分断の深刻化を背景に、エネルギー安全保障と脱炭素化の両立が一層困難になっている現状を指摘。AIやデータセンターの普及による電力需要の急増を踏まえ、安全性を確保した上での原子力の最大限活用が「S+3E」同時達成の鍵になると訴えた。野村教授は、2010年代後半以降に加速した脱炭素政策が経済成長の制約要因になっているとし、主要国のエネルギー価格差や産業空洞化の実態を分析。安価で安定的なエネルギー供給体制の確立と、脱炭素政策からの現実的な転換を呼びかけた。荻本特任教授は、化石燃料制約や地球温暖化、紛争リスクと新たな需要増を背景に、社会全体のエネルギーシステム変革の必要性を強調。エネルギーミックスや、電源の再配置や送電ネットワークの強化によって、持続可能な脱炭素化を実現すべきだと述べた。その後のパネルディスカッションでは、エネルギー安全保障と脱炭素化をめぐり、登壇者間で活発な意見交換が行われた。
05 Nov 2025
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北海道電力は10月31日、泊発電所3号機(PWR、91.2万kWe)の再稼働後に実施を予定している、電気料金の値下げ見通しを公表した。家庭向けの電気料金は平均11%程度値下げし、企業用などでは平均7%程度の値下げを行う。同機は今年7月、原子力規制委員会から原子炉設置変更許可を受けており、同社が掲げる「2027年のできるだけ早期の再稼働」に向けて大きな節目を迎えている。北海道電力によると、3号機の再稼働後に安全対策費や定期検査費用等は増加するものの、同社の電源構成の8割超を占める火力発電所の稼働率が下がるため、燃料費等の減少が見込まれる。その費用低減効果を年間約600億円と試算した。また、防潮堤等の安全対策に係る建設工事費は長期間にわたり分割されるため、電気料金の値下げへの影響は小さくなると説明した。一方で、将来的な物価上昇に伴う修繕費や諸経費の増加、さらには金利上昇に伴い、社債発行や資金調達時の利息負担の増加が見込まれ、その額を年間約300億円と試算。しかし同社は、「カイゼン活動」と「DX推進」の融合を軸にした生産性向上策を強化し、年間約200億円のコスト削減を行うことで、年間約500億円程度のコスト圧縮を実現できるという。具体的には、カイゼン活動を通じた発電所の定期検査周期の延伸・定期検査費用の低減、遠隔監視、自動巡視点検ロボット等を用いた発電所の運用・保守高度化、生成AIを活用した抜本的な業務見直しなどを掲げた。これらを電気料金の値下げの原資として活用していく考え。
04 Nov 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は10月24日、定例記者会見を行い、電気事業連合会による将来リプレース試算への所感や、「原子力産業セミナー2027」と「第11回東アジア原子力フォーラム」への参加報告などについて語った。会見の冒頭、増井理事長は第46回原子力小委員会で電気事業連合会が提示した「将来的に必要な原子力発電所のリプレース規模に関する試算」について、「試算は穏当なもの。その上で、産業界が未来に希望を持てるよう、中期・長期それぞれの見通しを2段階で提示することが適切だろうと進言した」と述べた。また、同委員会で日本電機工業会が示した原子力産業の基盤維持・強化の取組みに関して、「人材の確保と定着、シニア人材の活用など、原子力産業の基盤維持対策の必要性」について進言し、「限られた人員でも現在と同じ成果を維持すべく、自動化・デジタル技術の活用が重要になる」と発言したことを報告した。続いて、原子力産業界の人材確保を目的とした合同企業説明会「原子力産業セミナー2027」の実施を報告。今年は初めて福岡市でも開催し、参加者は3会場(東京・大阪・福岡)で計564名、出展企業数が前年より約10%増加したという。また、電気電子系や文系学生の参加が増えたことを受け、「参加学生の専攻分布や傾向について、今後さらに分析を進めたい」と述べた。次に、韓国・慶州で開催された第11回東アジア原子力フォーラムへの参加を報告。ここでは、日本、中国、韓国、台湾の関係者が一堂に会し、原子力産業の現状と展望をテーマに意見交換した。韓国からは原子力を維持する国家エネルギー政策の重要性と、安全性強化・資源の制約克服に向けた東アジア地域内での協力の必要性が説かれた。中国からは海外向け原子力事業の拡大方針が示された。台湾からは金山原子力発電所の廃止措置計画の進捗など、将来的な具体的なマイルストーンが発表されたという。日本からは増井理事長が「日本の新規建設プロジェクトにおける重要課題」と題して登壇し、新設に向けた課題と展望を発表した。また同フォーラムの翌日から2日間にわたり、慶州市隣接地域の原子力関連施設などを訪問し、関係者と活発な意見交換を行ったと述べ、今後の同地域の関係者間の連携強化に期待を寄せた。その後、記者から就任直後の高市首相に関連する質問が飛んだ。「次世代革新炉やフュージョンエネルギーの早期の社会実装を目指す」と所信表明演説で発言した高市首相について、「原子力に対する理解が深く、原子力の事業環境整備の進展にも意欲を示されており、非常に力強い存在だと感じる」と述べた。特に、事業環境整備の重要性を長らく進言している同協会にとって、同じ志を持った新首相への信頼は大きく、「政府には今後も一貫性のある原子力政策の推進を期待している」と述べた。
31 Oct 2025
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高市早苗首相は10月28日、訪日中のD・トランプ米大統領と会談し、両国による対米投資を柱とした経済協力の強化で合意した。会談後に公表された「日米間の投資に関する共同ファクトシート」には、エネルギーやAI、重要鉱物など幅広い分野で日本企業が米国のプロジェクトに参画を検討していることが明記された。両首脳は、7月の関税合意を踏まえ、総額5,500億ドル(約84兆円)規模の対米投資枠を設定。そのうち最大2,000億ドルが原子力分野への投資となる見込みだ。日本政府系金融機関の支援も活用し、日米双方の企業による新たなビジネス協力を促進する考えを示した。原子力分野では、ウェスチングハウス(WE)社が米国内で進める大型炉AP1000(PWR、125万kWe)やSMR(小型モジュール炉)の建設計画に対し、三菱重工業、東芝、IHIなどの日本企業が関与を検討している。事業規模は最大1,000億ドル(約15兆円)に達する見通し。また、米国のGEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製のSMR「BWRX-300」(30万kWe)についても、日本の日立GEベルノバニュークリアエナジー社らが関与する構想が盛り込まれた。経済産業省によると、ファクトシートは関心を示した企業の案件を列挙したものであり、投資実行が確定したわけではないという。日米両政府は同日、AIや核融合など7分野の科学技術協力に関する覚書にも署名し、経済・技術両面での連携強化を確認した。
29 Oct 2025
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核融合エネルギーの開発ベンダーであるHelical Fusion(ヘリカルフュージョン)は10月27日、核融合発電に欠かせない「高温超電導コイル」を開発し、実際の核融合炉に近い磁場環境を再現した試験装置において、同コイルの実証(通電)に世界で初めて成功した。この試験環境は、コイル自身が発生させる磁場に加え、外部からの磁場が同時に作用し、磁場を介して電流同士が相互に影響し合う複雑な状態を再現したもの。将来の核融合炉で想定される条件下で大電流を流しても、破損せずに安定して磁場を生み出せることを確認したという。実証に用いられたのは、絶縁体を使わずに製作された「無絶縁型」の高温超伝導コイルで、この方式による大型導体の実証は世界初となった。今回の成功を受け同社は、最終実証装置「Helix HARUKA(ヘリックス・ハルカ)」の製作・建設に着手する。2030年代中にはこの「Helix HARUKA」による統合実証、および世界初の実用発電の達成を目指す。同社は、核融合科学研究所(NIFS)出身の研究者らによるスタートアップ企業で、複雑な形状でプラズマを制御する「ヘリカル方式」を採用している。これは、らせん状に曲げたコイルを用いて強力な磁場のかごを作り、内部に閉じ込めた高温・高圧のガスで持続的に核融合反応を起こし、発生する膨大なエネルギーを発電に利用する。複雑な形状のコイルを用いるため製作の難易度が高い一方、運転時にプラズマに電流を流す必要がないという特長がある。また、高温超電導を使えば、小型の炉でもより強力な磁場を発生させることができるという。同社の田口昂哉代表取締役CEOはウェブサイト上で「今回の達成は、当社だけでなく世界の核融合技術開発において極めて重要なマイルストーンとなった。この歴史的な達成を受けて、我々はいよいよ発電前の最終段階に入った。これは、当社にとどまらず、日本が世界の開発競争において先頭に躍り出たことを意味する」と述べた上で、「これまで70年かけて日本の国立大・国立研で研究されてきた技術を社会実装するために、ますます力を尽くして成功に辿り着きたい」と今後に向けて意欲を示した。
28 Oct 2025
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